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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第243号

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ISASメールマガジン   第243号       【 発行日− 09.05.19 】
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★こんにちは、山本です。

 新型インフルエンザの感染が拡大しています。大阪と兵庫で多数の人が発症しているようです。ISASでは海外への出張者も多く、その対応について周知メールが届きます。発信責任者は?と見ると、「海外テロ等危険管理責任者」

 新型インフルエンザをなめてかかってはいけないのですが、テロ対策と同じレベルなのかと、目から鱗が落ちた瞬間でした。

 今週は、宇宙情報・エネルギー工学研究系の佐々木進(ささき・すすむ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:太陽発電衛星とは?
☆02:「ひので」恒常的に発生する彩層ジェット現象を発見
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:太陽発電衛星とは?

 皆さんは“太陽発電衛星”って聞いたことがありますか?
宇宙空間で発電しその電力をマイクロ波やレーザーで地上に送るという“宇宙の発電所”の構想です。宇宙発電所は、スペースコロニー(宇宙植民地)とともに宇宙開発の始まったころからあった夢物語です。宇宙好きの皆さんは宇宙発電所の壮大な想像図をみたことがあるかも知れませんね。

 わたしは、この夢物語に20年近く係わっています。宇宙研には“宇宙探査の夢”や“天文観測の夢”や“新しいロケットの夢”があふれていますが、“宇宙発電所の夢”は壮大すぎて“正夢”ではないと考えられるためか一般には殆ど知られていません。先日行われたある調査では、“宇宙の発電所”のことを知っている社会人はわずか30%程度でした。この分野の日本のパイオニアである長友信人先生がこの研究を“宇宙エネルギー工学”と名付け、大学にもないユニークな名称が自慢なのですが、時々
「宇宙エネルギーとは宇宙に満ちている気のことですか?」
という妙な問い合わせがあります。私自身はこの分野も得意なのですが・・・。

 地球近傍に届く太陽のエネルギーは私たち人類が使用する全てのエネルギーの1万倍近くあります。宇宙での平均的な太陽光エネルギー密度は天候や昼夜の影響をうける地上での太陽光の10倍近くあります。太陽エネルギーを集める場として宇宙を利用しない手はないですね。私たちの描いている宇宙の発電所にはいくつか種類がありますが、代表的なものは、1基が原子力発電所程度の100万kW、宇宙で数km四方の大きさの太陽電池パネルで発電した電力をマイクロ波で地上に送り、直径数kmの受電所で受けて整流し配電します。発電所の総重量は1万トン以上にもなります。確かに現在の宇宙開発の常識から見れば“眉につば”をつけたくなりますね。

さて、この構想に対し沢山の質問や意見をいただきます。
「飛んでいる鳥がマイクロ波を浴びて焼き鳥にならないか」
というのが最も“ポピュラーな質問”ですが、送電用のマイクロ波のエネルギー密度は最大でも地上での太陽のエネルギー密度以下程度なので大丈夫です。
「宇宙から余分にエネルギーを送ったら地球の温度が上がらないか」
というのも何となく心配となる質問ですが、これも容易に計算でき無視できる位小さい量です。
「電力コストがとんでもなく高いはず」、
「宇宙でのkm級の大きな構造物を作るのは極めて困難」、
「受電所の外に漏れるはずの電波が怖い」、
「何万トンという建設資材をどうやって運ぶのか」、
「宇宙ゴミや放射線でやられるはず」・・・、
実はこれらに答えられるようにするのがまさに私たちの研究なのです。
「宇宙にまで資源を求める考え方そのものが誤っている」
という指摘は、思想の問題であり答えに窮するのですが、意外によくあるご意見です。

 私たちの星“地球”が2億年かけて蓄積した化石燃料を、私たち人類は産業革命以来の猛烈な消費によりわずか数百年で使い切ろうとしています。先祖代々営々とためてきた資産をどら息子があっという間に散財するようなものですね。もっと深刻な問題としてCO2問題に代表される地球環境問題が私たちの近未来に暗い影を投げかけています。私たちや私たちの子孫には環境に優しい新しいエネルギーシステムが必要です。現段階では宇宙発電所の構想が将来の人類のエネルギーシステムとして最善の選択肢であることが示されている訳ではありませんが、原理の検証が未だなされていない核融合に比べて、極めて有力な選択肢の一つであることは間違いありません。本当に意味ある構想なのか、手にとどかない絵にかいた餅のような構想なのか、は地上の研究を積み重ねて小規模ながら宇宙実験を行うところまで進めばかなりはっきりした結論が出るでしょう。国も最近やっとこの研究に重たい腰を上げようとしています。私たちの大きな夢への小さな一歩を是非ご期待下さい。

(佐々木進、ささき・すすむ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※