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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第154号

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ISASメールマガジン   第154号       【 発行日− 07.08.28 】
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★こんにちは、山本です。

 猛暑が続いていますが、秋の気配も感じられるようになりました。
午後5時頃、夕暮れとはまだいえない明るさですが、「ヒグラシ」が急に鳴き始めたりすると、「夏も終わりか」などと思います……

 今夜は2001年1月以来の皆既月食です。関東地方は【雨】と予報されています。東京・神奈川の降水確率は30〜50%なので、なんとか雲の切れ間からでも『月』を眺めることはできないかな

 さて今週は150号でお知らせした、第6回君が作る宇宙ミッション事務局長の南部陽介(なんぶ・ようすけ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:大学院生にとっての「きみっしょん」
☆02:「あかり」が小惑星イトカワの観測に成功!
☆03:2007年度第2次気球実験、8月22日より開始
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★01:大学院生にとっての「きみっしょん」

 今年もまた、「きみっしょん」を修了した高校生たちは、自分たちの宇宙ミッションを作り出すことを通じて、多くのものを得て行き、また残して行きました。本稿では、「きみっしょん」と大学院生の関係に焦点を当てて、「きみっしょん」を見ていきたいと思います。

 まずは、「きみっしょん」をご存じない方のために簡単にご紹介を。
「きみっしょん」は、正式名称を「君が作る宇宙ミッション」といい、20名程度の高校生がISASに4泊5日で合宿し、大学院生スタッフのサポートのもと、自分たちの宇宙ミッションを作り上げるという体験学習プログラムです。毎年夏休みに開催され、今年度は8月6日から10日に行われました。「自分で考え、自分で決定し、自分で作業する」をモットーに、研究者が日夜行っていることを高校生が体験する機会となっています。「きみっしょん」の詳細は、ホームページやブログを参照してください。

【ホームページ】
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/kimission/
【ブログ】
新しいウィンドウが開きます http://edu.jaxa.jp/kimission-blog/a/

 さて、僕がはじめて「きみっしょん」に参加したのは、修士課程1年のとき、3年前のことです。当時は、『塾の講師の延長』程度にしか、「きみっしょん」スタッフのことを捉えておらず、「きみっしょん」の意義もほとんど理解していませんでした。しかし、高校生たちが一心不乱に苦心しながらも宇宙ミッションを作り上げていく姿を見て、

『僕も高校生の時に、「きみっしょん」のような体験がしたかった!!』

と心底思い、同時に、高校生にとっての「きみっしょん」の価値を少なからず理解することができました。少し格好をつけて言うと、

『高校生には、カリキュラムという牢獄に閉じ込められた好奇心を存分に開放できる場が必要であり、それを為し得るは、こと宇宙に関しては、日本の宇宙科学を牽引してきたISASにおいて他にあらず、同じわだかまりを経験してきたであろうISASの大学院生こそがスタッフに相応しい。』

ということです。そして、そのときはじめて、「高校生のために何ができるのか」と考えるようになりました。

 次の年の「きみっしょん」では、コアメンバーとして、初期段階の企画・運営から参加しました。外から見ていると、「きみっしょん」は毎年ほとんど同じように見えるかもしれませんが、実は内部ではかなり変化しています。

 コアメンバーとしての参加を通じて、スタッフもまた、「君が作る宇宙ミッション」という名のミッションを作り上げて行くのだという意識が芽生えました。「きみっしょん」は、高校生たちが存分に頭脳を酷使する場であると同時に、「高校生たちに最高の5日間を提供したい」と願い、限界まで肉体と頭脳を酷使するスタッフたちにとってもまた大きく成長する場なのだと実感しました。「きみっしょん」は、高校生たちにとてつもなく充実した5日間を提供する一方で、ひとつの目的に向かい、理学・工学の垣根を越えて、40名以上の大学院生が協力し、同志となるスゴイ機会なのです。

 さて、理学・工学という分類は、一般の方には少し分かりにくいかもしれません。ISASには、人工衛星などを使って宇宙に関する情報を集め、宇宙における様々な真実を追究する理学系研究者と、如何に効率と信頼性の高い技術を確立するかを目的とした基礎研究に従事する工学系研究者という、大きく分けて2種類の人種がいます。理学系研究者と工学系研究者は、人種と言っても語弊がないほど思考回路が違うというのは、僕だけでなく、多くの大学院生や職員が賛同することと思います。研究者の卵である大学院生もまた、その相異を継承しており、実際にミッションを作っていく際にも、しばしばスタッフ間で意見の対立が生じます。

 例えば、宇宙ミッションを作る過程は、「目的を決める」、「方法を決める」、「ミッションを評価する」という3段階に分けられるのですが、そのうちどこに重点を置くかは、理学・工学で大概意見が分かれます。もちろん、どの過程も重要だということは、誰しも承知しているのですが、「きみっしょん」の限られた時間の中で、どこにプライオリティを持たせるのかが問題となります。理学系の大学院生は、「ミッションの目的」を重視し、より大きく深遠な目的(例えば、『宇宙の進化を理解する』など)とミッションの当面の目的(例えば、『最遠の銀河を観測する』など)とをつなげようとし、筋道がきちんと通るまで議論を繰り返すことを好みます。一方、工学系の大学院生は、「ミッションの方法」あるいは「ミッションの妥当性」を重視する傾向があります。誤解を恐れずに書きますと、「ミッションの目的」は、魅力さえ発していればそれで良く、必ずしも、学問的な価値を求めません。その代わり、目的を達成する方法(例えば、『銀河系の外に望遠鏡を送り込む』など)に関しては、独創性と具体性を強く求めます。
(余談ですが、「きみっしょん」では、この過程において、高校生は、手を動かして様々な計算を行い、日頃の勉強の使い道や自分の不勉強を実感して帰って行きます。)

 したがって、「きみっしょん」で高校生がミッションを作っている裏で、スタッフ同士もまた頻繁に意見をぶつけ合っています。スタッフはあくまでサポート役なのですが、まるで自分たちのミッションかのように、その議論はかなり白熱したものになります。それほど一生懸命高校生のことを考えているということでしょうか。

 ところで、理学系と工学系の学生が白熱した議論を展開するという機会は、通常の大学院カリキュラムの中においては、存在しえないものです。しかし、理学系研究者の志向を理解する工学系研究者、あるいはその逆の者こそが、日本を支えるに足る研究者であると思います。したがって、「きみっしょん」という機会は、ある意味で、大学院のカリキュラムと相補的なものであるように感じます。

 そういった色々な思いを胸に、今年度は、事務局長として、「きみっしょん」と接することになりました。事務局長として強く実感したのは、「きみっしょん」が多くの職員の厚意に支えられているということ、また、スタッフの優れたチームワークに支えられているということでした。

 かつて、NASAマーシャル宇宙センターを率いたフォン・ブラウンが次のようなことを述べていたそうです。

『良いチームはみな、、、冷静な科学的言語では評価が難しい一定の性格をもっている。良いチームにはみな帰属の意識、誇り、そして集団で物事を成し遂げる気持ちがある。自ら進んで取り組むという要素がそこにある。』

今年度の「きみっしょん」スタッフは、まさに、そのような良いチームを構成していたと思います。「高校生たちに最高の5日間を」というスローガンの下、それぞれが為すべきことを理解しており、指示を出すよりも先に、期待以上の働きをする。必要なときはチーム一丸となって、個人で動くべき時は献身的に働く。これほど良いチームに支えられたプロジェクトは、めずらしいのではないでしょうか。そして、このような良いチームを生み出す根底にあるものこそが、「きみっしょん」の魅力なのだと思います。

 4月の募集から約4ヶ月間、「きみっしょん」のスタッフは、高校生たちのために身を粉にして働きます。そのようなスタッフに支えられ、「きみっしょん」に参加した高校生たちは、かつてないほど頭脳と情熱を必要とする体験を通じて、大きく成長し、かけがいのない思い出を得ていきます。一方で、ひとまわり大人になった高校生たちを見送るスタッフもまた、計り知れない充実感を胸に抱き、明日からの日常と向き合い、歩みを進めていきます。そうした充実感こそが、「きみっしょん」が放つ魅力を形作る核となるものだと思います。

 「きみっしょん」には、大学院生にとって、多くの付加価値があることは、上に書いた通りです。しかし、スタッフを引きつけている「きみっしょん」の魅力は、そうした付加価値ではなく、「きみっしょん」を終えた後の充実感にあると思います。そして、そんな「きみっしょん」だからこそ、来年があるのです。つまり、過去の「きみっしょん」に参加した高校生たちが築き上げた「きみっしょん」の魅力が、次の「きみっしょん」の原動力となりえるのです。その意味で、高校生たちは、「きみっしょん」から多くを学ぶと同時に、「きみっしょん」の未来を残して行ったのだと思います。

 以上のように、「きみっしょん」は、関係者全員で学び、全員で支える一蓮托生のイベントです。それは、高校生たちにとってはもちろん、大学院生にとっても貴重な体験となります。このように素晴らしい機会が、今後も末永く続くことを心より願っています。

 末尾になりましたが、「第6回君が作る宇宙ミッション」でお世話になった多くの方々に、この場を借りて、御礼申し上げます。

 また、長くまとまっていない稚拙な文章に最後までお付き合いいただいた読者の皆様におきましても、心より感謝申し上げます。

(南部陽介、なんぶ・ようすけ)

「きみっしょん」のページ
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/kimission/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※