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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第265号

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ISASメールマガジン   第265号       【 発行日− 09.10.20 】
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★こんにちは、山本です。

 10月1日にISASの本部長が任期満了で交代しました。新本部長は、小野田淳次郎さんです。前本部長・井上先生同様、近々メルマガにご登場していただこうと、準備中です。乞うご期待!

 今週は、固体惑星科学研究系の岡田達明(おかだ・たつあき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:火星に降り立つ日?!
☆02:宇宙学校・とうきょう <宇宙に夢中!>
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:火星に降り立つ日?!

 私たちは地球に暮らし、自然と共存し、表層環境の中で起きる現象に日々直面しています。地球が形成されて以後、いつしか生命が宿り、持続的に進化・発達して、やがて人類が誕生し、そして今や文明社会が成立しています。「青い地球」にはそれを可能にした表層環境が作られ、維持されたのです。では、となりの「赤い火星」はどうなのでしょうか?

 太陽系で地球の環境と一番似た表層環境をもつのが火星です。火星は地球よりも一つ外側を回り、サイズは地球の約半分、表面重力は地球の約3分の1、大気圧は地球の約200分の1です。火星表層の地形の様子はまるで流水による浸食や堆積の作用を受けたようです。火星での流水の直接的な証拠は未発見ですが、これまで欧米の周回機や着陸機により状況証拠は多数見つかってきました。また、「氷」は最近ですが、発見されていますし、大気中の水蒸気が凝結して表面に付着した霜は過去にも観察されています。

 水は地形の形成だけでなく、生命体の構成や活動に重要です。水の状態には固体(氷)、液体(水)、気体(水蒸気)があり、これらの共存点(3重点)があります。火星表面の気温や気圧の条件は水の3重点のごく近くなので、気圧や気温がわずかに変化するだけで液体の水が存在できたりできなくなったりする、微妙な環境なのです。つまり、現在は乾燥していても、少し昔は湿潤だった可能性があるのです。

 では、「青い地球」と「赤い火星」とでは一体なにが違ったのでしょうか?
 火星が赤いのは、土壌中に鉄がひどく酸化された赤鉄鉱(赤錆と同じ=3価の酸化物)などが多く含まれるためです。なぜそこまで酸化的な環境条件になったのかは今も謎です。この酸化状態では、生命体の基本である有機物は安定に存在できませんが、火星は時代によって酸化状態の程度に大きな変化があったことが分かってきました。最近、米国のマーズ・フェニックスは北緯68度という高緯度の土壌を分析し、火星の高緯度地域の表土は地球の表土と似たア ルカリ性土壌であることを発見しました。時代だけでなく地域差も大きいことが指摘されています。

 その赤い火星の真実、そして地球との違いや共通点を探ろうと今、日本の惑星科学者の間で盛んに議論されています。これらを解明してゆくには様々な研究分野の協働と連携が必要です。現在の構想としては、火星の大気環境や気象現象を調べる周回機と、表層の物質や大気の組成、火星内部の構造などを調べる着陸機を同時に送るもので、案筆者もその検討メンバーの一人です。かつて日本では探査機「のぞみ」が火星に向かいましたが、不具合により火星周回軌道への投入を断念しましたが、2度目の火星探査(MELOS)の構想の実現に向けた検討や議論を日々重ねています。

 着陸機では表層の物質や大気の組成を詳しく調べ、火星の火山活動によるガス放出や地殻変動、それらに伴って表層土が酸化的となった環境の変化の歴史を知ることが重要な目標です。これらの活動は火星が形成されてから現在まで冷えていく過程で引き起こされます。火星全体の冷える時間は、火星の地殻が薄いほど早く、マントルの対流による熱輸送の効率が良いほど早くなります。火星内部の構造や温度を知ることも重要なのです。

 これまで米国の6機の火星着陸機が火星表面での観測に成功していますが、6地域で土壌分析と周辺の観察、気象の観測を行っただけで、詳細な大気組成、火星内部の構造や熱については分かっていません。それらが次の探査ターゲットとして重要です。そのために組成(土壌の元素、鉱物)をはかる装置、大気の組成(分子、組成、同位体)を精度よく測る質量分析器、長い周期の波まで測れる地震計を中心に検討や開発が行われてきました。この探査を実現するにはまだ技術的課題も残っていますが、2010年代終盤頃には実現させたいと考えています。皆さんも「赤い火星」をもっと詳しく見たいと思いませんか?

(岡田達明、おかだ・たつあき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※