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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第197号

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ISASメールマガジン   第197号       【 発行日− 08.06.24 】
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★こんにちは、山本です。

 本格的な梅雨模様が続いています。部屋の中も蒸し暑くなってきました。
省エネ対策として、エアコンは控えて窓を開けていると、部屋の湿度が高くなってしまい、プリンタやコピー機が紙づまりを起こして無駄に紙を消費してしまいます。【省エネ】も大変です。

 今週は、宇宙探査工学研究系の小林大輔(こばやし・だいすけ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:スケールが小さいお話
☆02:NeXTがNASA SMEX MOOに選出
☆03:特集:「はやぶさ」がとらえたイトカワ画像
☆04:JAXAシンポジウム2008「空へ挑み宇宙を拓く」
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★01:スケールが小さいお話

 宇宙の話というと、「地球の何十倍の大きさ」とか「何億年前」とかいった、スケールが大きい話が多いですね。今回は、逆にずっとスケールが小さい事についてお話ししようと思います。

 僕達はシリコンチップという部品について研究しています。シリコンチップというのは通称で、ちゃんと書くと「半導体集積回路」という漢字だらけのなんだかいかめしい感じがするものです。途端にとっつきにくい物になってしまいますので、今日は柔らかくシリコンチップという言葉で説明してみたいと思います。

 シリコンチップは、だいたい数ミリ角の薄い板です。例えば、僕等が今実験で使っているシリコンチップは、縦横が2ミリメートル、厚さが0.5ミリメートル程度の大きさです。ちょっとクシャミをしようものなら、たちまち吹き飛んでしまう小さなものです。地球の何十分の一の大きさなのか、すぐには計算できないくらいスケールの小さな部品です。

 そんな小さなシリコンチップですが、威力は絶大です。宇宙科学ミッションを支える重要な部品ですし、皆さんの生活にとっても、なくてはならない大切な部品です。

 例えば、パソコンに入っているCPU、これはシリコンチップの代表格です。CPUはパソコンの中で計算を担当している、ちょうど僕等の頭脳にあたる部品です。メールが読めるのも、ワープロソフトで文章が書けるのも、インターネットで明日の天気を調べられるのも、CPUというシリコンチップがあるからできることです。

 他にも、携帯電話に腕時計、電子レンジや冷蔵庫、バスや電車にタッチ&ゴーで乗れる便利なカードまで、実に様々な場面でシリコンチップは活躍しています。みなさんが会社や学校でお昼ごはんの時、社員証や学生証をかざすだけで支払いができているなら、その中にも彼らはいます。

 彼らがいない生活はもう想像できないかもしれません。僕達の生活はそれ位シリコンチップに支えられています。シリコンチップ万歳であります!


 おっと、話が大きくなってしまいました。今日のお話はあくまで「小さい」がキーワードなので、そちらに話を戻しましょう。

 シリコンチップは、更に小さい「トランジスタ」という部品で構成されています。その大きさは、だいたい縦横が1ミクロン位です。1ミクロンは1ミリメートルの千分の1。0.000001メートルという長さです。もう、肉眼では見えません。顕微鏡でようやく見ることができる小さな世界です。

 トランジスタはとても簡単に説明するとスイッチの役割を担っています。シリコンチップの中でオンとオフを切り替えて計算を実現しています。オンオフオンオンオフオンオン。その切り替えは速いものになるとたった1ナノ秒というとても短い時間で行なわれます。それは10億分の1秒という時間。逆に言うとトランジスタは1秒間に10億回もオンオフを切り替えています。そんな激しい勢いで働いています。みなさんのパソコンが熱くなったら、それはトランジスタ君達が猛烈な勢いで働いている熱気ムンムンの様子を想像してみてください。


 さて、そろそろ僕等の研究の核心をお話ししましょう。

 僕等の研究を説明するには、更にスケールの小さい世界に踏み込まないといけません。

 たった原子1個。1ミクロンの千分の1である、1ナノメートルより更に小さい極小の物体を取り扱う世界です。僕等はそんな小さな原子がトランジスタに当たったらどうなるかを研究しています。宇宙でトランジスタそしてシリコンチップがちゃんと働くことができるようにするために。

 宇宙空間と言うと何もない世界のイメージがありますが、実はそうでもありません。例えば強力なエネルギーを持った原子が飛び交っています。その勢いはすさまじいものです。なにしろ、超新星爆発の衝撃波で加速された原子ですから。

 その強力なエネルギーを持った原子は、衛星の筐体(きょうたい)をなんなく突き抜け、シリコンチップそしてトランジスタを貫通していきます。そして、トランジスタの動作を狂わせてしまいます。

 そうなってしまっては、衛星が正しく動かなくなってしまってしまいます。そこで、そんな高エネルギー原子があたっても、ビクともしないでちゃんと動きつづけるトランジスタそしてシリコンチップを作らなければいけません。

 そのために、まず、そんな高エネルギーの原子が当たったら、トランジスタそしてシリコンチップはどうなるのかを詳しく調べています。例えば、トランジスタが本当はオフのはずなのに、高エネルギー原子の衝突のせいで、間違ってオンになってしまっている時間の長さを調べたりしています。その長さはだいたい500ピコ秒。100億分の5秒位という短い時間です。
僕等はその時間を詳しく測る事に成功しました。

 こんなスケールの小さな世界で、僕等は日夜研究に励んでいます。高エネルギー原子の影響を解き明かし、宇宙でもビクともしない頑丈なシリコンチップを作って、宇宙科学ミッションそしてみなさんの生活に貢献するんだという、大きな志を持って。

 そう。志は大きく。だって、ほら、「あなたってスケールが小さいのよ」とは言われたくないじゃないですか。

(小林大輔、こばやし・だいすけ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※