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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第179号

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ISASメールマガジン   第179号       【 発行日− 08.02.19 】
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★こんにちは、山本です。
 2月の平均気温は、例年より低いそうです。最高気温が10度未満の日が続いています。『春よ来い 早く来い』と歌いたくなりますが、つい昨日も、ハクセキレイが餌をついばみに出て来たのを見ました。

 サクラやコブシの花芽も膨らんできました。春はそこまで来ているようですね。

 今週は、宇宙輸送工学研究系の森田泰弘(もりた・やすひろ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:固体ロケットの研究
☆02:JAXAが米国宇宙財団のジャック・スワイガート賞を受賞
☆03:「すざく」のX線CCDカメラ(XIS)データ処理系、冗長系へ切替
☆04:宇宙学校・東京【東大駒場キャンパス】
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★01:固体ロケットの研究

 M-Vロケットにたくさんの声援を送ってくださったみなさん、そして、全国の宇宙ファンのみなさん、お元気でしょうか?今日は、みなさんに可愛がってもらったM-Vロケットの後継機である次期固体ロケットの魅力について、お話したいと思います。

 50年余りに及ぶ日本の固体ロケットの研究も、M-Vロケットの引退により大きな時代の転換点を迎えています。次の50年に向けて、これからのロケットに何が求められているか、ここでよく考えてみる必要があるでしょう。これまでのロケットは、値段が高い上に使いにくい。何しろ、ロケットの打ち上げはまるでお祭り騒ぎのようで、多くの人手と長い準備期間が必要です。アポロの時代からあまり進歩していなくて、こういうのはそろそろ卒業しないとだめですね。次期固体ロケットは、一週間くらいの準備で簡単に打てるようにしたいと思っています。このような簡素な打ち上げの仕組みを、最近の言葉で「即応性」と呼んでいます。次期固体ロケットは、ずばり、低コストで即応性の高いロケットです。

 まずは、低コスト化ですが、安物のテレビみたいに映りが悪くてすぐに壊れてしまうようでは困りますよね。ご安心ください、次期固体ロケットは安くても性能の良いロケットです。高性能と低コストの両立は簡単ではないですが、私たちは、ステージごとにコストと性能の効き具合が異なることに注目して、この難題を解決しています。例えば、第1段ロケットは図体が大きいので燃料の量も多くコストがかさむのですが、ロケット全体の性能(打ち上げることのできる衛星の重さ)に対する影響はそんなに大きくないんですね。ここはコストを下げることに集中して、安く手に入るSRB-Aを使うのが賢明です。一方、上段モータ(第2段と第3段)は全く反対で、小さいので値段はそんなに高くないのですが、ちょっとした性能の違いが衛星の重さに大きく影響してしまいます。こういうところは、まさに固体ロケットの生命線であって、安物は使えない。M-Vロケットの真価もここにあって、全段固体ではやぶさのような惑星探査機を打つことができたのも、世界最高級の上段モータがあったからこそなのです。こういう、いわゆるキーの部分では、性能向上にも頑張って、もともと高性能のM-Vの上段モータをさらに高性能化しようと考えています。具体的には、さらなる軽量化などを目指していて、これは簡単な取り組みではないですが、固体ロケットの一層の発展につながる大切な部分です。こうした作戦よって、次期固体ロケットは、低コスト化を図りながらも、ロケット全体ではM-V並みの高いペイロード比(ロケット全体の性能)をも同時に獲得することができるわけです。

 次期固体ロケットのもう一つの特徴は即応性、つまり、ロケットをもっと簡単に打つための仕組みです。次期固体ロケットでは、搭載の電気製品を知能化して、これまでは地上から人手をかけて行っていた打ち上げ前の面倒な点検を、これからはロケット自身にさせようと考えています。ロケット自身が、自分の体調が十分かどうか判断して飛んでいくわけで、いうなれば、知能を持ったロボットのようなロケットです。M-Vのときのような大掛かりな地上の装置はもういりません。ロケットの状態を端から見守るために、パソコンが1台か2台あれば十分です。
なんだか夢のようだと思いませんか?ぼくが小さい頃に当時の子供たちみんなが思い描いていた世界が、ようやくやってくるようです。このような工夫によって、ロケットの打ち上げはとても簡単になって、第1段ロケットを発射台に立ててから打つまでは、たった6日間。これは世界的にみても最高レベルの改革です。こうしたことは、次期固体ロケットに対する当初の期待をはるかに上回る成果であり、固体ロケットの次の50年の幸先良いスタートになったと言えるでしょう。

 ロケットの打ち上げをもっと簡単で日常的なものにしたい。それが次期固体ロケットの大きな、大きな目的なのです。いよいよみんなで取り組むのにふさわしいロケットになってきたと思っています。それでは、みなさん、M-Vロケットと同様に、これまでどおりの応援をよろしくお願いします。

(森田泰弘、もりた・やすひろ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※