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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第362号

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ISASメールマガジン   第362号       【 発行日− 11.08.30 】
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★こんにちは、山本です。

 先週木曜日は、ISAS関連のニュースがメジロオシでした。

 メルマガの編集としては、分散して発表された方が、毎週の編集に変化があってウレシイのですが……
 私の都合より、お知らせすることが多い方がイイに決まっています。

 26日に、一般紙では 社会面で、割と大きく扱われていた「ヒマワリ作戦」(9月にTV放映)ですが、宇宙農業サロンの山下さんに、
「(メルマガに掲載した)その後の様子を書いてください。」
とお願いしてあります。

 近日掲載乞う御期待!

 今週は、宇宙科学情報解析研究系の山本幸生(やまもと・ゆきお)さんです。


── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙科学データの整備
☆02:米科学誌サイエンスが「はやぶさ」特別編集号を発行
☆03:MAXIとSwiftが巨大ブラックホールに星が吸い込まれる瞬間を世界で初めて観測
☆04:電波天文衛星(ASTRO-G)の状況について(報告資料)
☆05:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:宇宙科学データの整備

 大学院時代に

「宇宙科学に限らず、科学と名が付くものは再現性がなければ意味がない」

と教わりました。実験室で行う基礎実験であれば再実験を行えば良いのですが、探査機や人工衛星で取得したデータは、簡単に再実験を行うことができません。

 そのため宇宙という分野においては、取得したデータをきちんと保存し、多くの研究者が利用できるように整備しておくことが特に重要になります。
科学衛星や惑星探査機で取得したデータを、全世界の人々、次世代の人々に伝えるために、使いやすく整備することが私の所属する研究系の目的の一つです。

 今回はこの科学データの整備について説明したいと思います。

 キーワードは「データの保存」と「サービスの提供」です。


データの保存とは?

 もし自分の名前を1000年先まで残したいと考えたらどうしますか?

私なら石に彫ります。

 石であれば風化や腐食にも強そうです。運良くその石が残ったとして、1000年後の人々は、文字が理解できないかも知れませんので、間違った解釈がされないよう工夫が必要です。

 「人の名前である」ということを伝えるには、彫像と一緒に添えるのが良さそうです。

 このように、単に名前を残すためには
「人の名前」と
それを刻んだ「石」、
そして「人の名前であることを連想させる彫像」
の3つが必要となります。

 データを残すのも基本は同じです。
残すべき「データ」と、
それが記録された磁気テープ
やCDなどの「媒体(メディア)」、
さらに「データを説明する資料」
の3つをセットにします。

 約40年前の米国アポロ計画では、データを記録したテープが失われたり、テープから読めなくなったりしています。またデータはあるけれども説明が不十分で、解読が困難なものもあります。3つのセットが全て保存されて、より価値のあるデータとなります。

 一つ重要なことがあります。「研究に用いられるデータは普遍であること」です。彫像と名前の組みが異なってしまっては、誤った結論を導くからです。古いデータを元にした研究が存在する場合には、どんなに素晴らしい解析手法が開発されたとしても、古いデータを新しいデータで上書きする行為はご法度です(実際にはデータの保存容量の限界や明らかに誤りを含んだデータは上書きされたり削除されたりすることもあります)。

 どの世界の、どの時代の研究者にとっても、あいまいさのないデータを提供するためには、3つをセットで保存し、それらの対応関係が普遍であることが必要なのです。


サービスの提供とは?

 石の例をもう一度考えてみます。1000年後の世界では、古代の彫刻をいろいろな人に見て楽しんでもらいたいと考えるでしょう。しかしながらジャングル奥地などの秘境にあっては、多くの人が楽しむことは容易ではありません。美術館や博物館に移動させたり、彫刻が複数見付かれば、名前順や年代順に並べ、受付窓口を設け、来訪者にサービスとして提供します。

 それでは科学データに対するサービスとは何でしょうか。

 一昔前、NASAは各国の宇宙機関に出張所を設けて、そこで宇宙科学のデータに触れられるようにしました(Regional Planetary Image Facilities; RPIF)。
RPIFでは、NASAから送られてきたポスターサイズの惑星画像や、CD-ROMやDVDに格納されたデジタルデータなどを閲覧することができます。

 あまり知られていないのですが、宇宙科学研究所にもRPIFがあります。宇宙科学の研究者にとって、NASAのデータに触れることのできる貴重な拠点でした。RPIFは当時のサービスとしては素晴らしいものでしたが、残念なことに、ほぼ全てのデータにインターネットからアクセスできる今日では、データのためにRPIFを訪れる人はほとんどいなくなりました。ダウンロードするには大きすぎたデータ容量も、今ではそれほど大きいものでもありません。

 必要なデータをインターネット上で検索しダウンロードできる、これが現在主流のサービスとなっています。

 普遍であることが望まれる「データの保存」、
時代と共にその形態が変化する「サービスの提供」、
2つが揃ってこそのデータ整備なのです。

 今私たちが保有するデータを、いかにして残すか、どのようなサービスを提供するか、それが私たち研究系の課題となっています。

(山本幸生、やまもと・ゆきお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※