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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第261号

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ISASメールマガジン   第261号       【 発行日− 09.09.22 】
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★こんにちは、山本です。

 秋の大型連休も明日で終わり、のハズですが……
有給休暇という『奥の手』を使って27日まで9連休という人もいるようですね。

 このメールマガジンを読んでいる人は、自宅と勤め先、どちらが多いのでしょうか?

 今週は、宇宙航行システム研究系の森 治(もり・おさむ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:皆の想い花開け!
☆02:宇宙学校・とうきょう <宇宙に夢中!>
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:皆の想い花開け!

 毎年、敬老の日はお花を贈ることにしています。
「今年はコスモスの花にしよう!」
大きくて、ピンと張っているコスモスの花弁を見ていると、
「なんだか、ソーラーセイルみたいだなぁ・・・!だから、『コスモス』と名付けたのか!」
と思わず一人で納得してしまいました。

 ソーラーセイルは、一言で言うと、「宇宙ヨット」です。海で帆船が風を受けて進むように、宇宙空間で大型の膜面を広げ、太陽からの光を受けて推進します。このため燃料をまったく用いません。この夢の宇宙船のアイデアは100年も昔からあり、SFの世界にも登場しますが、まだ実現されていません。肝心の帆の部分の材料がなかったのですが、最近になって、広くて薄くて丈夫な膜が入手可能となり、にわかにソーラーセイルが現実味を帯びてきました。

 まずは、米国惑星協会が「コスモス」という名のソーラーセイルを打ち上げたのですが、ロケットのトラブルにより成功しませんでした。(冒頭の独り言で、この名前をふと思い出しました)その他、NASAやESA、そして私たちもソーラーセイルの研究開発に取り組んでいます。

 太陽の光圧は非常に弱い(地球近傍で1平方メートルあたり0.0005g)ため、ソーラーセイルの膜面サイズは数十メートル級になります。そこで、ロケットで打ち上げるときには、膜面をコンパクトに畳んでおき、ロケットから分離した後に、膜面を広げ、その状態を維持します。よって、大型膜面の収納・展開・展張技術のすべてが必要になります。

 収納技術については、膜面形状・折りたたみ方が重要になります。コンパクトになるからといって、展開しやすいとは限りません。収納に再現性があり、展開後に折り目が残らず、しわができにくいこともポイントです。実際に膜面を切って折って、皆でいろいろな収納を試しました。まさに日本伝統「折り紙」です。花のつぼみも参考にしました。

 展開・展張技術については、大きく分けて2つの方式があります。1つ目は、膜面にブーム・マスト・チューブ等の支柱を取り付け、これを伸ばす方式、2つ目は膜面をスピンさせてその遠心力によって、展開・展張する方法です。
どちらも、メリット・デメリットがあります。支柱を用いる場合、比較的容易に膜面を展開できますが、重量増となります。
特に、膜面が大型化すると成立しなくなります。一方、遠心力を用いる場合、比較的軽量で実現できますが、展開挙動が複雑になります。欧米では主に前者を検討していますが、私たちは膜の大型化も見据えて後者の方式を採用し、展開機構を開発することとしました。

 ソーラーセイルの展開実験を行うのは苦労の連続です。地上では空気抵抗や重力があり、これらをできるだけ排除する必要があります。真空チャンバーやスピンテーブルを用いた小型実験から観測ロケットや大気球を用いた大型実験まで多数行いました。夜中にスケートリンクで、凍えながら展開実験を行ったことも1度や2度ではありません。展開に失敗すると膜面が展開機構に引っかかり、破れます。そのたびに膜面を全面的に改修して、再実験です。皆で議論しながら、少しずつ展開機構を改良し、成功したときの喜びは格別です。

 この実験データをもとに、数値シミュレーションで膜面の展開挙動を再現するという作業を行いました。こちらも最初は、まったくありえないような挙動を示していましたが、解析モデルを改良していくうちに、徐々に実験結果と一致するようになり、もう実験を行わなくても展開を予測できるレベルに近づいてきました。

 そして、ついにソーラーセイルを打ち上げるチャンスがめぐってきました。来年、H-IIAにて金星探査機「PLANET-C」と相乗りで、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」を打ち上げることとなったのです。

 IKAROSについては、また別の機会にお話しさせていただければと思いますが、20mの膜面を無事展開して、世界初のソーラーセイル航行を実現できるかどうかが最大の山場だと考えています。開発に携わった皆の想いが花開くと信じて、最後までがんばりたいと思います。

PS.
 近々、IKAROSキャンペーンを計画しています。皆様からメッセージを募集して、膜の先端のおもりにネームプレートを取り付ける予定です。
このおもり・ネームプレートは膜面を引っ張って展開をサポートする役目を果たします。「皆の想いで花開け!」ですね。ぜひ、応募してください。

(森 治、もり・おさむ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※