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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第250号

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ISASメールマガジン   第250号       【 発行日− 09.07.07 】
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★こんにちは、山本です。

 今日は七夕ですが、梅雨の関東では織姫や彦星を見るのは、どうも無理ですね。
そこで、今週も日食の話題です。

 22日に日食を観察するのに、正しい方法で観察しないと目を痛めます。
国立天文台の皆既日食の情報ページに「日食の観察方法が載っています。
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.nao.ac.jp/phenomena/20090722/obs.html
正しい方法で、楽しく日食の観察をしましょう。

 今週は、宇宙航行システム研究系の澤井秀次郎(さわい・しゅうじろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:気球による無重力実験システムの開発
☆02:Fly me to the Moon in AKIBA
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:気球による無重力実験システムの開発

 JAXA宇宙科学研究本部では、いろいろな研究を同時並行的にこなす人がたくさんいます。これが良いことかどうかについては、いろいろな意見があると思いますが、このメリットは、自分が研究者として面白いと直感したものがあれば、自分の能力と時間が許す限り何をやってもよい、という自由度が与えられる、ということだと思います。ただ、世の中には、まだまだわからないことや面白いことがたくさんありすぎるのか、自由に興味の赴くままに行動した結果として、寝不足に陥っている人が多いような気もしますが、それは本人自身の問題なのでしょう。たとえば、物理学の専門家が計算機周りのアーキテクチャーに関して、メーカーの担当者を凌駕する知見を有していたりするのを初めて目撃したときは意外性が強く、ある種の感動を覚えました。

 さて、こういう土壌のある組織だと、マルチに仕事をこなすのは一部の超優秀な人の特権ではなく、むしろ私のような人間でさえも、面白いと思ったことはそれなりに手を広げられます。私自身、大きなところでは、小型科学衛星の開発にシステム担当者として関与していますが、今回は、それとは別の話題をさせていただきたいと思います。気球を使った実験の話です。

 去る5月27日に、大樹町から気球が放球されました。実験名称は、B09-01です。これは、無重力実験を行うシステムの開発のための実験でした。よく啓蒙書に載っていることですが、自由落下する箱の中では重力を感じず、無重力の状態になります。そのため、たとえば上の方から物を落とすと、その中で無重力の実験ができます。宇宙に出なくても無重力実験はできるのです。実際、縦穴にカプセルを落としたり、飛行機で「パラボリックフライト」ということをやることで、無重力実験を行うことがあります。

 それに対して、今回、私たちが考えて開発したのは、気球を使ったシステムです。高度が高く、地上より100分の1よりももっと空気が薄いところで実験をすれば、きっと長い時間、良好な無重力の環境が創り出せるのではないか、というのがそもそもの考えです。ただ考えていくうちに、地上よりもずっと空気が薄いといっても、それでも空気があるので、そのままだと本当の意味で自由落下はできない、ということになり、最終的には、落ちていく機体の中をフワフワと浮遊する中子という無重力実験部を用意して、この中子が機体と衝突しないように、外側の機体の運動を制御する、ということにしました。いわば、外側の機体を風よけ代わりに使って、中にある中子をほぼ完全な自由落下状態にする、という話です。このように機体を風よけ代わりに使う方式は、「ドラッグフリー制御」という言い方で知られている方式ですが、それを高い高度に上がる気球を使ってやろう、というのが、私たちがやろうとしていることです。

 実は、今まで2回、この方式で気球実験をやっていて、今回は3回目でした。過去2回では、とにかく方式の検証に主眼を置いて成果をあげましたので、今回は、今後、多くの人に使ってもらいたい、ということで、簡単に実験できるようにする、という点を中心にシステムの設計を行って実験しました。

 簡単に、かつ、確実に実験できる無重力実験システムを完成させる、という点で、今回の実験は非常にうまく行きました。今まで、組立や事前チェックのための手順が複雑で、その準備をしている私の背中は、他の先生の冷たい視線に晒され続け、工具を持つ手も震えたものですが、今回は、良好な精神状態を維持することができました。

 最終的には、詳細なデータ解析が必要ですが、今までの検討から、今回の実験では、宇宙ステーションの規格以上の良好な無重力環境を30秒程度にわたって創り出せたと思っています。このシステムは、宇宙ステーションよりもはるかに簡便ですし、宇宙に行かない他の無重力実験システムでは達成できない長時間にわたって宇宙ステーション並みに良好な無重力環境を創り出せることを証明できました。このことは、一見地味かもしれませんが、意味があることだと思っています。

 今回の実験で、気球を利用した無重力実験システムを開発する、という点では一定の区切りとなりましたが、今まで5年間、数人の先生や学生達と、時には喧嘩直前までの議論を戦わしながら、また、時には徹夜の連続(と言いながら、油断していると、他の人がいつのまにか床にビニールを敷いて寝てしまい、最後に残った人が完全徹夜で他の人の分まで仕事を片付けることになるので、難しい駆け引きが存在しましたが・・・)で作業をしながら完成させたものです。今後、この成果を使って、いろいろな実験が行われてほしい、と思っています。

(澤井秀次郎、さわい・しゅうじろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※