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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第239号

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ISASメールマガジン   第239号       【 発行日− 09.04.21 】
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★こんにちは、山本です。

 以前ISASが在った駒場キャンパスには竹林がありました。相模原に移転した際に、その竹を移植しました。

 もう先は読めましたね。
 今、ちょうどタケノコのシーズンです。私もその「オコボレ」にあずかり、今夜はタケノコご飯です。

 今週は、宇宙構造・材料工学研究系の石村康生(いしむら・こうせい)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:表現すること、伝えること
☆02:第28回 宇宙科学講演と映画の会、盛況裡に終了
☆03:「kaguya」の名前が小惑星に!
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:表現すること、伝えること

 私は、昨年度大学から宇宙研にきて、宇宙構造・材料工学系というところに所属しています。在籍期間はまだそう長くは無いのですが、宇宙研のミッションに携わって、非常に強く感じることの一つに“表現すること・伝えること”の重要性があります。“表現すること・伝えること”と言うと、なんか
「それって作文がうまくなれって事?」
と思われるかもしれません。ここで言ってることは、文章に限らず、数学的な表現や話し方も含めた“表現”全般についてです。これは、学校や会社、家庭においても重要な事なのですが、ミッションを遂行していく上でも、やっぱりとても大切であることをひしひしと感じています。

 ある人工衛星・ロケットを設計・開発・打ち上げ、それによって科学的に重要な事象を観測するといった流れの中では、いろんな分野の人が、いろんな立場・目的で関わっています。みなさんは、宇宙研には理学系・工学系という大きな系が二つあることをご存じでしょうか? この両輪を中心に、宇宙研の宇宙科学の研究は遂行されているわけですが、乱暴に言ってしまえば、理学系は観測データから研究し、新しい理論を(観測法も含めて)実証していくのが主目的で、工学系はそれを実現するための人工衛星・ロケットを作ると共に、そのものづくりの技術を学問として体系化していくというのが仕事になります。

 分野や立場や目的が違うと、それぞれものの見方が違ってきますし、話す言葉も違ってきます。そんな中で、本当に重要な理学的な要求は何なのか? 工学的に課題となりそうなものは何なのか? を議論の中で明らかにしていき、それに対する解答を考えていくわけです。

 ですが、これがなかなか簡単にはいきません。

 例えば○○という事象を観測するための天文衛星の開発・運用/観測のミッションがあったとします。でも、この目的だけでは衛星は作れません。その目的を、徐々に小さい要求に細分化していき、最終的にはネジのサイズや締め方に至るまでの要求にしていきます。この作業の中で何が難しいかというと、
 ・表現しきれていない要求事項はないか?
 ・必要のない要求まで含まれていないか?
 ・それぞれの要求の優先順位はどうなっているか?
 ・要求が決まらない時は、何をまず明らかにしたら要求が決まるか?
といった事を考えなければいけないのです。一人の人間が全体を全部管理できる小さいシステムであったり、以前同じものを作っていれば別なのですが、大勢の人が携わる新しいミッションであれば、人によって要求事項の表現方法が違ったり、また優先順位が変わったりします。また、全く新しいものに対しては、そもそも要求を決めるための手順がすぐには見えてこないという事もあります。これらをうまく表現し、全く違う分野の人がお互いの要求を明確に伝えることができて、はじめてミッションという全体が成功へつながるのだと思っています。

 学校における身近な例で、「合唱祭で優秀な成績をおさめる」という目的があったときに、何をすれば良いかを考えてみましょう。まず本当に重要な目的が「合唱祭で優秀な成績をおさめる」であっているかを考えます。実はこれが違うと言うこともありますよね。例えば、「優秀な成績をおさめる」ことが目的ではなく、「クラスが団結する」が本当の目的だったり……というわけで、まずは最重要な要求は何かを明確にすることからはじめなければなりません。その次に、合唱がうまくなるために必要なものは何かを考えます。練習時間を増やすことであったり、良い指導を受けることであったり、実はみんなのやる気であったりするかもしれません。またこれらの必要性はどれも同じ重みを持っているとは限りませんね。目的をもう少し明確にしていきつつ、これらの重要度を決定していかなければなりません。

 実際のミッションでも、要求とその実現法を同時に考えながら、徐々に明確に細分化していく作業が必要で、その中では“表現と伝達”が非常に重要になってくるわけです。文章を一つ書くにしても、人に伝えることを意識して、わかりやすくそして誤解の無いものにする必要があります。もっと話を飛躍させてしてしまうと、そもそも自然科学というもの自体も、現象を万人が理解しやすい普遍的な表現方法で表現することが本質なのかもしれません。というわけで、“表現し伝える”と言うことは奥が非常に深いもので、日々の研究開発の裏にはこういったことも必要となっています。

 と、長々と書いてしましましたが、振り返ってみると、この文章で私が言いたいことが表現できて、そして伝わっているのかはちょっと不安です。そこはまだまだ修行中と言うことで、数年後のメールマガジンの記事にご期待いただければと思います。

(石村康生、いしむら・こうせい)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※