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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第350号

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ISASメールマガジン   第350号       【 発行日− 11.06.07 】
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★こんにちは、山本です。

 夏日が続いているのに 樹木の多い相模原キャンパスでは、建物の中の方が涼しく感じられます。

 この過ごしやすい感じは、いつまで続いてくれるのでしょうか
 真夏の節電対策に 悩む日々です。

 今週は、大気球研究系の斎藤芳隆(さいとう・よしたか)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:大樹町で
☆02:ソユーズ宇宙船打上げライブ中継 パブリックビューイング
☆03:大気球実験BS11-02終了
☆04:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
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★01:大樹町で

 気球の実験を実施している大樹航空宇宙実験場は十勝平野の海岸沿いに位置し、一帯にはなだらかな平原が広がっている。出張の楽しみの一つは、あたりをジョギングすることである。

 実験場は町の中心部からは15kmほど離れており、時おり、走って帰る。
涼しい風に吹かれ、はるかに日高の山々を眺めながら走るのは、とても壮快だ。


 三陸に出張した時も、内之浦に出張した時も、走りに出かけていた。三陸では、越喜来(おきらい)の宿に戻った後、夕食までの合間がランニングの時間だった。海岸沿いの道路をとなりの崎浜町まで走ったり、峠を登ってはとなりの吉浜湾(よしはまわん)を眺めた。休みの日には、大窪山(おおくぼやま)の一周コースが好きだった。

 内之浦では、実験場と町とを往復したり、足を伸ばして、火崎(ひざき)に出かけたりしたものだった。仕事と家事に挟まれて、なかなか、普段は時間がとれないが、出張の時にはここぞとばかりに走る。


 仕事を終えると、そそくさと着替える。ポケットに、千円札と携帯電話を入れる。Tシャツの上から薄手のトレーナーもはおって走り出す。はじめはゆっくり。なにしろ、普段は走っていないのだ。

 道の両側には牧草地が広がる。天気がよければ、遠く日高の山々が前方に見えるが、今日はあいにくの曇。道産子の子馬が驚いて走っていく。あたりは人気もなく、ひばりのさえずりが低い。途中で降られるかもしれない。

 いろいろな考えが頭の中をめぐる。うまくいかなかった実験のこと、新しい研究のアイディア、明日の仕事のこと。電波塔の下で経過時間を確認する。
少しペースをあげてみる。原稿の〆切のことを思い出す。


 初めてマラソンを走ったのは大学院の一年の時のことだった。大学主催の大会で、高低差500mあるコースだが、それでも猛者は3時間を切る。土日は部活に参加していて体力には自信があったが、途中でへばった。完走したものの強烈な筋肉痛になった。回復には一週間もかかった。同じ学科の年配の教授は平然と走り切った。


 国道とぶつかり左に曲がる。今度はアスファルトから新芽の伸びはじめた歩道を走る。時々、車のエンジン音が響く。もしかしたら、ぼくが一番この歩道を使っているのかもしれない。


 運動する習慣がついたのは、中学の時にソフトテニスを始めてからかもしれない。運動は不得意だったが、長距離だけは人並み以上だった。

「ぼくはまだ筋力が伸びています」

体育の先生の言葉を思い出す。先生は元気にお過ごしだろうか。高校の頃を思い出すのは久しぶりだ。


 道はカーブしながら登りはじめる。トレーナーを脱いで腰に巻く。ひたすらに走る。峠にたどりつくと、はるかに大樹の沃野が広がる。道はゆるやかな下り坂へ。しばらく、何も考えずに走っていたことに気づく。


 坂のふもとには、コース唯一の信号と、自動販売機がある。500mlのスポーツ飲料を買う。飲みながら歩きはじめる。むこうからきた車が脇で停った。
実験を手伝ってもらっている大樹の若者たちだった。二言三言、話して別れる。
少し寒い。ペットボトルを片手にまた走り出す。


 そういえば、あの地震の夜も寒かった。夜中にたどり着いた実家で、子供たちは大歓迎だった。走れてよかったとも思ったし、完走できる体力が欲しいとも思った。三陸の人達はどうしているだろうか。懐しい顔が浮ぶ。その無念はいかばかりか。


 ああ、降ってきた。大きなふきの葉がパラパラと音をたてる。こちらの植物はみな大柄だ。たんぽぽの花ですら5cmほどもある。またトレーナーをはおる。


 道はひたすらにまっすぐ。はるかに見える角から現れた車が少しづつ、本当に少しづつ大きくなり、スピードをあげるようにして脇を走りぬける。少しペースをあげ、道路の距離表示が減るのを励みにひたすら走る。


 ゆるやかなカーブを曲がると、町の入口まで、あとはまっすぐ。晴れた日には、4kmも先からウインカーの点滅が見えるが、今日は雨。微かな枯れ草の匂いに包まれる。少し疲れてきた。


 ようやく町の入口にたどりつく。最後は歴舟川(れきふねがわ)にかかる橋。ここでラストスパート。渡り終えたところで腕時計をのぞきこむ。ちょっと今日は遅かった。ホテルまで歩いてクールダウン。火照った体に小降りの雨が心地よい。戻って、早速、風呂につかる。ああ、これだからやめられないよな、と思う。


(斎藤芳隆、さいとう・よしたか)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※