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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第189号

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ISASメールマガジン   第189号       【 発行日− 08.04.29 】
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★こんにちは、山本です。

 ゴールデンウィーク中のISASですが、今日はみなさんお仕事をしているようです。いつものようにメールが飛び交っています。あっ、でもよく読むと、『明日から6日まで休みます』なんて人もいるようです。

 私は? …… 混雑を避けて、GW以降に休むことにしてます。

 今週は、宇宙情報・エネルギー工学研究系の吉川 真(よしかわ・まこと)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:スペースガード
☆02:ジャック・スワイガード賞授賞式行われる
☆03:サイエンスZEROで「ひので特集」を放送
☆04:インタビュー「水星探査で地球の起源と進化を解明」
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★01:スペースガード

 皆さんは「スペースガード」という言葉をご存知でしょうか? どこかで聞いたことがある、という方も多いかと思います。この場合、「スペース」は宇宙のことで、「ガード」は監視ないし防御のことです。つまり、宇宙を監視したり防御したりするということですが、要するに天体の地球衝突問題に関する活動のことをスペースガードと言います。

 英語では、Spaceguardと書きます。というか、「スペースガード」はうまい日本語訳が見つからなかったので、英語をそのままカタカナで表記しただけです。最初にこの言葉を使ったのは、かのアーサー・C・クラーク(Arthur C.Clarke)で、“Rendezvous with Rama”(宇宙のランデヴー)というSFに出てくる言葉です。アーサー・C・クラークと言えば、『2001年宇宙の旅』(2001:A Space Odyssey)など多数のSFで有名ですが、残念なことに、今年の3月19日に亡くなられてしまいました。90歳でした。

 『宇宙のランデヴー』では、太陽系に侵入してきた天体が発見されるのですが、その発見をしたのが、小惑星の監視をしていた“スペースガード”なのです。その天体(“ラーマ”と名付けられます)は、実は、巨大な人工天体であって、それが太陽系通過中に人類が調べに行き・・・・、とストーリーは展開していくわけですが、SFですから種明かしをしてしまうのはやめておきましょう。この本が書かれたのは、1973年です。もうその頃には、アーサー・C・クラークは、スペースガードの重要性に気が付いていたのでしょうね。そして、その約20年後には、スペースガードの活動が本格化することになります。これは、このSFでの想定よりもかなり早いですね。

 さて、そのスペースガードに関することで最近2つのニュースがありました。1つは、去年の9月15日にペルーに隕石が落下して直径が14mくらいのクレーターができたという“事件”です。“事件”と書いたのは、単にクレーターができただけでなく、異臭がして現地住民数百人が吐き気、めまい、頭痛などで病院で手当てを受けた、というニュースが合わせて流されたからです。人工物の落下ではないということなので、隕石としか考えられませんが、隕石からガスが出るというのもちょっと考えにくいことです。おそらく、隕石が衝突してクレーターができたときに、地中にあった物質が反応したのでしょう。できたクレーターの写真は、例えば隕石ハンターのマイケル・ファーマー(Michael Farmer)氏のweb、新しいウィンドウが開きます http://meteoriteguy.com/carancasfall.htm にでています。クレーターとしては小さいですが、天体衝突の威力が伝わってきます。  もう1つのニュースは、今年の1月30日に小惑星が火星に衝突するかもしれない、というものでした。実際には、衝突せずに、火星表面から2万3千kmくらいのところを通過しました。衝突を期待していた人が多かったので、ある意味では残念だったのですが、こんなことを言うと、“火星人”には怒られてしまいますね。天体の衝突というのは、模擬的な実験はできますが、実際の規模での実験はできません。ですから、火星のように地球に影響のないところで衝突が起こると、衝突についてのいろいろな情報が分かってよいのです。たとえば、1994年にシューメイカーレビー第9彗星が木星に衝突しましたが、その様子を見て、スペースガードの重要性が改めて認識されました。この火星に接近した小惑星は、2007 WD5という仮符号が付いているもので、昨年の11月下旬に発見されたばかりのものでした。

 このように小惑星などの小さな天体の地球衝突の可能性は否定できないのですが、地球に対する接近で最も注目されているのが、確定番号99942番のアポフィス(Apophis)という小惑星の2029年4月13日の地球接近です。この小惑星が発見された2004年末には、地球に衝突する可能性があると騒がれたのですが、現在では、2029年の衝突の可能性は完全に否定されています。ですが、2029年の地球接近軌道によっては、2036年に地球に衝突する可能性がわずかながらあるということです。ちなみに、この天体の大きさは300mくらいあるので、地球に衝突したらペルーのクレーター騒ぎどころではありません。

 このように地球に接近する天体(地球接近天体)のことをNEO(英語でNear Earth Object)と呼びます。現在、NEOは5400個余り発見されています。発見は続いていますから、この数は、今後もますます増えていくでしょう。ちなみに、小惑星で最初に発見されたNEOは、小惑星エロスです。エロスは差し渡しが38kmもあります。このような大きな天体が地球に衝突する確率は、数億年ないし十億年に1度くらいの頻度です。ですから、あまり心配する必用はありません。ですが、「はやぶさ」が探査した小惑星イトカワのような大きさが500mくらいの天体ですと、数万年から数十万年に1度くらいの衝突頻度があります。これでも我々の日常生活の時間から比べればずっと長いですが、でも気になってくる頻度です。

 小惑星探査機は、イトカワを詳しく調べて惑星科学に多くの新しい事実をもたらしましたが、スペースガードとしても地球衝突が現実的に起こりうる天体を世界で初めて詳細に探査したことで貢献しています。ですが、このような天体の探査はイトカワ1例にすぎません。1例では統計的にも扱えないですから、是非、今後も地球に接近する天体の探査を続けて、サイエンスだけでなくスペースガードとしても役に立てたらと思っています。

(吉川 真、よしかわ・まこと)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※