宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASメールマガジン > 2011年 > 第367号

ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第367号

★★☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ISASメールマガジン   第367号       【 発行日− 11.10.04 】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★こんにちは、山本です。

 ISASメールマガジンは、2004年9月に創刊以来7年。
今週号で367号になりました。

 今年30周年のISASニュースは、9月で366号ですので、号数だけならISASニュースを抜きました。
 登場した筆者は、158名。配信者数は、1万600人を超えました。

 これからも、ISASの『今』を 届けていきます。

 読者の皆さん
 応援!ヨロシクお願いします。


 今週は、宇宙科学情報解析研究系の 山本幸生(やまもと・ゆきお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:惑星探査と時間の話
☆02:イプシロンロケット上段サブサイズモータ(M-34SIM-3)地上燃焼試験
☆03:「あかつき」の金星周回軌道投入失敗に係る原因究明と対策について(その4)
☆04:相模原キャンパス見学 臨時休館(11月20日(日))
☆05:はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
───────────────────────────────────


★01:惑星探査と時間の話


 ニュートリノの速度は光速を超えているかも知れない、という実験結果が報告されました(OPERA実験)。

速さ=距離÷時間

ですので、ニュートリノの飛行時間と施設間の距離をどれだけ正確に計測できるかが実験の肝になります。施設の位置は正確に求まりそうですので、超光速が間違っているとすると、飛行時間の計測誤差の可能性があります。

 直感的に

「施設間の時計の同期が問題なのでは?」

と人工衛星や探査機の運用に携わっている人は思ったかも知れません。惑星探査機の運用でも正確な時刻を記録することはとても大事なことですので、今回は時刻に関するマニアックな話をしたいと思います。


 惑星探査機には時を刻むカウンタが搭載されています。ストップウォッチをイメージすると分かりやすいかもしれません。探査機から地上へと送られるテレメトリには、時刻の代わりにこのカウンタの値が含まれています。このカウンタのことをTI(ティーアイ)と言います。


 TIを実際の時刻へと戻せるように、探査機からは時刻パケットを送信します。地上アンテナで受信した時刻から遅延要因を加味して送出時刻を割り出します。こうして計算した時刻とTIの対応表を予め作っておき、テレメトリに含まれるTIを実時刻へと戻します。


 これだけ聞くと意外と簡単に思えるのですが、時刻の問題はとても深く、覚えることがたくさんあります。最も大事なことは
「時間の進み方を表す時刻系」と
「時刻系における時間の表現方法」

の2つを区別することです。


 まずは時刻系について書きたいと思います。


 探査機の運用で用いる時刻系は協定世界時(UTC)が基本です。日本の標準時(JST)とは9時間の時差があります。ちなみにISASの運用室にはUTCとJST両方のデジタル時計が掲げられています。


 UTCは計算を行う上では使いにくい時刻系です。UTCは原子時計を基準とした精密な時刻ですが、人々の生活と密接にかかわっているため、地球の自転とずれすぎないように「うるう秒」で適度に調整されています。

「地球の自転が遅くなって1年が長くなってきたから、今年は1秒追加するね」

といった具合です。不連続なUTCを使って計算したい人はまずいません。


 原子時計を用いた国際原子時(TAI)はUTCのように調整が入りませんので計算しやすいのですが、惑星探査においてはそんなに甘くありません。相対性理論を知っている人なら

「速く移動する物体の中では時間がゆっくり進む」とか

「加速度(重力)が強いと時間がゆっくり流れる」

とか聞いたことがあると思います。地球表面にある原子時計と、惑星探査機に搭載され地球を離れた原子時計とは進み方が異なるのです。


 どこを基準にしても良いのですが、惑星探査では太陽系重心を基準とした太陽系力学時(TDB)が使用されます。特に深宇宙探査では、探査機は太陽系の重心を焦点として楕円軌道を描きます。他の太陽系の惑星の軌道などもTDBを用いて計算されていますので、計算の尺度としては都合が良いのです。


 計算された緯度経度や高度とともに時刻をデータに書き込む場合には、またUTCを使います。したがって大雑把な流れでは

TI(探査機)→UTC(運用時)→TDB(計算時)→UTC(データ保存)

となります。


続いて時刻の表現方法です。


 運用では通算日(Day Of Year;DOY)がよく使われます。
うるう年がない場合、1月1日は001で、12月31日は365です。惑星探査の場合、データに時刻を書き込む際にはISO8601という国際規格を用います。他にも特定の日(Epoch)からの通算日で表した修正ユリウス日もよく使われます。修正ユリウス日は特に注意書きがない場合、時刻系としてTAIを想定していますので、単なる表現方法だけでなく時刻系といっても良いかも知れません。


 ここまで時刻についていろいろと書いてきましたが、時刻はまじめに考えると複雑だということが少し分かって頂けたと思います。今回のOPERA実験の資料[1]を見ながら、本当に光速を超えていたら面白いなぁと思いつつ、第一容疑者である時刻付けを疑っている今日このごろです。


参考資料
[1]Dario Autiero (2011), Measurement of the neutrino velocity with the OPERA detector in the CNGS beam


(山本幸生、やまもと・ゆきお)

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※