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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第241号

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ISASメールマガジン   第241号       【 発行日− 09.05.05 】
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★こんにちは、山本です。

 先週4月28日、ゴールデンウィークを前に、ISASのキッズサイトが全面リニューアルオープンしました。新しく壁紙も追加されています。
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.kids.isas.jaxa.jp/
 ⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/wallpaper/index.shtml

 また、5月1日から相模原キャンパスの展示室と屋外ロケット展示の常時公開(ただし年末年始は除く)をしています。連休も終わりですが、時間のある方は、相模原キャンパスへお立ち寄りください。

 今週は、宇宙情報・エネルギー工学研究系の吉光徹雄(よしみつ・てつお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:人類の創造力
☆02:科学館との連携事業
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:人類の創造力

 人間は、産まれた時には4足歩行ですが、そのうち2足歩行になります。これが人間の移動メカニズムの基本と言っていいでしょう。一方、自然界の 生物は、さまざまな移動手段を持っています。鳥は空を飛び、魚は海を泳ぎ、モグラは地中を潜ります。

 人類は、鳥が飛ぶのを見て、自分も飛びたいと思い、飛行機や気球を発明しました。魚が海を自在に移動するのを見て、船や潜水艦、ヨットを発明しました。もちろん、その他にもたくさんの移動メカニズムも発明しています。

 人類の発明した移動メカニズムでもっとも偉大のものは「車輪」でしょう。荷物(例えばピラミッド建設用の石)を運ぶのに、力任せに押すのはものすごく疲れますが、車輪のついた台車(当時は、丸太)の上に載せて押すとものすごく楽になります。車輪は、台車、人力車、馬車、自転車、自動車と載せるものや形状を変え、現代に至っても受け継がれています。何しろ、人類が生物学的に備えている2足歩行より効率がいいのです。歩くより自転車で移動する方が速くて疲れません。特に荷物を持っている場合は顕著です。

 車輪型の移動メカニズムは、生物界には存在しません。理由は単純で、1体の生物は分離して存在できないのです。車輪構造は、回る車輪と回らない部分(モータで言うと、ロータとステータ)の2つのパーツに分離され、両者は組み合わさっているものの一体ではありません。一体にすると、車輪が回っているうちに、よじれてしまいます。

 自動車や飛行機、船は、自然界の生物が移動するのと同等の機能を持っていますが、生物とは違う仕組みで実現されています。もちろん、中には生物と同じ方法を用いる移動手段もあります。例えば、グライダは、ムササビの移動と同じです。

 人間は他の生物が空や海を自在に移動するのを見て、それに憧れたものの、自分たちになりに昇華して彼らが獲得した移動手段とは異なる方法を発明して、その夢を実現してきたのです。人類の長年の知恵と工夫の積み重ねにより、現在の我々は世界中のさまざまな場所に速く便利に行くことができるのです。生物は適応という進化によって移動メカニズムを獲得してきましたが、人類は創造によって新たな移動メカニズムを獲得し進化してきました。


 最近は、生物型移動機構を人工的に作ろうという研究も盛んです。移動機構を自分たちの創造力によって産み出すのではなく、すでに存在する生物を模倣しようというわけです。

 代表的なものが昆虫でしょう。昆虫型ロボットを造るのは意外と難しいです。理由の1つは、昆虫は小さいからこそ成立している物理則で移動しているためです。もう1つの代表的生物模倣移動機構は、日本に限定されますが、2足歩行ロボットです。人間を模倣しようというわけです。

 生物型の移動機構を歴史的に人類が模倣できなかったのは、生物の筋肉を技術的に実現できなかったのが第1の理由です。そして、もう1つの理由は、スケールの違いです。スケールが小さいからこそ成立する物理則は、人類が乗って移動できるような大型の乗り物に適用できなかったということです。そして、これらの研究が技術の進歩に従って解禁されたというわけです。


 20世紀以降は、人類が地球以外の天体に行く時代になりました。地球外天体までの到達方法は、基本的には太陽や地球からの重力を使っています。地球の中に閉じこもっていた時代には、考えもしなかった移動方法です。

 一方、天体に到着した後はどうやって移動しているのでしょう? 月や火星などの固体表面を持つ天体だと、車輪型ロボットで表面を移動しています。金星や火星など大気を持つ惑星だと、気球が提案されています。太陽から遠くなると、氷衛星と呼ばれる表面が氷で覆われている衛星があります。有名な氷衛星が、木星の衛星エウロパです。エウロパの表面は氷で覆われていますが、地下では氷が溶け水が存在すると言われています。このエウロパを探査するために、氷を溶かして潜っていき、水が現われたら、潜水艦で探査しようという計画があります。

 これらを見て感じることは、別の天体に行ってもそこにある環境は、地球にお手本があったということです。それほど、地球という惑星は多様なのです。そして、地球が多様ゆえに、これまで人類が創造してきた移動メカニズムを、そのまま地球外天体の表面探査にも使うことができるのです。地球外天体の探査は、人類の創造の歴史の延長なのですね。

 1つだけ地球上にない環境が宇宙空間にはありました。小惑星や彗星表面などの重力の小さい環境です。小天体表面を移動するにはどうすればいいだろうか?と考えて作ったのが、はやぶさ探査機に搭載したミネルバです。


 地中を移動する上手いメカニズムを人類は発明できていません。粉流体の積もった地中を移動する生物には、大きく2つのタイプがあります。1つはモグラ。モグラは、邪魔な土を脇にどけて穴を作り、穴の中を移動します。もう1つはミミズ。ミミズは、邪魔な土を前方から食べ、後方に排出させることで進みます。シールド工法はモグラの穴堀りと同じ考え方です。穴を作った後は、地下鉄などを見ても明らかな通り、地上の移動機構をそのまま使っています。モグラもそんなに高速に穴を作ることができるわけではありませんが、シールド工法そのもので、地中を自在に高速に移動できるわけではありません。この地中移動の難しさが、そのまま地球外天体を掘って探査することの難しさになっています。何らかのブレークスルーがないか、たくさんの研究者が模索しています。

 地球外天体の探査は、今でも、人類の英知を結集して、新たな探査手法や移動メカニズムを模倣でなく創造しなければならない場なのですね。

(吉光徹雄、よしみつ・てつお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※