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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第251号

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ISASメールマガジン   第251号       【 発行日− 09.07.14 】
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★こんにちは、山本です。

 このところ、メルマガ編集部宛にくるのは【スパムメール】ばかりです。もしかして、【スパムメール】として読者のメールをバッサリ消してしまったのか、と心配の種は尽きません。

 今週は、ASTRO-Gプロジェクトチームの川原康介(かわはら・こうすけ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:はやぶさカプセルの方向探査
☆02:「Okina-Ouna」の名前が小惑星に!
☆03:第3回宇宙旅行シンポジウムの開催
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:はやぶさカプセルの方向探査

 ついに1年を切りました。いよいよ「はやぶさ」が地球に帰ってきます。来年6月に控えた「はやぶさ」帰還に向けた準備が、各方面で着々と進められています。今回は私が関与している「はやぶさ」カプセルの方向探査にまつわるお話をしたいと思います。

 ご存じの通り「はやぶさ」は2003年5月9日に鹿児島の大隅半島に位置する内之浦宇宙空間観測所から、当時のM-Vロケット5号機で打ち上げられた工学技術実証機です。これまで、電気推進の実証、小惑星「イトカワ」とのランデブー、タッチダウン、サンプル採集など世界的にユニークな数々の工学ミッションをこなし、現在、地球への帰路についているところです。今後「はやぶさ」は、「イトカワ」で採取したサンプルを地球に届けるために、サンプルが保管されているカプセルを分離し、地球に再突入させます。このとき、降下中のカプセル位置を正確に測定し、着地点を割り出す役目が、我々、方向探査班(方探班)の仕事になります。

 地球に向けて分離されたカプセルは、大気で十分に減速された後、高度約10kmの上空でパラシュートを開傘し、その後、ゆっくりと地上まで降下します。緩降下中、カプセルからビーコン信号が送出される仕組みになっているので、地上の方探班はそのビーコン信号を頼りに、三角測量の原理でカプセルの位置を割り出します。カプセルの大きさは直径約40cmしかないため、もしも着地点の特定に至らなかった場合は、数百キロにも及ぶ広大な砂漠の中からバスケットボール程度の大きさしかないカプセルを探し出さなければなりません。それだけ、我々方探班に課せられる役目は重要なのです。

 この重要な方向探査に用いるアンテナは非常に簡素なものです。家庭で使用しているテレビ受信用のアンテナ(八木アンテナ)を水平方向に2台並べて固定し、そのアンテナをローテータ(回転装置)に取り付けて、全体をアンテナ架台に固定すれば完成です。実際には使用する条件に合わせたチューニングが必要になりますが、基本的に誰でも入手可能な機材だけを組合せた方探局なので、手作り感たっぷりの仕上がりになっています。今回は画像をお見せする事が出来ませんが、機会があれば是非ともご覧になって頂きたいと思います。「こんな物で探すんだぁ…」という感想を持たれることでしょう。

 さて、方向探査の原理ですが、これもまた同様にシンプルです。2台のアンテナが水平方向に並んでおり、同時にビーコン信号を受信する仕組みになっています。もし、方探アンテナがビーコン発信源に正対していれば、2台のアンテナには同じ強さの電波が入力されますが、アンテナが正対していない場合には、双方のアンテナから受信される信号強度のバランスが崩れるため、片方のアンテナからの受信レベルが強くなります。したがって、方探アンテナのオペレータは、2台のアンテナからの受信レベルを比較し、その受信強度が常に同じになるようにアンテナを回転させていけば、ビーコン発信源を精度よく追跡することが出来るというわけです。このようなトラッキング方式はモノパルス方式と呼ばれており、ロケットの追跡用のRADARでも採用されている方式 です。

 先月(2009年6月)、この方探システムの検証試験を行いました。日本では海や山などの影響により、実験に適した場所が見当たらないため、実際のカプセル回収の舞台となる砂漠へ赴き、方探実験を実施して参りました。実験班は、気球や観測ロケット実験に普段から携わっているメンバーを中心に構成されました。あいにく、実験期間中は風速5〜8m/sの強風に見舞われたため、計画どおりに実験が進まないこともありましたが、普段からフィールドワークを得意としているメンバーということもあり、臨機応変に対応して頂き、計画していた実験をほぼ完璧にこなすことができました。非常に頼もしいチームです。今後は、この砂漠での実験データを元にさらなる改良を方探システムに施し、来年の「はやぶさ」帰還に備えることになります。

 「はやぶさ」の打ち上げは、私にとって初めてのM-V打上げでした。打上げの時期は天気が良くなかったため、突然の雨に備えるため、内之浦の射点から数キロ離れた場所に実験班員を配置させ、雨雲が近づいてきたら本部に電話連絡するという“人間アメダス”的な事をやっていたことを記憶しております。これまで「はやぶさ」には、非常にたくさんの人たちが関わってきました。私が関与できるのはその僅かな部分に過ぎませんが、このような機会を頂けたことを非常に感謝しております。残り1年。悔いが残らないように確実に準備を整えていきたいと思います。

(川原康介、かわはら・こうすけ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※