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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第258号

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ISASメールマガジン   第258号       【 発行日− 09.09.01 】
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★こんにちは、山本です。

 二百十日の目前に台風11号が関東にやってきました。30日は涼しくて、やっと寝苦しい夜とも「サヨナラ」出来るのかと一息ついたのですが、台風が過ぎていけばまた暑さが戻って来るようです。

 今週は、宇宙科学プログラム・システムズエンジニアリング室の長木明成(ちょうき・あきなり)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:システムズエンジニアリングといふこと
☆02:大気球放球実験B09-04終了
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:システムズエンジニアリングといふこと

 私の所属は「宇宙科学プログラム・システムズエンジニアリング室」というやけに長い名前のところなのですが、他の部署とは違ってパッと見ただけではどんな部署か分からないためか、何をやっているところかとよく聞かれます。皆さんはお分かりになるでしょうか?

 最近の世の中のいろいろな仕組みはどんどん便利に、そして多機能になってきて、どんどん仕組みの規模が大きくなってきています。例えば銀行でお金を引き出すのでも、人がいないATMがあちこちにあってどこでも同じようにお金を引き出すことができますが、そのためには「どこの誰がどこでいくら引き出したか」という情報をいろいろなところで瞬時に共有しなければならず、銀行員がいなくとも確実に本人かを判断して誤りなくお金のやり取りをする必要があります。そういった仕組みを銀行は用意しないといけないわけですが、仕組みに対する要求が多くなると何かの拍子に必要な機能を忘れたまま仕組みを作ってしまい、いざというときにトラブルを起こして銀行でお金が引き出せなくなる、なんていう事態を招いてしまうことになります。

 この銀行の話はシンプルにした例ですが、このようにある仕組み(システム)を作ろうというときに必要なものをもれなく盛り込みそれをうまく動かせるように無駄なく順序良く作り上げるための技術を「システムズエンジニアリング」と呼んでいます。私の部署はこの「システムズエンジニアリング」を活用して宇宙科学研究本部のプロジェクトが円滑に衛星開発を進められるようにいろいろなお手伝いをするという役割を持っています。

 作りたいものが小さなシステムであれば、熟練した職人が一人で目配りして素敵な椅子を作る、ということも可能なのですが、だんだんと作りたいものが大きくなってくると多くの専門的な職人をまとめあげて必要な役割分担をしてりっぱな法隆寺を建立する、といったことも必要になってきます。では作りたいものがさらに大きくなってくるとどうなるでしょうか? さらにシステムが大きくなってくると「やらなければいけない作業の種類」や「最初にやる作業と次にやる作業のつながり」が膨大な数に増えてきます。先に述べた銀行のATMシステムなどもかなり巨大なシステムと言えるでしょう。

 例えば、ここではかなり大規模な作業としてエジプトのピラミッドの建設を挙げてみましょう。ピラミッドともなるとあまりにも規模が大きく、名うての職人だけを集めたのではどう考えても人数が足りません。作業員を集めるためにおいしい特典をつけて大々的にエジプト各地で募集をしたかもしれません(私自身当時のエジプトを見たことはないのですが、作業員が暮らした村の跡が発掘されたり作業員の休暇簿が見つかったりしていることからのあくまで私の想像です)。集まった中には昔から土木作業に参加してきた手練の人もいれば、初めて参加するまだ実情をよく知らない若者までいることでしょう。そういった初めての素人のような人たちも含めた、さまざまな人たちをまとめ上げてピラミッド建設がスタートするわけです。

 さて、まだピラミッドの「ピの字」も作り始めていないわけですが、ここにたどり着くまでにすでに多くの「やらなければならない作業」が発生しています。みなさんはどのようなことが思いつくでしょうか? ここまで書いたことからパッと思いつくものを挙げると・・・。

○作業員を集める仕事
○作業員の話を聞いて経験者と未経験者を分ける仕事
○作業がうまく進むようにチームの編成を考える仕事
○作業員の村を建設する仕事
○休暇簿を管理してみんなをうまく休ませる仕事

といったことが挙げられるでしょうか。これらが思いつけば、そこから発展して「さらに必要な仕事」が思いつきます。例えば・・・。

○集めた作業員を各地から運んでくる仕事
○全体で経験者が何人必要で、未経験者でもできる仕事に何人必要か考える仕事
○エジプト各地のどこで何人くらい募集すればいいか計画する仕事
○どのような作業があってどのようなチームが何チーム必要か考える仕事
○何人住める作業員村をいくつ作るか考える仕事
○おいしいご飯やお酒を用意する仕事
○病気で休んだ人を介抱する仕事

もうありとあらゆる仕事が思いつきます。このように、必要な仕事をもらすことなく挙げたり仕事の内容を細かく分けたりして、大規模な作業を進めやすくすることも「システムズエンジニアリング」の技術に含まれているのです。こうすれば必要な仕事を取りこぼすことなく準備でき、その上でいろいろな能力を持った人にうまく合った活躍の場を提供できるので、みんなの力を存分に発揮してもらいつつスムーズに大規模な作業を進められるというわけです。

 さあ、みなさんは他にどのような仕事が思いつきましたか?

(長木明成、ちょうき・あきなり)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※