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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第159号

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ISASメールマガジン   第159号       【 発行日− 07.10.02 】
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★こんにちは、山本です。

 9月29日(土)月周回衛星「かぐや(SELENE)」は、地球周回軌道を調整して月へと向かいました。今週4日(木)には最初の月周回軌道へ投入される予定です。

 本格的な月の定常観測が始まるのは12月中旬からの予定ですが、まずは手始めとして、地球から11万kmも離れた宇宙から搭載されているNHKハイビジョンカメラが撮った地球画像(静止画)が公開されました。

詳しくは
http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2007/1001_kaguya.shtml

「かぐや(SELENE)」プロジェクトのページ
新しいウィンドウが開きます http://www.jaxa.jp/projects/sat/selene/index_j.html

 相模原キャンパスは、週末からの雨で秋へとギアチェンジしたようです。月曜日に、いつものように半袖のTシャツで出勤してきたら、長袖や上着を着た人ばかりです。そういえば、10月1日(月)は、JAXAの創立記念日でした。

 今週は、宇宙プラズマ研究系の松岡彩子(まつおか・あやこ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙プラズマ研究者の野望
☆02:「すざく」が明らかにする宇宙の重元素合成の歴史
☆03:μ10イオンエンジンに国際電気推進学会最優秀論文賞
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★01:宇宙プラズマ研究者の野望

 ISASに限らず、一般の方に講演をした経験のある研究者と話をすると、次のような願いを持っていることが多いのです。「もっと自分の研究の話がしたい!」いえ、皆さん決して無関係な話をしているわけではなく、自分の研究の「背景」のお話はなさっているのです。しかし、一研究者が取り組んでいる課題は、その分野の一部分にしか過ぎず、一般の方にそのままお話しするには専門的で細かすぎます。

 私の専門は、宇宙プラズマです。プラズマという言葉自体は、プラズマディスプレーの普及などで、一般にもなじみのあるものとなってきました。しかし、プラズマが正確に何か、知っている方はまだまだ少ないと思います。目では見えないし、知らなくても普段の生活に困ることはありません。ブラックホールだって見えないし、知らなくても困らないのですが、プラズマに比べて知名度はずっと高いようです。ブラックホールが「光までも吸い込んでしまう」という神秘的なフレーズで言い表されるのに対して、プラズマは余りにもありふれたものだからでしょう。例えば、太陽と地球の間は、全てプラズマで満たされているのです。

 専門的な話を読みたくない方は、この段落は飛ばして下さい。プラズマは、日本語では「電離気体」と言い表されます。水素や酸素などから、負の電荷を持った電子をはぎとると、残った部分は正の電荷を持ちます。この正の電荷を持った部分と負の電荷を持った電子とが、混じりあって飛び交っているのがプラズマです。難しい話、終わり。

 一般の方に話をする機会では、なるべくプラズマが何なのか分からなくても理解できるように、内容を組み立てるようにします。宇宙プラズマに関係が深く、視覚的に楽しいもの、太陽の表面とかオーロラの話をメインにします。しかし、私自身の研究は、太陽表面やオーロラと、間接的につながってはいても、そのものずばりではありません。もし私が、現在研究している「磁気圏尾部における電磁流体波動うんぬん」を、学会講演会と同じように一般の講演会でしてしまったら、聴衆の方に居眠り続出、アンケートには 「難しかった」「わからなかった」という感想が並ぶことでしょう。それは、 一番避けなければならないことです。

 上田で開催された宇宙学校の講師としてお話をすることとなりました。与えられた仮のお題は、「惑星探査」。宇宙プラズマ専門の私が、なぜ惑星探査なのか、という説明は、長くなるのでここではやめます。しかし、このお題を頂いた時、心底ほっとしました。やれやれプラズマを説明する必要は無い。私のつけた題は、「水星・金星・火星・木星を探検しよう」です。

宇宙学校の当日、私の講演の番になったところで、少し手違いがあり、画像をスクリーンに映し出すためのパソコンのセットアップに時間を取ってしまいました。校長の平林先生が、間を持たせて下さいます。
「松岡さんは、宇宙プラズマが専門で・・・」
ああっ先生、今日はそれを言ってはだめです。
「・・・いつもプラズマの話は難しいといわれるのですが、今日は・・・」
先生ごめんなさい、今からする話にプラズマは出てこないのですよ。
やっとパソコンの準備が出来て、私は予定通り、プラズマという言葉が一度も出てこない、惑星探査の話をしました。

さて、ここからが緊張の、会場からの質問の時間です。最初は、小学校低学年の女の子です。
「プラズマって何ですか?」
ただでさえなじみの無いプラズマを、イメージしてもらうための漫画も使わずに説明するのは、至難の業です。何とか言葉で説明を試みましたが、残念ながらその子には理解してもらえなかったようです。次の質問。やはり小学校低学年の女の子です。
「なぜプラズマっていうんですか?」
え!それは私も知りません。的川先生が、(インターネットで?)調べて、助けてくださいました。

 こんな具合に不意打ちを食らった私は、プラズマについての質問に惨敗してしまいました。しかし、ちょっと嬉しくもあったのです。一般の人も、 小さな子どもも、プラズマについて知りたいのかな?

 今度、宇宙プラズマについて一般の方に話をする機会があったら、もっと自分の研究に近い内容を、頑張って取り入れてみようと企んでいます。それは、それが面白いと知っていて、世界で一番熱く語れるのは私だから。わかりやすく話すことは、簡単なことではありませんが、聴衆の方が少しでも興味の芽を持っていて下さるのであれば不可能ではないと、希望を持っています。

(松岡彩子、まつおか・あやこ)

磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」のページ
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/geotail/index.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※