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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第230号

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ISASメールマガジン   第230号       【 発行日− 09.02.17 】
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★こんにちは、山本です。

 春一番が吹いて、週末の気温の上昇でISAS近くのソメイヨシノも、うっすらとピンクに霞んで見えます。これからまた寒くなると予報されているのに、そんなに芽が膨らんでしまって大丈夫なのかと心配しています。

 今週は、宇宙科学技術センターの中部博雄(なかべ・ひろお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ロケット昔話2
☆02:米「サイエンス」誌が「かぐや」特集号
☆03:今週のはやぶさ君
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★01:ロケット昔話2

■真夜中の怪音

 1964年(昭和39年)頃、西千葉にある東京大学生産技術研究所の実験室では固体ロケットの開発のため、推薬試験、ノズル試験、球形ロケット試験等の基礎試験を繰り返し実施していました。その為、研究室では毎日のように推進薬を製造していました。

 そんなある日、いつもの様に夕方、ブタジェン系燃料とパークロと称する酸化剤を調合、真空状態でかくはんし、燃料と酸化剤が良く混ざり合った頃合いを見計らって試験用チャンバーに流し込み、それを恒温槽に入れ、一定の温度(120℃〜150℃)に設定して推薬を硬化させるもので、明日にはロケット推薬は出来上がっているはずでした。次の朝出勤すると守衛さんから『夜中に大きな音がしたみたいだよ、特に変わったところはなかったようだけど・・』と聞かされ、思い当たる事もなく実験室に行くとドアーに直径5センチほどの穴が開き、その前方に昨夜恒温槽に入れたチャンバーが転がっていました。恒温槽の扉は壊れており、昨夜設定した高温度を保とうと恒温槽はまだ稼働していました。温度設定をした後、常温に戻すタイマセットを忘れて帰宅した為に、真夜中高温に耐えかねて推薬が燃焼してしまったのでした。

 先生からきついお叱りを受けたかどうかは聞きそびれましたが、火事にならなかった事に感謝し、大いに反省したそうです。
(情報:K・A)


■球形ロケットの開発

 1963年(昭和38年)頃から西千葉の生研で球形ロケットの開発が始まりました。チャンバーは絞り出しで直径は約20cmで半球ずつ製作してフランジやネジでつなぎ球形ロケットチャンバーが完成します。後に結合部は溶接に変わりました。使用する推進薬はブタジェン系燃料で職員が研究室で製造していました。

 一般的に燃料の中子(なかご:燃料内面の形状)は金属で表面をテフロンコーティングしたものをチャンバーに入れて、燃料が硬化した後に引き抜き完成します。今回の球形ロケットではノズルを取り付ける側の球形チャンバーの穴が小さく中子の寸法の方が大きい事から、通常の中子は使えません。そこで中子をロウで作り、燃料を詰め恒温槽で硬化させた後に、暖めた水銀で中子のロウを少しずつ溶かしていく、マスクはしているが、水銀蒸気の刺激に苦労したといいます。

 西千葉のスタンドで実施したテストは正常に燃焼しました。そこで道川の実験場で打ち上げ実験を行う事になりました。飛翔を安定させるため、球形ロケットを筒に入れ、スピンを加えて点火しましたが、点火後ことごとく爆発しました。これは、球形ロケットを保管している間に、燃料が変形して垂れ下がり、燃焼面積が増えた事によるものと推測されています。この反省を踏まえて実機タイプが製造され、L-4S-5号機でその性能が確認されました。

 その後、M型ロケットの最終段に搭載された球型ロケットは大いに活躍することになりました。
(情報:K・A)


■非常停止押さず

 1966年(昭和41年)ロケットの点火は地上の装置で行い、ロケットに搭載したタイマは開頭(ロケット先端のカバーであるノーズコーンを開く)等の点火信号や観測機器に信号を送る役目を担っています。

 今回は新たに開発した第1号の電子式夕イマ(通称EST)はK-9M-36号磯に搭載されましたが、不運にもロケット本体の飛翔不良で電子式タイマの検証は出来ず、次号機のK-9M-37号機に期待を掛けましたが、打ち上げ時にタイマが停止するという不具合が発生してしまいました。その原因は、水晶発振子を使用したクロック発信部が打ち上げ時の衝撃で壊れたためでした。

 K-9M-38号機の打上げを中止し、水晶発振子を使用しないCR発信器型のクロック発信部を一週問で製作することになりました。この時、K-9M-38号機の開頭をバックアップするため、火薬式スイッチ(プッシャーコネクタ)で起動するゼンマイ式タイマ(ストップウォッチと同じ原理)も急遽搭載することになりました。このバックアップタイマはロケット点火30秒前に地上装置からの信号でスタートしますが急な事で、その動作を確認するアンサラインがありませんでした。そこで、イヤホンをマイク代わりにロケット壁に取り付けて、火薬式スイッチの動作音「カチッー!」を捕らえようとしました。リハーサルでは模擬の動作音で聞こえることを確認して本番に臨みました。

 しかし、X-30秒を過ぎてもその音は確認できません。カウントダウンの放送がじゃましたのか、そのイヤホンからは何の音も聞こえてきません。そこで先輩は考えました。「非常停止スイッチを押せばロケットの点火と電子式タイマの起動を中止す る事は出来るが、バックアップタイマは止める手段がないので正常に作動していれば予定時刻にランチャー上で開頭は実行されてしまう。」
「そうするとノーズコーンは地面に落下して壊れる」
時間がない!

 彼は電子式タイマを信用する事にし、非常停止スイッチを押しませんでした。ロケットは予定時刻に打ち上げられ、搭載した電子式タイマは正常に作動し実験は成功しました。

 バックアップタイマは本当に動いていなかったのか、今となっては解りませんが、そのアンサーが返ってこないのにも関わらず非常停止スイッチを押さないという事は、当時の手作りロケットだからあり得たオペレーションだったのかも知れません。

 その後、信頼性の面でこの方式は改善されました。
(情報:K・S、古橋/松下電器)

(中部博雄、なかべ・ひろお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※