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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第375号

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ISASメールマガジン   第375号       【 発行日− 11.11.29 】
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★こんにちは、山本です。

 先週から研究・管理棟大会議場周辺の空調設備の改修が行われています。そのため、展示室が半分になっています。「はやぶさ」・「あかつき」・IKAROS・「かぐや」・MMOの展示物は見学できますが、窮屈そうに並んでいます。

 12月11日(日)までに見学を予定されている方には、ご不便をおかけします。
http://www.isas.jaxa.jp/j/inspection/index.shtml

 懲りずに、二度三度と足を運んでいただければと思っています。

 今週は、宇宙航行システム研究系の小川博之(おがわ・ひろゆき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:BepiColomboの熱平衡試験に参加して
☆02:「すざく」が捉えた銀河団の衝突と合体について
☆03:宇宙竜巻の正体
☆04:赤外線天文衛星「あかり」(ASTRO-F)の運用終了について
☆05:はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:BepiColomboの熱平衡試験に参加して


 9月〜10月にかけてESTEC(ヨーロッパ宇宙機関ESAの研究所)で行われた、国際水星探査計画BepiColomboのESA側モジュール:MPO(Mercury Planetary Orbiter)の熱構造モデルの熱平衡試験に参加してきました。

熱構造モデルは、実際に飛ぶフライトモデルと熱的・構造的に等価なモデルです。今回の熱平衡試験では、LSS(Large Space Simulator)と呼ばれる設備で、水星周回軌道上の環境を模擬して、MPOの熱設計の検証(水星環境で機器が動作する温度に制御できることの確認)をしました。


 ESA側のBepiColomboのプライムコントラクター(主契約業者)はドイツのA社なのですが、BepiColomboの組立や試験、および MPOの開発・製造はイタリアのT社、電気推進モジュールはイギリスのA社、MLI(多層断熱材)はオーストリアのR社など、多くの国の企業が協働しています。(この仕事の振り分けにはヨーロッパの政治的事情が関連しているようです)


 今回の熱平衡試験では、ESA、プライムコントラクターのドイツA社、試験担当およびMPO担当のイタリアT社、それから設備担当のオランダE社が協働しました。参加した人の国籍も、ドイツ人、イタリア人、オランダ人、フランス人とさまざまでした。


 違う会社が協働するのはさぞかし大変だろうと思っていましたが、参加してみると全くそういったことはありませんでした。皆さん英語は普通に話すので問題ありませんでしたし、ヨーロッパでは昔から複数の会社が協働して仕事をしているので、自然に問題なく協働作業ができるのかもしれません。


 私の経験では、複数の会社が一緒に仕事をすると

「これはそちらの領分なので」とか

「これは秘密なので教えられません」とか

「これは他の会社に見せられません」

とか言われることがしょっちゅうです。まぁ確かにそれはそうなのですが、難しいプロジェクトをなんとか成功させようとするときには、それでは困ることも多いです。

情報を持っている会社の人たちだけで何とかしなくてはならず、関係者みんなの叡智を集めることが困難になるためです。


 今回ESTECの熱平衡試験でみたものは、出自に関係なく一つのチームとして一丸となり叡智を結集して難しい熱平衡試験を成功させたチームワークでした。

今回の試験では想定外のことが次々に起こり、その度に試験を続ける/中止するの厳しい判断が求められましたが、チームの叡智を結集し、時間をロスすることなく、試験を成功裏に終えることが出来ました。


 異なった会社、異なった国籍からなるチームが一丸となれた背景には、もちろん参加している人たちの人間性が第一だったと思いますが、「情報の共有」と「技術文書」がしっかりしていたことも重要だったと思います。

熱平衡試験で想定外のことが起こり厳しい判断が求められた時、状況を理解するために必要な情報が技術文書にしっかり書いてあり、それが出自に関係なく皆が閲覧可能であったこと、これが皆を一つの課題に対して叡智を結集することができた大きな要因だったと思います。また出自に関係なく自由に意見を言う・議論する雰囲気も重要でした。


 仕事の進め方や管理の仕方が日本(宇宙研)と大きく違ったところがあり、所謂「紙の仕事」、文書を作成したり文書を読んだりする仕事が大量で、私の目からみて非常に官僚的な印象がありましたが、今回あれはあれで合理的なのだと感じました。仕事の進め方や管理の仕方というのは、実際に実践・運用されている現場にいかないとなかなか理解できないものなのかもしれません。


 今回の試験に参加して得られた経験や知識をBepiColombo/MMOだけでなく、今後の探査機・衛星の開発に生かしていきたいと思います。



余談:

 イタリアのT社の人達は、ESTECでの一連の試験(熱平衡試験、機械環境試験、他)を担当しており、年単位でイタリアから出張状態になっています。イタリアに家族を残し、単身赴任状態の人もいますし、家族を連れてきている人もいます。単身赴任の人は2週間に1回くらい週末に帰るようです。(距離的にはさほど遠くない)

家族を連れてきている人の悩みは子供の教育です。母国との教育の違いもありますが、親の語学も問題です。子供のオランダ語習得は比較的早いらしいのですが、大人の方はそうはいきません。

オランダの人は英語を話すので日常生活に問題はないのですが、逆にそのことがオランダ語の習得を難しくしています。お母さん同士や子供の集まりがあると、オランダ語の会話についていけずにかなりつらい思いをするとのこと。そのためオランダ語を習う決心をした人もいたようです。


 私もオランダ語やイタリア語、ドイツ語、フランス語の挨拶くらいを覚え、レストランなんかで使ってみたのですが、挨拶した後が続きません。挨拶した言葉でワーと言われてしまい、

「ソーリー、イングリッシュ、プリーズ」

通じなくて冷や汗をかきかきしないと、話し言葉の習得は難しいかもしれません。話せなくても、せめて「何を話しているか」は聞きとれるようになりたいと思いましたね。

母国語で悪口言われてもわかりませんので。


(小川博之、おがわ・ひろゆき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※