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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第301号

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ISASメールマガジン   第301号       【 発行日− 10.06.29 】
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★こんにちは、山本です。

 毎日 蒸し暑い日が続いています。27日は、熱帯夜でした。サッカーのW杯と合わせて寝不足が続いているかたが多いのではないでしょうか。(誰です!自分のことだろうと言っているのは 笑)

 このところ、「はやぶさ」「あかつき」「IKAROS」の話題が満載だったメルマガですが、今回は、『ISASはそれだけじゃない』という話題を書いていただきました。

 今週は、宇宙情報・エネルギー工学研究系の齋藤宏文(さいとう・ひろぶみ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:小型衛星「れいめい」の開発を振り返る
☆02:「はやぶさ」サンプルコンテナ開封作業を開始
☆03:「IKAROS」分離カメラ1の撮像実験成功!
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★01:小型衛星「れいめい」の開発を振り返る −軌道上5年目を迎えて−


 このたび、2005年に打ち上げられたオーロラ観測をする小型科学衛星「れいめい」が、日本航空宇宙学会の2009年度技術賞(プロジェクト部門)を頂くことになりました。「れいめい」の開発は,宇宙研の中で正式な仕事となかなか認められず、ゲリラのように小型衛星を作り続けていたのですが、打ち上げて5年も経過しても、元気に3軸衛星のオーロラ観測を継続しており、低価格、高機能、そして高信頼性という3拍子そろった点が、学会から表彰されたということで、喜びひとしおです。

 「れいめい」は、70kgの小型衛星で、オーロラの精密観測のために、姿勢制御精度約3分角の3軸制御を備えているにもかかわらず、開発コストは中大型衛星よりもはるかに低い4億円強です。


 「れいめい」は、1990年代末ごろ、INDEXという名称でスタートしました。その目的は、オーロラの観測という科学目的以外に、高機能で低価格な3軸姿勢制御の小型衛星技術を日本で確立する目的で立案され、若手のスタッフの技術力を向上させることを強く意識して、メーカーができないような小型衛星を宇宙研スタッフと、学生さんと、ベンチャー企業で開発する事になりました。

 カプセルが地球に帰還した話題の小惑星探査機「はやぶさ」の開発に、私も1990年代後半に携わっていました。私の専門が電気関係であり、数億キロメーターの超遠距離での通信を行う通信機器を新規に開発し、「はやぶさ」に搭載する予定でした。しかし、担当の衛星メーカーが、次第にこの通信機器に関しては腰砕けになってきて、重量も大きく、時代遅れの旧来の機器に戻すことになり、大変、がっかりした覚えがあります。この事が契機になり、大企業に頼らずとも、できるだけ、自分たちで衛星搭載機器や衛星そのものを開発できるようにしたいと思うようになりました。


 加えて、自分たちで衛星を開発するパートナーとして、若い学生さんたちとの交流が始まりました。それまでも私の研究室では、自由電子レーザーという電子ビームを用いた電磁波発生の物理的な実験を行っていました。そこでいろいろな大学の学生さんと一緒に実験をしていました。その研究の方向を人工衛星の開発の方へかじを切っていきました。
人工衛星をつくろう!
と呼びかけて色々な大学から学生さんが集まってきました。

 一人目の学生さん(今、ソニーでゲーム機の開発をばりばりやっています)とは、まず、衛星の模型をアクリルと発泡スチロールで作りました。機器のサイズ、重量、重心、慣性モーメントの計算などを計算しました。そのうち、CADを使いこなそうということになり、計算機上で3次元の衛星設計に移行していきました。

 宇宙で使用するプロセッサーは、宇宙の放射線粒子が衝突すると、電気的な雑音が短時間発生し、一時的な誤動作をします。これを防止するために、いろいろ工夫をした計算機ボードを開発しました。そのボードの開発や、人工衛星に搭載するソフトウェアの開発に、学生さんも活躍しました。ソフトウェアの点では、人工衛星とゲーム機や携帯と大きな違いはありません。通信する機能を通して外部の機器を制御したり、計算処理をして、メモリーとやりとりする。
卒業生の中には、携帯やゲーム機のメーカーに就職した人が数多くいます。


 アナログ的な電子機器、衛星の構造については、小さいベンチャー企業の方々と付き合いました。小さい企業にはいろいろなタイプの方がいますが、一緒に働いて気持ちのいいベンチャーの方々と巡り合えました。中には、大企業の技術者よりもはるかに高い技術力をお持ちになっている“匠(たくみ)”のような方もおいでになります。こういう人々と出会えたのは幸せでした。

 小さいベンチャー企業ということですが、一方、大きな規模の企業には、中には、優秀な技術者がいらっしゃる半面、経営的に不利なことはできなくなるという厳しい締め付けがあるようです。また大企業は、大きな工場設備を維持したり、(大きな声ではいえませんが)内部であまり働いていない人の給与まで積まないといけないので、どうしてもコスト高になりがちです。大企業の内部の仕事のやり方が分業制になっているため、宇宙のような少量多品種の生産では、それが裏目にでて仕事にかかる時間が長くなる という問題も抱えています。こういう状況ですから、大企業は“ものつくり”を外部の下請け、孫請けの中小企業に投げて、金勘定ばかりに走るようになっています。これにより、大企業にはあまり実際の技術が継承されていない という現実があるようです。

 こういう“物つくり”離れは、日本全体の風潮であり、宇宙だけではないわけですが、私は、小型衛星を通じて、ぜひ、日本の工学や産業、特に、電気産業に、活気をもたらしたいと思っています。


 「れいめい」は、2005年8月にドニエプルロケットで打ち上げられ、5年弱経過した現在でも、毎日、新A棟屋上に設置されている3mアンテナにオーロラの科学観測データを伝送してきています。毎日、衛星からの観測データを受信したり、観測する計画を送るための運用作業も工夫をしています。
各地に分散しているオーロラの科学者からの観測の希望をとりまとめて、1週間分の計画をつくったり、それが正しい内容になっていることを検証するソフトウェアも整備しています。少ない予算なので、学生さんや秘書さんにも毎日当番で衛星運用をしてもらっています。アンテナが衛星を向き、衛星からの信号を受信して、用意していたコマンドを送信するのを、自動的にできるような仕組みを作っています。


 「れいめい」は小型ながらも0.05度という高い3軸姿勢制御機能を持ち、この重量クラスの衛星としては世界トップクラスの高機能衛星である点が、今回、航空宇宙学会に評価された点であると想像します。この受賞は、「れいめい」の考え方や技術蓄積を日本に定着させる事が次のミッション(使命)なのですよ という趣旨のようにも思えています。

(齋藤宏文、さいとう・ひろぶみ)

「れいめい」プロジェクトサイト
新しいウィンドウが開きます http://www.index.isas.ac.jp/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※