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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第372号

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ISASメールマガジン   第372号       【 発行日− 11.11.08 】
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★こんにちは、山本です。

 秋は「宇宙学校」のシーズン どこも事前に申込みが必要です。近くにお住まいで参加を予定している方は、早めに申込んでください。

 この間、某アイドルのFMラジオ番組に川口さんが出ていたそうです。(私は モチロン熟睡中の時間帯ですが、知人が教えてくれました。)
 川口さん、守備範囲が広いなぁ

 今週は、宇宙輸送工学研究系の北川幸樹(きたがわ・こうき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙旅行にはハイブリッドロケット
☆02:「あかつき」の近日点における軌道制御の実施について
☆03:宇宙学校・くまもと ー宇宙に夢中!ー(11月19日)
☆04:宇宙学校・にいがた ー宇宙に夢中!ー(11月23日)
☆05:宇宙学校・ひがしまつやま ー宇宙に夢中!ー(12月23日)
☆06:はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:宇宙旅行にはハイブリッドロケット


 2004年6月21日、モハーベ砂漠上空。運搬用飛行機「ホワイトナイト」から切り離されたロケット機「スペースシップワン」はロケットエンジンに点火され、地上で見物する人たちが上げる歓声の中、真っ直ぐ上昇し見えなくなりました。

世界で初めて民間資金による有人宇宙船で宇宙の入口である高度100kmに到達しました。宇宙旅行時代の幕開けの日でした。来年には、ヴァージンギャラクティック社が「ホワイトナイトツー」と「スペースシップツー」による宇宙旅行(高度100km程度の弾道飛行)が開始される予定です。


 宇宙開発は基本的には国が行う大きなプロジェクトでしたが、近年では民間企業が利益のために行う商業的な動きも加わってきています。最近特に注目されているのは宇宙観光業です。宇宙旅行への潜在的な需要は大きいことが様々な調査で明らかになっています。

少し古い情報ですが2001年に米国航空宇宙局(NASA)のために行われたある調査では、旅行の価格は40万ドル、申し込みは年間1万人で、毎年40億ドルの収益を生み出すと見込まれています。

皆さんの中にも、宇宙に行ってみたいと思っている人は多いのではないでしょうか? 将来的には、宇宙への有人飛行回数は著しく増加すること間違いないと思います。


 しかしながら、現在の打ち上げロケットのようにコストが高く、安全性が低いのでは、これらのことを実現することは不可能です。やはり、乗り物なら運賃が安く、事故が起きないのが当たり前のものに乗りたいですよね。

つまり、打ち上げロケットのコストをいかに下げるか、安全性をいかに高めるかが今後のロケット開発の重要な鍵であると思います。さらに、近年では世界的にも環境問題に関心が集まっており、環境性能もロケット開発における重要な要素となっており、これらの厳しい条件を同時に満たすロケットの開発がこれからは必要なのだろうと考えています。


 安全で低コストかつ低公害という条件を満たす次世代有人飛行ロケット用のエンジンとして、推進剤の一方が液体で他方が固体(一般的には液体酸化剤と固体燃料との組み合わせ)であるハイブリッドロケットエンジンが注目されています。

実際、冒頭で述べた民間ロケット機「スペースシップワン」「スペースシップツー」はハイブリッドロケットエンジンを用いています。


 ハイブリッドロケットエンジンの利点として、

・供給系が一つであること、取り扱いの難しい火薬を用いないことから、製造と取り扱いに関わるコストが低い

・酸化剤と燃料を別々に貯蔵している上に、燃料と酸化剤の混合と燃焼が燃料表面付近でしか起こらないため安全性が高い

・適切な酸化剤と燃料を用いれば、排気ガスに塩酸などを含まず環境に優しい

・液体ロケットエンジンより高い密度比推力、固体ロケットエンジンより高い比推力が得られる

・酸化剤の流量調節を行うことで推力制御・停止・再着火が可能である

などが挙げられます。


 しかし、半世紀以上も前から研究や開発が行われているにも関わらず、未だ実用化には至っていません。

ハイブリッドロケットでは、固体の燃料が気化することで酸化剤と混ざり合って燃焼するのですが、気化した燃料と酸化剤は固体燃料の表面から離れたところで燃えるため、固体燃料に伝わる熱が小さくなり、固体の燃料が気化する速度(燃料後退速度)が遅く、大きな推力を得るためには大きなエンジンが必要になってしまうという問題が大きな原因です。

また、固体燃料の表面からしか燃料は気化しないため、固体燃料の表面上を流れる酸化剤となかなか混ざり合っていかず、燃えにくいという欠点もあります。


 これらの問題を解決するために、世界中で多くの研究が進められています。現在、ISASでも国内の大学と連携してハイブリッドロケットの研究グループを作って、こうした問題を解決してハイブリッドロケットを実用化することを目標に研究を進めています。筆者もこのグループに参加して、日々、ハイブリッドロケットエンジンの研究に励んでいます。

まずは、衛星を安く頻繁に打ち上げることのできるロケットを実現することが目標ですが、将来的には、安全性を活かして一般の人でも宇宙に行くことができるロケットを作りたいなと考えています。そのためにも、ハイブリッドロケット技術の発展に貢献できるように頑張っていきたいと思っています。


(北川幸樹、きたがわ・こうき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※