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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第303号

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ISASメールマガジン   第303号       【 発行日− 10.07.13 】
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★こんにちは、山本です。

 相模原キャンパスの特別公開で「はやぶさ」カプセルの展示が発表されたところ、ある人に友人から問い合わせがありました。
「始発で行けば、カプセルを見ることが出来る?」
それは、わかりませんが、「はやぶさ」のカプセルが展示されるのは、相模原キャンパスだけではありません。暑い中、無理せず 公開にお出かけください。

 今週は、ミッション機器系グループの上野宗孝(うえの・むねたか)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:あかつきの車窓から
☆02:「はやぶさ」サンプルコンテナに微粒子確認
☆03:「はやぶさ」カプセル等の展示スケジュール【7月8日現在】
☆04:「IKAROS」ソーラーセイルによる加速を確認
☆05:「あかつき」がセラミックスラスターの世界初の軌道上実証に成功!
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★01:あかつきの車窓から


「まるで弾丸に乗っているみたいだな、博士。」
「まあ、そんなもんじゃ。今回はわしらを打ち出した大砲も打ち手の腕も抜群だったようじゃがな。」
「全くだ。このまま金星に一直線とは、俺の腕と勝負できる奴らだぜ。」
「打ち上げを重ねてきておるからな、腕を上げておるんじゃ。」

「ところで、さっきから何をゴソゴソとしてるんです、俺たちは金星に行って観測するのが仕事だと聞いてたんですぜ。」
「観測の準備に決まっておるじゃろ、さーて、手伝ってもらおうか。」
「観測って、まだ金星に着くまで半年ほどはあるぜ博士。」
「着くまでにも観測をするんじゃ。」
「途中に何かあるとでも言うんですか、博士。」
「ああ、ある。わしらの太陽系は、どこもかしこも何もない所なんてないんじゃ。窓の外から外を見てみろ。」

「地球があんなに暗くなっちまってるぜ。金星とおんなじだ。」
「それ以外にも見えるじゃろ。」
「ああ、星が死ぬほど見えてきたぜ、それに天の川ってこんなに見事だとは知らなかったぜ。」
「他にも見えるじゃろ、太陽と反対側を見てみるんじゃ。」
「博士、窓が曇ってるのか、何だかぼんやりと明るい所があるのが見えるけどな。」
「窓は打ち上げ前に拭いてある。それはわしらの太陽系にある固体微粒子が太陽光を反射して見えているんじゃ。」
「固体微粒子?」
「そうじゃ、専門家の間では惑星間塵とかダストとか呼ばれておる。そしてそのぼんやりと拡がった光は黄道光と言う名で呼ばれており、お前が見たぼんやりとした点は対日照と呼ばれておる現象じゃ。地球上でも空が暗いとこなら見える現象じゃぞ。」
「まあ何だか知らないが、俺らの太陽系の中にはそんなものもあったのか。」
「ああ、わしらの太陽系はまだまだ分からないことだらけじゃ。今わしらが見ている惑星間塵も、太陽系ができた時からあるんじゃ無いことも確かじゃ。」

「何の事か判らないぜ博士。」
「いいか、わしらの太陽系は生まれてから46億年ほど経つ。」
「俺達には関係の無い長さだな。」
「まあ聞け、今わしらの前を漂っているダストは、それに比べるとはるかに寿命が短いんじゃ。」
「寿命が短いって、その固体微粒子とやらに寿命があるってえのかい?」
「ああ、あるんじゃ。そのダストには太陽からの光や粒子が衝突する事で、回転の運動が遅くなるんじゃ。そのため、ゆっくりじゃが着実に太陽に向かって沈んで行く。地球の辺りにある、そうじゃな例えば1μmほどのダストは1万年もすりゃ、太陽に落ち込む計算になる。」

「どっちにしても気の遠くなるような時間だな。俺には興味が無いぜ。」
「まあ辛抱して聞け、1万年で無くなる物が、わしらの目の前にあると言う事は、太陽が生まれた後も、生まれ続けている事になる。」
「生み続けるって、そーんな奇特な奴がいるんだね、博士みたいなやつだなきっと。」
「いやもちろん人間ではない、これらのダストは彗星とか小惑星から生まれてきておると考えられとるんじゃ。」
「彗星ってえと、あのハレーとかいうやつは聞いた事があるぜ。あいつがばらまいてるんだな。」
「そうじゃ、ハレーのような短周期彗星が大半をまき散らしていると言われておる。」

「そして小惑星なら知ってるぜ、イトカワみたいなやつだろ。」
「そう言えば、お前は『はやぶさ』を志願していたんじゃったな、『はやぶさ』志願のお前が何故こんな片道切符の船に乗ったんじゃ。」
「それは博士の・・・、いや何でもない。」
「まあ話は追々聞こう、まだまだ金星は先じゃからな。」
「彗星はともかく、あんなイトカワみたいなやつからダストが出てくるんですかい?」

「小惑星から湧き出す物もたまにあるようじゃが、ほとんどは衝突で壊れた小惑星が供給していると考えられておる。大きな小惑星が衝突した時に壊れて破片ができると、大きな破片は小さな小惑星となり、グループを作ってファミリーと呼ばれるようになる。しかし小さなダストは段々と太陽に向かって落ち込むんじゃ。その時、元の小惑星の公転軌道から徐々に落ち込んで行くので、帯のように連なったベルトができると言われておる。この帯は、赤外線を観測する天文衛星あかりでも見えておったのじゃぞ。」

「何だか俺は眠くなりそうだな。しっかし、そんなことは良いけど博士、何だかこの船は冷えて来てねえかい、俺達は金星に向かってんだろ。」
「そうじゃ、しかしこの船は今太陽から遠ざかっておるのじゃ。」
「そんな馬鹿な。」
「いや、この船は最初地球を旅立つ時に、少しだけ太陽から遠ざかる方向に打ち出されておるんじゃ。その後、徐々に楕円軌道を描きながら金星に向かうと言う寸法じゃ。じゃから今は段々と寒くなっておる。特にこの船は金星仕様じゃからな、これからしばらくは、太陽電池の電力もぎりぎりで、暖房もそれほど入れる事ができん。」

「それじゃあ、ますますこれから冷えるってんだな。俺は寒いのは好きじゃねえ。」
「わしも好きではないが、仕方がない。おかげでカメラを動かせるようになるのは、船が地球の辺りの太陽距離ぐらいまで戻ってくる8月の末頃にならんといかんのじゃ。しかし、その時に慌てんで良いように、こうして確認をしているんじゃ。」
「それで地球を出た時の記念に撮った地球の姿が唯一の、」
「そうじゃ、あのデータは地上では重要な情報になっているはずじゃ。まあカメラが無事に動くと言う事が判っただけでも重要じゃったはずじゃがな。」

「そんなもんかね。それでカメラが動くようになったら、その黄道光にシャッターを切ると言うんだな。」
「それだけでは無い、天の川の星もねらう予定じゃ。そうするとカメラの性能がきちんと判ると言うわけじゃからのぅ。」
「まあいいや、俺はしばらく寝ちまうぜ。」
「ああ、手が要るようになったら叩き起こすから、それまでゆっくり寝ておけ。準備はわし一人で十分じゃ。」
「まったく元気な爺さんだぜ、それじゃあな。」


(上野宗孝、うえの・むねたか)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※