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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第314号

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ISASメールマガジン   第314号       【 発行日− 10.09.28 】
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★こんにちは、山本です。

 台風一過、真夏から急に秋になってしまった相模原キャンパス。今度は秋の長雨のシーズンになったようで、天気予報では雨や曇りのマークが続いています。見学に来られたときに、傘を忘れないようにお願いします。

 今週は、宇宙構造・材料工学研究系の竹内伸介(たけうち・しんすけ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ロケットの軽量化/複合材モーターケース
☆02:宇宙学校・なすこうげん 〜宇宙に夢中!〜(10月9日(土))
☆03:宇宙学校・さっぽろ 〜宇宙に夢中!〜(10月23日(土))
☆04:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール
☆05:相模原キャンパス見学、臨時休館のお知らせ
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★01:ロケットの軽量化/複合材モーターケース

 2年ほど前に軽く、強く物を作るという事について少しお話をさせて頂きましたが、今回は具体的にどういう例があるか、私が行っている研究から一つご紹介したいと思います。皆さんも耳にされる事があると思いますが、最近は炭素の繊維(カーボンファイバー)やガラスの繊維(グラスファイバー)を樹脂(プラスチック)で固めた複合材という材料があります。炭素繊維は見かけは黒色の糸ですが、糸の方向にはとても強く、例えばある材料では重さはアルミの半分以下と軽いのに、同じ太さのアルミより10倍位大きな力まで切れないという、とても強い材料です。この炭素繊維をうまく使うと、色々な物を軽く強く作る事ができます。

 しかし炭素繊維は糸ですので、引っ張る方向には強いですが、押す方向或いは横方向にはほとんど力を支えられません。ですので、炭素繊維で物を作る際には色々工夫が必要です。最も良く使われている例が、色々な方向に炭素繊維を向けてプラスチックで固める事で、こうする事で横方向・押す方向の力を色々な方向の炭素繊維の協力とプラスチックで支えられる様になります。これを炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Rainforced Plastic:CFRP)と呼んでいます。また炭素だけに限らず、ガラスやケブラーなどの繊維をプラ スチックで固めた材料をひっくるめて複合材と呼びます。皆さんの身の周りでは、例えば釣竿やゴルフクラブのシャフトなど、軽くて強くしなやかな必要がある箇所に良く使われています。

 さてこの複合材、先に書いた様に軽くて強い材料ですので、当然軽量化のためにロケットなどでも積極的に使う事が進められて来ています。分かりやすく、また複合材の特性を生かした適用例の一つが、固体ロケットの容器(モーターケース)です。固体ロケットは容器の中で火薬を燃やして、そのガスを吹き出して飛びます。この容器は中から膨らもうとする力がかかりますので、その周りに炭素繊維の糸を鞠の様にうまくぐるぐる巻いてやると、繊維の方向に引っ張る力だけが作用して他の方向にほとんど力がかからない状態を作る事ができ、結果的に容器がとても軽く出来ます。固体ロケットの1、2、3段などと呼ばれている箇所は実はほとんどが中に火薬が詰まった容器なので、こうする事でロケット全体が軽くなります。この技術は Filament Winding と呼ばれていて、固体ロケットを作る際にとても重要な技術です。

 では液体ロケットではどうでしょう。液体ロケットも実は胴体のほとんどはがらんどうの燃料タンクで、このタンクを複合材で作れば軽くできます。でも液体ロケットの燃料は、ケロシン(灯油)などの常温の場合もありますが、多くは液体水素・液体酸素といったとても温度が低い物質です。こういう物質を単純に複合材の容器に入れると、複合材をまとめているプラスチックが温度が低くなって割れてしまい、繊維は当然スカスカなので、中の燃料が漏れてきてしまいます。と言う訳で、残念ながら単純には液体ロケットのタンクには複合材は使えません。これを使えるようにするのが私がやっている最新の研究ですが、余り紙面の余裕もありませんので、これはまた機会があるときにご紹介したいと思います。

 最後まで読んで頂きどうもありがとうございました。

(竹内伸介、たけうち・しんすけ)

ISASメールマガジン223号
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2008/back223.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※