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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第152号

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ISASメールマガジン   第152号       【 発行日− 07.08.14 】
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★こんにちは、山本です。
 巷ではお盆休み、帰省ラッシュと例年のニュースが流れています。ISASも夏休みの人たちが多いようです。

 しかし、三陸の大気球実験に出張中のメンバーや、観測ロケットの実験準備中のメンバーもいます。モチロン、衛星運用のスタッフもいますし、『のんびりと夏休み』というより、仕事の合間を縫って夏休みを取っています。ということでしょうか。

 今週は、宇宙輸送工学研究系の國中 均(くになか・ひとし)さんです。

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★01:はやぶさ「逆さ箒」の術
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★01:はやぶさ「逆さ箒」の術

 ISAS國中です。「箒(ほうき)」と「悪ガキ」の話から入ります。

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 悪ガキの頃、掃除をサボって、箒を逆さまにして、柄の先を手の平に載せて、オッとっと、、、とバランスを取りながら行ったり来たりー、なんて遊びをしたのは、僕だけじゃないですよね(!?)。どんな風にしたのか、思い出してみましょう。(やった経験のない皆様は想像してみてください)バランスをとっただけで、静止していたければ、箒の重心の真下に手の平を置きます。右におっとっと、と行きたければ、重心より左に手の平を移動させて、ワザと箒を右に倒れ気味にさせて、その速さに合わせて、歩みを進めれば、首尾よく右に進めます。左へも、前にも、後ろにも、以下同様です。今は、「はやぶさ」はこれと似た方法で推進と姿勢制御を同時に行っています。箒がはやぶさ探査機本体、箒を支える手の平がイオンエンジンに置き換えて考えてみてください。

 地球から小惑星までの往路では、本来の設計(宇宙技術のセオリー)通り、強力なアクチュエータにて探査機を3軸姿勢で維持した上で、イオンエンジンの推力の大きさと方向を調整しながら、軌道変換を実施していました。並進力以外に、イオンエンジンが発生する回転力(トルク)は、姿勢保持に対しては外乱となるため、これをアクチュエータで押さえ込んで運用しました。ところが、表面着陸・離陸の過程で複数の故障が発生し、姿勢制御アクチュエータが使えなくってしまいました。そこで復路では、それまで外乱であった回転力を積極的に探査機の姿勢制御や維持に振向けることにしました。
まず、リアクションホィール1台を作動させて、探査機のスピンを止めます。
次に、イオンエンジンの推力方向調節により姿勢制御を行います。イオンエンジンは、±5度傾けることのできる台(ジンバル)に搭載されています。
姿勢を変更せずそのままステイする場合には、イオンエンジンの推力方向が探査機の重心を貫く位置にします。推力方向が重心を逸れる配位にすれば、回転力が発生し探査機の姿勢を変更することができます。(箒と手の平の例えでは、「右に進む場合には、手の平を左へ」と書きましたが、「はやぶさ」ではリアクションホィールのジャイロ効果が作用するので、傾ける方向と移動の方向は一致しないことを追記します。)

 さてここで大きな問題が立ちはだかります。姿勢制御は、3軸分行わなくては完成されません。リアクションホィール1台とイオンエンジンでは2軸分の制御能力しかなく、推力軸周りに探査機の姿勢を動かすことはできません。冒頭の例に立ち戻ると、手の平の上に乗せた箒をその柄の周りで回転させ、任意の位置で止める荒技といえるものです。そこで登場するのが、太陽光圧力です。光に押す力があるとは、信じられないかもしれませんね。その力は僅かで、地球の位置で1平方メートルの面積に働く力は1mg(ミリグラム)程度です。イオンエンジンによる制御によって、探査機の姿勢を太陽から傾けると、太陽光圧力の作用軸を重心から逸らすことができ、計画的に回転力が発生します。差詰め、箒に当る風の力を利用しているということになりましょう。こうして、リアクションホィールによる1軸、イオンエンジンによる1軸、太陽光圧による1軸、合計3軸の姿勢制御が揃います。しかし、太陽光圧力は、はやぶさ探査機の表面反射率に左右されますが、その程度は未知でしたから、実地に経験を積んで「姿勢制御術」を習得しました。

 今行っている推進と姿勢制御は、なにも「はやぶさ」の特殊事情に対応するためだけの緊急避難措置ではありません。今後、木星に到達する長距離宇宙船を、日本国単独の技術で達成しなければならないと私は考えています。
その一例が、大型膜面太陽電池をスピン展開し、大面積で太陽光を集め、これを電力に変換し、イオンエンジンをドライブする「ソーラー電力セイル」です。膜面の展開、姿勢維持、スピン速度調整、等には太陽光圧を積極的に利用しなくては成り立ちませんから、その良き練習台(テストベット)なのです。

 「はやぶさ」を倒さず、うまく地球にまで届かすために、悪ガキの頃に鍛えたあの逆さ箒の術が、この年になって、宇宙の彼方でお役に立つとは思いもよりませんでした。

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 /\  /  Back to the Earth
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  /Ion Beam Jet

(國中 均、くになか・ひとし)

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