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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第264号

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ISASメールマガジン   第264号       【 発行日− 09.10.13 】
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★こんにちは、山本です。

 台風一過、秋がやって来ました。キンモクセイの香りに建物の周りを見回すと、この2年くらいロクに葉も出なかったシダレザクラの木が、台風の風で折れていました。

 もしかして
『葉も出ないような木は切ってしまえばいいのに』
という、心の声が聞こえたのか……

 今週は、宇宙農業サロン(宇宙環境利用科学研究系)の山下雅道(やました・まさみち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:火星で食べるヘルシー・シルキー酒まんじゅうクッキー
☆02:JAXAタウンミーティング in 下関【海峡メッセ下関】
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:火星で食べるヘルシー・シルキー酒まんじゅうクッキー

 火星に飛び立つ前に、不摂生のたたりで糖尿病になってしまった。舌の上で転がすととても甘い小さな錠剤を毎食前に飲んでいる。この薬の効くしかけは、腸の中でデンプンを小さな糖分子へと分解する酵素にベタ甘の薬分子が貼り付いて、デンプンの分解を妨害する。せっせと薬を飲んだので、糖尿病は退散したようだ。体つきもすこしスリムになった。
ところで、宇宙農業サロンの宮川さんのラオスみやげ、「蚕砂茶」はティーバッグのなかに八角(スパイス)のミニチュアのようなカイコの幼虫の乾いたかわいい糞粒がはいっているのだけれど、効能書きには糖尿病によいとある。クワの葉にはデンプン消化酵素の働きを妨害して糖尿病に効果があり、あるいは糖尿病でなくとも体をスリムにする成分が含まれている。そんなことで、クワの葉粉茶やカイコの糞の茶をせっせと飲んだりカイコ・サナギを食べ、砂糖たっぷりの甘いお菓子からは眼をそらせている。しかし、クワ由来のカイコ・サナギ入りお菓子は許されるはずだ。せっかくの機会なので、自分の体をつかいクワとカイコの効能をためしてみよう。

 初代・火星カイコクッキーは、火星で栽培する作物:コメ、ダイズ、サツマイモ、カイコ(ISASメールマガジン:2008年4月8日発行第186号)を原料として、名古屋女子大の片山先生の開発による。玄米の粉、ダイズの粉(きなこ)、サツマイモのチップ、カイコのサナギ、豆乳で練り、サツマイモの甘味をひきたてる醤油をひとしずくたらすと、きついサナギ臭をマスクすることもできる。オーブンで焼いた「クッキー」は、とても堅く、顎を鍛え、ひいては頭もよくなるという触れ込みだ。あまりの堅さに、ビニール袋にいれたクッキーをハンマーで割りながら、いろいろな催しで試食してもらってきた。

 鍛えられる顎関節と顎筋肉とすこしばかり賢くなる頭脳はともかくとして、歯が割れてしまったらどうしようと軟弱に傾いた。そして、おいしいオカラの食べ方も提案しようと、新しいクッキー・レシピに挑戦した。2009年7月の相模原一般公開で来場者に試食してもらったのは、この2代目クッキーだ。
一晩がかりでつくったのだけれど、来場者のおおさにあっという間にはけてしまった。オカラとサツマイモの粉に油で炒めたカイコのサナギのみじん切り、それに微量の砂糖とベーキングパウダーをまぜ、豆乳で練る。焼き上がったクッキーのみてくれは、なんとも短冊に切ったボール紙だ。サナギ臭さは生のサナギが空気に触れて酸化してはじめて作られる。新鮮なカイコのサナギをさっと炒めると、そのきつい匂いはでない。そんなこともあって、このごろじりじりとクッキーのサナギ含量が増えている。

 2代目クッキーの宇宙農業としての弱味は、ベーキングパウダーにある。
ベーキングパウダー工場を火星につくるか、はたまた火星で食べるクッキーの原料としてベーキングパウダーを地球から運ばないといけない。そこで、タネさえもっていけばいくらでも増殖することのできる生物のはたらきを借りる。
子曰く、酒まんじゅう。
ときどきコウジで自家製味噌をつくっているのを見ているという長野出身のインターン生をたきつけて、挑戦する。コメをかために炊きあげコウジカビをうえつけ、30℃ほどで切り返しながら2〜3日。コメの表面をポアポアの菌糸がおおい、周辺にはほんのり甘く上等な日本酒のかおりそっくりなエステル臭がたちこめ、それだけでしあわせたっぷり。炊飯器でおかゆをつくり、その蓋をしめずに紙ワイプをかぶせ、コウジをまぜて50〜60℃に保温して一晩。コウジがせっせとつくった酵素のはたらきで、すっきりした甘味の甘酒ができる。甘酒を30℃に冷やしてイーストをふりかける。イーストによるアルコール発酵で盛んに泡が出はじめ、甘酒は本当の酒になりかける。オカラとサツマイモの粉にシナモンをまぶしたカイコのサナギのみじん切りをまぜ、発酵甘酒をくわえて、クッキー生地をまとめる。オーブンで焼くと、すっかり上品な「酒まんじゅう崩し・クッキー」ができあがる。

 それはそれとして、初代と比べるとスゴミに欠けるのは否めない。そこで、カイコのサナギの暗色のうすい外皮をこれみよがしにまぜて、視覚的なスゴミに切り替えている。かすかな甘味は甘酒とカイコ由来だ。

 まんじゅうというからには、何人かに餡代わりのマルのママ・カイコサナギがあたるフォーチュン・クッキーという趣向はどうだろう。クッキーの副産物として、つかいのこりの発酵甘酒も楽しめる。ただし、冷蔵庫でしばらく熟成しないと、この速成ドブロクの味はいまひとつだ。クッキーはネーミングが肝心。ちょっと長いのだけれど「ヘルシー・シルキー酒まんじゅうクッキー」としよう。このクッキーで糖尿病をなおして、ふたたび火星をめざすことにしている。温故知新、ふるきをあたため あたらしきをしる。生活習慣病にも宇宙農業だ。

(山下雅道、やました・まさみち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※