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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第283号

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ISASメールマガジン   第283号       【 発行日− 10.02.23 】
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★こんにちは、山本です。

 今年の関東地方南部はよく雪が降りますが、これは低気圧の通過によるもので、春が近づいてきている印のようです。

 デモ 陽が差さないと やっぱり寒いです。

 今週は、熱グループの岩田直子(いわた・なおこ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:忘れられない言葉
☆02:みんなで金星を観察しよう「いちばん星みーつけた」キャンペーン
☆03:「はやぶさ」軌道情報
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:忘れられない言葉

 宇宙のことを思う上で、忘れられない言葉があります。その言葉を私にかけてくれた人のことは、もうはっきりとは思い出せません。しかし、今でも、その言葉の持つ意味を考え続けています。私がJAXAにいる理由の1つは、その言葉が忘れられないからです。

 小学生の頃、星座を覚えたり見つけたりすることを通して、宇宙が大好きになりました。しばらくして毛利さんや向井さんの存在を知り、「宇宙で活躍できる職業があるなんて!」と驚き、宇宙飛行士になりたいと強く思うようになりました。以来、「宇宙飛行士になるためにはどうすればいいか」ということを考えながら生きてきました。宇宙飛行士の中でも、スペースシャトルの操縦をしたり、国際宇宙ステーションの組立や操作をしたりする人になりたかったので、機械工学系の素養が必要だろうと思い、大学は工学部に進もうと決めました。ただ、宇宙飛行士を目指しておきながら情けないことに、数学と物理が 大の苦手で、唯一得意なのは国語という全く理系に向いていない頭だったため、大変な苦労をしました(今でも…)。

 なんとか工学部に入ることができ、学生生活を送っていたある年のこと。春休みに1人でインドを旅行しました(当時は、何故か「学生時代にはインドに行かなくては」と思い込んでいました)。今から7年ほど前のことです。1人で旅をしていると、「どこから来たの?」などと現地の人によく話しかけられました。特に、列車での長時間の移動の際には、周りの人たちと話す機会がたくさんありました。

 あれは確か、アーマダバードからベナレス(現ヴァラナシ)へと向かう2等列車の中だったと思います。向かいの席にいたインド人男性と会話をしていました。私が日本人の学生だと知ると、「どんな勉強をしているの?将来は何になりたいの?」と彼は聞きました。私が、航空宇宙工学の勉強をしていて将来は宇宙飛行士になりたいと答えると、彼はこう言いました。
「日本人はいいよね。」

「宇宙に行くという夢が持てる日本人が羨ましい。貧しい自分たちにとってはあまりにも非現実的過ぎて、宇宙に行きたいという夢すら持つことが出来ない。」

 私は、彼の言葉に何も返すことが出来ませんでした。恥ずかしながら、それまで、宇宙を目指せるのは自分が偶々豊かな国日本に生まれたから、とは考えたことがなかったのです。いつか宇宙に行きたいという夢が幼かった自分をどんなにわくわくさせ、絶対に宇宙飛行士になるんだという思いがこれまでどんなに自分を支えてきたか。そのことを考えると、「夢すら持てない」という言葉はあまりに衝撃的でした。日本に帰ってからも、「では、どうすればよいのか? 自分に出来ることは何なのか?」ということを考え続けました。

 例えば、世界で相対的にみて貧しいと思われる国が豊かになるよう技術的・経済的支援を行う、などの方法もあると思います。私は、「誰もが宇宙に気軽に行けるような乗り物を、まずは宇宙開発がより進んでいる国で作れないだろうか。自分はその開発を行う技術者になろう」と考えました。安直過ぎる考え方かもしれません。それに、いくら宇宙開発が進んでいる国でも、そう簡単に開発出来るものではないかもしれません。しかし、それ以外の「自分のやりたいことであり、なおかつ世界にも貢献できること」が見つかりませんでした。

 そのような乗り物の開発にはお金がかかることや、技術的な難しさ・ビジネスとしての成立性の問題から、日本の民間の会社で開発を進めているところは、私の知る限りではまだありません。だからこそ、JAXAで開発を行えたらと思います。日本人でも、(もっと費用が安ければ)宇宙に行ってみたいと考える人はたくさんいます。JAXAは日本の国民の税金を使って宇宙開発を行っているのですから、直接的には日本国民にその利益や成果が還元されるべきで す。しかし、世界における日本の役割を考えたとき、広い意味で日本だけでなく世界にも貢献できる宇宙開発を行うべきだとも思います。

星空を見上げて宇宙に想いを馳せたとき、「いつか宇宙に行ってみたいな」と世界中の人が、特に子どもたちが、思えるようにしたい。特別な人たちだけが宇宙に行ける時代から、誰もが望めば宇宙に行ける時代にしたい。宇宙飛行士の夢もまだ捨てたわけではないし、宇宙科学分野で叶えたい別の夢も持つようになったのですが(欲が深いですね)、心から願うのは、こんなことです。

(岩田直子、いわた・なおこ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※