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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第255号

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ISASメールマガジン   第255号       【 発行日− 09.08.11 】
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★こんにちは、山本です。

 やっと本当に梅雨が明けたと思ったら、今度は台風の季節が到来したようです。
8号、9号と 立て続けに大きな被害がでています。相模原近辺は被害はなくても、南太平洋の湿った暖かい空気が押し寄せて来るので、空調の効いた部屋から出るのが嫌になる蒸し暑さが続いています。

 今週は、赤外・サブミリ波天文学研究系の中川貴雄(なかがわ・たかお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ふたつのスピカ研究会
☆02:夏休みイベント:JAXA施設一般公開
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:ふたつのスピカ研究会

 最近、NHKにて「ふたつのスピカ」というドラマが放映されていました。宇宙飛行士を目指す若者の話だそうです。スピカとは、もともとは星の名前で、おとめ座にあります。本当は2つの星がすぐ近くにいる(2重星と言います)ということにちなんで、ドラマは「ふたつのスピカ」というタイトルになったそうです。

 しかし、この原稿は、このドラマの「ふたつのスピカ」をご紹介するのではありません。私たちが計画を進めている、将来科学ミッションの「スピカ」のことをご紹介したいと思います。最近私たちは、この計画に関連して、ふたつの「スピカ研究会」を開催しました。私たちは、この「スピカ」を通常は SPICA とアルファベットで書いています。そこで、この原稿では、以下 SPICA と書かせていただきます。

 私たちが進めているSPICAは、Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics (宇宙論および天体物理学研究のための宇宙赤外線望遠鏡)という言葉の省略形で、高感度で宇宙からの赤外線を観測する次世代の赤外線天文衛星です。

 SPICAは大きくわけて2つの目的を持っています。

 その1つめは、「銀河誕生のドラマ」を解明することです。私たちの宇宙は137億年前のビッグバンで始まりました。ただし、誕生直後の宇宙は、驚くほど単純かつ一様で、銀河も星もありませんでした。それが、現在の宇宙は、銀河で満ちあふれた極めて複雑な構造をしています。「単純一様」な初期の宇宙から、どのようにして「複雑な構造をもつ」現在の宇宙への進化してきたのでしょうか。その過程で、どのようにして銀河が誕生してきたのでしょうか。そこには、想像もできない「ドラマ」が隠されているかもしれません。その「ドラマ」を明らかにすること、それがSPICAの目的の1つです。

 このような宇宙の進化を明らかにするためには、過去の宇宙を調べる必要があります。すでに過ぎ去ってしまった過去のことは、私たちの身の回りの世界でも、直接には調べられず、記録や間接的な証拠に頼るしか道がありません。ところが宇宙では、過去のことが直接に調べられるのです。それは、「遠くを見る」ということによってです。宇宙は、大変に大きなものです。したがって、「遠くの天体」からやってきた光は、私たちのところに届くまでに長い時間を必要とします。逆に言うと、現在私たちが見ている「遠くの天体」は、現在の姿ではなく、過去の姿であるということになります。このようにして、「遠くの天体」を見ることにより、「過去の宇宙」が直接に調べられるのです。
SPICAでは、「過去の宇宙」を調べるのに適した赤外線を中心に観測を行い、「遠くの天体」を見られるように口径3.5mという大きな望遠鏡を搭載します。

 もう一つのSPICAの目的は、「惑星形成のレシピ」を探ることです。最近の研究により、私たちの太陽系以外にも惑星が存在することがわかってきました。ただし、そのような観測の大半は間接的な証拠にもとづくものであり、本当に惑星の姿をとらえた観測は数えるほどしかありません。SPICAは、惑星に対して観測条件が向上する赤外線で非常に高い解像力をもっていることを活用して、太陽系以外の惑星の姿を数多く直接にとらえます。さらに、その性質も明らかにすることが期待されています。SPICAが観測する惑星の中 には、ひょっとすると生命の兆候を示す惑星もあるかもしれません。

 SPICAはこのように、現代天文学の大きな課題に挑む大型科学衛星計画です。日本のみならず、欧州をはじめとする海外との協力も活用し、2017年ごろには実現したいと、現在精力的に検討と基礎技術開発を行っています。

 このSPICAを活用して大きな科学的成果を出せるように、まず今年の6月には東京大学にてSPICAの国内向け研究会を開催しました。さらに、7月には、英国のオックスフォード大学において、SPICAの国際研究会を開催しました。2つの会議ともに、100名を超える方が出席され、熱意にあふれる議論を繰り広げました。これが、ふたつの「スピカ研究会」です。

 最近開催したこれらのふたつの「スピカ研究会」を足がかりにして、是非このエキサイティングな科学ミッションSPICAを実現していきたいと思います。

(中川貴雄、なかがわ・たかお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※