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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第340号

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ISASメールマガジン   第340号       【 発行日− 11.03.29 】
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★こんにちは、山本です。

 相模原キャンパス展示室の一般公開を、4月4日(月)から再開します。
ただし、計画停電実施期間中は、月〜金の平日のみとなります。
土・日・祝日は閉館します。

見学時間は、計画停電のスケジュールにより変わります。
停電が中止された場合は、通常通り開館します。

【東日本大震災 義援金ご協力のお願い】
 @nifty Web募金サービスにオリジナル壁紙を提供しました。
災害救援活動へのご支援、よろしくお願いします。
新しいウィンドウが開きます http://donation.nifty.com/tokusetsu/

 Web募金用のJAXAオリジナル壁紙は、
(1)宇宙機キャラクターたちのイラスト
(2)「はやぶさ」CG 《川口プロジェクトマネージャーのメッセージ入り》
(3)「こうのとり」写真(2枚)
です。その他も現在、準備中です。よろしくお願いします。

 やっと東京でサクラの開花宣言が出されましたが、ISASはまだツボミです。

 今週は、宇宙輸送工学研究系の細田聡史(ほそだ・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:北国へのエール(北国訪問記 改め)
☆02:宇宙科学研究所長からのメッセージ
☆03:「あかり」が描き出す赤色巨星の塵の衣
☆04:「すざく」が明らかにした ペルセウス銀河団の観測
☆05:「ひので:」今サイクル初の巨大フレアを観測
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★01:北国へのエール(北国訪問記 改め)

 本メルマガの執筆に先立ち、この度の震災で犠牲となった方々に、心からお悔やみを申し上げます。そして現在も日常を取り戻すために一生懸命過ごしている人達に、心からのエールを贈りたいと思います。

−−−

 先日、15年来の好物である麦芽入り豆乳飲料(※1)を宇宙研生協に買いに行ったらメルマガ担当の山本さんと目が合ってしまいまして、目を逸らそうと思ったあたりから記憶が曖昧で、気がついたら再びメルマガ執筆を約束していました。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなものじゃ断じて無いです。山本さんの追尾能力とコマンドを通す能力は臼田64mアンテナにも決してひけをとらないと思った次第です。

 しかも矢野さんの半生を振り返る感動的な文章のせいでハードルの上がり方が普通ではありません。川口先生のはやぶさ関係者メッセージ『「はやぶさ」、そうまでして君は』の次に原稿を依頼されていた吉川先生の気持ちが少しわかった気がします(吉川先生のメッセージ『涙、涙、涙・・・』も名文だと思います)

で、私も対抗して…


−『貴様にひとつ、重大な任務を託したい。』

『3億キロ彼方にある探査機のエンジンに火を入れ、太陽風の海を単機翔破せよ。』−

「2007年1月に着任したばかりの新米細田は、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。小惑星探査機はやぶさは「此機宇宙翔百億里に及ぶ」翼を持った宇宙船。そのはやぶさと自分のごときポスドク(※2)が、ふたりきりでイオンエンジンのお守り!? −圧倒的攻撃力(嘘)の太陽輻射トルクがちいさなマイクロ波放電型イオンエンジン ミュー・テンに襲いかかる!穏やかな太陽風の吹く惑星間空間にきらめいた、変と技術の物語。」


…という「とあるIES担当への追憶」というSF(微妙にノンフィクション)でも書こうかと思いましたが、私の遅筆ではおよそ締切りに間に合いそうにありません。それはまたの機会ということにさせて頂き、今回は「はやぶさ」に関する講演活動を少し振り返ろうと思います。


 2010年は「はやぶさ」の認知度が上がるにつれ、数多くの講演の機会をいただきました。東京での講演が多かったのですが、新潟、福岡、熊本、沖縄などの場所でもお話しをさせて頂きました。講演内容への反応や質問などはそれぞれの地方ごとに特色があって、とても面白かったです。

 東京近郊はどの講演でも会場が一杯に埋まるほど盛況でした。聴衆は親子連れが目立ち、教育への高い関心を感じました。また都心ではJAXA主催のイベントや色々な方の講演が行われていることもあり、「よく勉強しているなー」と思わず感心してしまう質問が多くて驚かされました。

 福岡は学会の招待講演でお邪魔しました。多数のプラズマ・核融合の専門家の前で若造が講演するというとても講師の心臓に悪いイベントでしたが、どの先生からも輝くような瞳で質問やコメントを頂くことができ、一研究者として多くの科学者・技術者魂を刺激できたことに喜びを感じました。

 熊本は県南部の八代の熊本高専で講演させて頂きました。こちらの都合で直前の告知になったのにも関わらず、老若男女を問わず多くの方の参加を頂きました。聞けば熊本の県南部ではあまりこうした講演会が無いようで、多くの人が情報を得る機会を求めていたようです。また高専という場所柄か、技術者としての考え方や心構えのような質問も飛び、活発な意見交換ができました。

 沖縄にはご縁があり2度も伺うことが出来ました。冬の夜でも暖かい沖縄は星を眺めるには絶好の場所ですね。ただ、沖縄には科学館が存在しないらしく、せっかく芽生えた科学への好奇心をつなぎ止めるのが難しいのだと悔しそうに話してくれた博物館職員の言葉が忘れられません(なので、6月に沖縄で開催される国際学会に合わせてまた協力に行く予定です)。で、今回特に紹介したかったのが、2010年の11月に講演に行った新潟県十日町市の想い出です。


 新潟県十日町市は長野県との県境にほど近い県南部に位置し、関田山地と魚沼丘陵に挟まれた山間盆地にあります。Googleマップなどの衛星写真で見るとよく分かりますが、そびえる山々を縫って流れる信濃川流域にある僅かな平地で、周囲を完全に山に囲まれています。関東平野に住んでいると忘れがちですが、日本が山ばかりであることを改めて認識させられますね。このような立地へのアクセスは容易ではありませんが(※3)、世紀の難工事と呼ばれた鍋立山(なべたちやま)トンネルを通る北越急行ほくほく線の開通によって直江津から越後湯沢までが一直線に繋がり、上野から僅か2時間で到着しました(※4)。

 十日町辺りは縄文土器が数多く出土することで有名で、市内の博物館には国宝の火焔型土器も展示してあります。決して大きな街ではありませんが、名産品である織物・着物は飛鳥時代からの歴史を持ち、現在の生産規模は京都に次ぐというのですから恐れ入ります(※5)。

 また着物のような伝統の品に取り組むだけでなく、ソフトウェアベンチャーがあったり、おそば屋さんにEVスタンド(電気自動車充電スタンド)があったり、昭和初期にすでに写真館があったりと、限られたリソースの中でも未来を見据えてイノベーションに取り組む逞しさを感じました。

 そして十日町のもう一つの代名詞といえば日本有数の豪雪地帯であることですね。我々も「はやぶさ」運用の際には、臼田局の僅かな雪や雨に気を遣いながら運用していましたが、この街には通常時でも背丈以上、多い時では5m(!)も積もるというのですから驚きました。ここに深宇宙局を建設するのは諦めざるを得ません。そのためか、街には3階建の住宅が目立ちました(1階は普通に雪に埋まるそうです・・・)。町中の除雪対策は完璧で、消雪パイプやロードヒーティングのほか、商店街の店同士が軒先をつなげてアーケードを作ったり、朝の決まった時間に皆で一斉に除雪をして流雪溝に雪を流すなど、チームワークで生活していることを伺いました。また十日町は雪祭り発祥の地でもあります(札幌の方が有名になってしまいましたが)。普段は生活を脅かす雪を娯楽とし、自然と共生する努力をしていることに強い感銘を覚えました。

 講演は市立十日町小学校でやらせて頂きましたが、この学校がかなりの高台にあります。小学生は1年生でも雪の坂道を延々と登らなければなりません。また既に肌寒い体育館で、小学校低学年にはちょっと難しい話を1時間近くもじっと座って一生懸命話を聞いてくれました。皆さん非常に我慢強く根性があります。

 また我慢強いだけでなく、事前に取ったアンケートでは科学に高い関心を持っていることも分かりました。『うちゅうで思いつくもの』というアンケートへの回答を羅列してみましょう。

「ロケット、太陽系、月、UFO、宇宙人、星(恒星)、ブラックホール、人工衛星、宇宙戦艦ヤマト、銀河鉄道999、銀河系、ガンダム、隕石、はやぶさ、あかつき、流星群、宇宙飛行士、スペースシャトル、ホワイトホール、ドラゴンボール、大気圏、流れ星、彗星、おりひめ・ひこぼし、プラネタリウム、星座、夏の大三角形、天の川、アンドロメダ、無重力、膨大な世界、青い空、地球がきれい、地球破壊、人類滅亡、太陽フレア、酸素がない、限りない・果てしない、真っ暗、NASA、JAXA、ビッグバン、ウルトラマン、宇宙の歴史、地球にとって欠かせない物、赤や青の星、インフレーション、リゲル、不思議、行ってみたい、十光年、宇宙ステーション、宇宙食、宇宙線・紫外線・放射線、宇宙開発、コロニー」

などなど、よくぞこれだけ!というほどバラエティーに富んだ回答が得られました(惑星では土星が一番人気でした)。特に小学校中学年以上になると宇宙への疑問や難しい単語などが書かれており、未知へのワクワク感をひしひしと感じました。また文字だけでなく綺麗な絵もたくさん描いて貰いました。メルマガでなかったら見せられるのに残念です。楽しく質疑応答をして学校を後にしました。


 十日町を訪問して、この街の人達の暮らし方、すなわち
「チームプレーに長けて、辛抱強く、自然現象に無理に逆らわず、先人の知恵を活かしつつイノベーションに取り組む」
というものは、我々の行っている深宇宙機運用にとって重要なエッセンスと全く同じです。北国に暮らす人は宇宙探査にうってつけの人材であると思いました(そういえば我々のプロマネも青森出身でしたね)。


 現在計画中の「はやぶさ」2号機は2014年打ち上げ・2020年帰還を目指して日々準備を進めています。いま小学6年生の皆さんは「はやぶさ」2号機が地球に戻ってくる時はちょうど大学4年生くらいですね。今から勉強すると「はやぶさ」2号機が持ち帰ったサンプルの解析の研究ができるかもしれません。あるいは「はやぶさ」3号機の開発や木星に向けたソーラーセイルの開発にだって参加できそうです。

 僕たちの拓く未来を一緒に歩かないか?

 待ってるぞ、未来の博士達!


<文中の注釈>

※1:コーヒー味のやつです。

※2:ポスドクとは博士号取得後に期限付きの職務に就いている研究者のこと。

※3:時間さえ許せば飯山線でゆっくりと移動したかったです。

※4:全線の7割をトンネルが占めます。特急「はくたか」にも乗りましたが鍋立山トンネル高速進行を体験できず悔いが残りました。でも帰りの鈍行で美佐島駅が見られたので満足です。

※5:もちろん魚沼産コシヒカリも 冷たいへぎ蕎麦も 日本酒も 抜群に美味しかったです。ごちそうさまでした。


<あとがきに変えて>

 「はやぶさ」のインターネットアウトリーチや講演活動を通して、『言葉には力がある』という事をひしひしと感じています。この度の東日本大震災で十日町市の付近も被災していると聞きました。中越地震の傷も癒えぬ中、また被災の報道も十分されない中で懸命に頑張っていることでしょう。またきっと明るい話題を届けに行きます!

 新潟だけでなく、呼ばれたらどこにだって馳せ参じます。この国が未来へ向かうための勇気をちょっとだけでも届けられれば、これに勝る喜びはありません。また、鉄道、原発、消防、警察、自衛隊関係者ほか、自身のご家族のことを投げ打ってでも復旧に尽くされている方が多数いらっしゃいます。心から敬服すると共に、私も日本の復興のために自分の出来ることから頑張る所存です。


(細田聡史、ほそだ・さとし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※