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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第203号

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ISASメールマガジン   第203号       【 発行日− 08.08.05 】
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★こんにちは、山本です。

 週末の9日(土)は、相模原キャンパスの一般公開です。

 連日猛暑が続いています。熱中症の対策を万全にして お出かけください。

 私は、例年どおりスタンプラリーの終点で、スタンプを集めてきた子供たちに参加賞を渡しています。

 今週は、高エネルギー天文学研究系の前田良知(まえだ・よしとも)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:太陽系近傍の大質量星連星がもうすぐ近星点通過ラッシュです。
☆02:S-520-24号機打上げ成功!
☆03:一般公開【JAXA相模原キャンパス】8月9日
☆04:今週のはやぶさ君
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★01:太陽系近傍の大質量星連星がもうすぐ近星点通過ラッシュです。

 X線で最も明るい進化の進んだ大質量星、WR140(ウォルフ・ライエ140番星)と Eta Carina(竜骨座エータ星)はそれぞれ別の大質量星と連星になっています。このどちらもこれから一年以内に近星点通過を行います。

 大質量星とは、太陽よりも一桁以上重い恒星です。中心で核融合がとても速く進むため、太陽より桁違いに速い進化をします。いずれ超新星と呼ばれる大爆発を起こし、その一生を終えます。

 大質量星は、小さな領域で一気に生成される傾向があるため、しばしば連星になります。WR140は7.9年、Eta Carinaは5.5年の長楕円軌道の連星です。近星点は一周期に一回しかきませんので、その通過は10年間に1、2度しかない、とても貴重な観測機会になります。その機会が両方とも偶然今年の年末から始まります。天文学者にとって、正月が2度も来るような、とてもにぎやかな季節になります。

 長楕円軌道を回る天体として、有名な例が彗星です。例えば、1986年に夜空に迫力満点の天文ショーを映し出したハレー彗星は、約75年周期で太陽に接近する長楕円周期を回ります。長楕円周期では重力に勝る太陽から離れたところで多くの時間を過ごすのですが、かならず一周期に一回太陽の近くを回ることになります。これを近日点通過と呼びます。

 彗星が太陽に近づくと、太陽風や太陽光にさらされて外層がはぎ取られてダストを太陽系にまき散らします。これは太陽系の進化にとって、とても重要な現象だそうで、世界のあちこちでこぞって観測が行われました。

 大質量星の連星の場合ですが、どちらも毎秒3000キロメートルにもなる高速の星風を出しています。近星点付近ではこの星風同士が至近距離で衝突し、大量の高温のプラズマを作り出し、X線で明るく輝きます。

 先月10日に打ち上げ三周年を迎えたエックス線天文衛星「すざく」もこの近星点通過イベントを狙って、何度も観測に行きます。Eta Carinaも同様に観測されるそうです。

 二つの天体は進化の進んだ段階にいるため、その星風には炭素や窒素、重いものではネオンなどの元素が豊富に含まれたりします。我々の人体を構成する有機物に欠かせないのが炭素ですが、そのかなりの割合が大質量星で生成される可能性が高いです。近星点通過時にはその元素の診断が一番有利な精度で測定できることになります。

 WR140は日本からも観測できる白鳥座に位置するため、この近星点通過時には「すざく」だけでなく、兵庫県の地上望遠鏡「なゆた」などでも観測が行われるかもしれないそうです。

(前田良知、まえだ・よしとも)

X線天文衛星「すざく」
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/suzaku/index.shtml

「すざく」プロジェクトサイト
新しいウィンドウが開きます http://www.astro.isas.jaxa.jp/suzaku/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※