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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第240号

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ISASメールマガジン   第240号       【 発行日− 09.04.28 】
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★こんにちは、山本です。

 ひと雨ごとに木々の緑が増している相模原キャンパスです。初夏までウグイスの鳴き声も聞くことができます。ついこの間まであまりうまく鳴いていなかったのに、最近は上手に鳴いています。やっぱり練習が大切ですね。

 今週は、高エネルギー天文学研究系の前田良知(まえだ・よしとも)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:エックス線望遠鏡
☆02:ISASキッズサイト「ウチュ〜ンズ」本日OPEN!
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:エックス線望遠鏡

 今年はガリレオで有名な天体望遠鏡の400周年です。この望遠鏡はその後の天文学の発展を牽引することになります。ガリレオの望遠鏡は人間の目で撮像しましたから、その波長は数千オングストローム(一兆分の1メートル)の可視光域でした。実は、その波長の何百倍も短いエックス線で感度を持つ望遠鏡が1978年に人工衛星に搭載され、初めてエックス線の天体写真を撮ることができました。ガリレオの頃に発展したことが、エックス線域ではたった30年前に起きたのです。米国の研究者はこの望遠鏡の威力に敬意を表し、「アインシュタイン」という名前を付けています。その期待に違わず、次々と新天体を発見しました。

 その後、1993年に「あすか」衛星が日本から打ち上げられました。「あすか」に搭載されたエックス線望遠鏡は、その波長域を1オングストロームにまで伸ばしました。「あすか」が開拓したこの波長域は、ブラックホールなど様々な研究に極めて有効であることが立証され、現在軌道上で活躍中の 「すざく」衛星の望遠鏡などでも採用されています。

 この波長をさらに一桁近く短くして、0.2オングストロームまで撮像可能な望遠鏡が次期エックス線天文衛星に搭載されます。多層膜スーパーミラーを同心円状に多重に並べて実現された硬エックス線望遠鏡です。そのプロジェクトの名前は「Astro-H」です。いままでわからなかった宇宙の高エネルギー現象が次々に撮像されていくと期待されています。

 この硬エックス線望遠鏡の存在を私が初めて知ったのは、1997年度でした。日本のエックス線天文学の将来計画を議論する機会で当時名古屋大学の山下先生が提案されていました(開発はそれより前から行われていたようです)。私は片田舎の大学院生でしたので、その場には居合わせなかったのですが、参加した大学のスタッフが「本当にできたら救世主だ。」と、半信半疑でちょっと興奮しながら研究室で報告されていたのを今でも覚えています。当時は学位を取るのと同時にどの後将来どうしようかと思っていたので、そんな夢のある観測装置ができるかもしれないんだ、と感じ入ったのを覚えています。多層膜スーパーミラー(super-mirror)と名前の通りスーパーな望遠鏡構想でした。

 この構想は2001年度に気球実験で彼らにより実証されました。この成功を機に、外国の研究者や企業もこぞって開発を開始しました。いまでは研究会に出れば、各国からスーパーミラーの研究成果が報告されるまでになっています。特に印象的だったのが、日本の某氏による国際学会での発表でした。

 某氏の発表のタイトルは
「Development of multi-layer supper-mirrors .....」
みたいな題名でした。
ん、、、、、「Supper-mirror」。
「p」が一つ多いので、日本語の直訳だと「夕食鏡」です。腹へって、夕飯食べたいのを我慢しながら、寝食忘れずに研究会の準備をしていたんでしょうかね。作成アプリケーションのスペルチェック機能にも、当然引っかからなかったようです。発表の中身は全然覚えていないのですが、このタイトルのタイポと、それを指摘した時の発表者の狼狽え様は未だに記憶から消えません。

 そのスーパーミラーの黎明期に大活躍したメンバーの多くは他の機関や他分野に移動されました。その開発の成果は、名古屋大学の新しい世代の研究者によって引き継がれ、この4月にAstro-Hフライト鏡の試作一枚目ができる見込みです。Astro-Hがプロジェクト化されてまだ半年しか経っていないのですが、驚きの進捗です。

 Astro-H には硬エックス線望遠鏡だけでなく、いろいろなユニークで且つ最先端の観測装置が搭載されます。どんな宇宙が飛び出してくるのか、いまからわくわくします。

(前田良知、まえだ・よしとも)

次期X線国際天文衛星「ASTRO-H」プロジェクトサイト
新しいウィンドウが開きます http://astro-h.isas.jaxa.jp/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※