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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第151号

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ISASメールマガジン   第151号       【 発行日− 07.08.07 】
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★こんにちは、山本です。

 ISASでは、今年もミンミンゼミが鳴き始めました。連日、気温30度を超え、やっと夏本番といったところです。

 午前中から、見学者用パスを下げた人たちを見かけるようになりました。これからISASの見学を考えている方は宇宙研フリー散策マップを参考にどうぞ。下記ページからダウンロードできます。
(相模原キャンパス見学案内⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/inspection/open.shtml

 今週は、システム開発部の山本高行(やまもと・たかゆき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:超小型探査機用の気液平衡スラスタ開発
☆02:「すざく」新しいタイプのブラックホールを発見!
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★01:超小型探査機用の気液平衡スラスタ開発

 ロケットの打ち上げの際に生じる余剰能力・スペースを利用して、超小型衛星を一緒に打ち上げてもらうという方法があります。打ち上げ日時や軌道はメインとなる衛星によって決まってしまいますが、条件さえ合えばロケットの打ち上げ費用は要らないというメリットもあります。

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、昨年太陽観測衛星「ひので」を打ち上げたM-Vロケット7号機には二つの超小型衛星が相乗りしていました。そのうちの一つがソーラー電力セイルのための超小型実証衛星でした。
この衛星は残念ながら有用なテレメトリデータをほとんど得ることはできませんでしたが、様々な状況証拠から間接的にソーラーセイルを展開したことまでは言えそうです。

 この超小型ソーラー電力セイル実証衛星(通称SSSAT)には小さいながらも衛星のスピンアップや姿勢制御、軌道制御のための推進系が搭載されていました。これは気液平衡スラスタと呼んでいるもので、液体として燃料を搭載し、燃料の蒸気圧を利用するだけで気化した燃料を気体として噴射することで推力を得ます。カセットコンロなどで使用する燃料ボンベのような もので、火は使わずに燃料の生ガスをプシューと噴き出すようなイメージです。

 ソーラーセイルの展開には、衛星のスピンによる遠心力を利用するのですが、スピンをかけるために推進系が作動する必要があります。今回はセイルが展開できたことから、推進系も正常に作動したと考えています。しかしいかにもデータ不足のため、現在も引き続き性能アップを目指して開発を継続しています。

 またこのSSSATを設計製作した経験を生かして、今度は惑星間に飛び出していくような新たな相乗りでの打ち上げを目指した小型ソーラー電力セイル探査機の開発を進めつつあります。質量が数kgから数十kgといった超小型〜小型の探査機には搭載可能なスペースや重量、利用可能な電力量などに制約があるので、探査機の姿勢や軌道を変更するための推進系には小型、軽量、低電力、無害な燃料であることが望ましいと考えられます。またソーラーセイル探査機の場合には、セイルを展開すると探査機の慣性モーメントが大きくなるため、推進系だけで制御しようとすると探査機規模の割に大きな推力が必要になります。このような要求を満たす都合のよい推進系というものは、なかなか存在していないため、なんとか要求を満たせるような推進系を開発しようと気液平衡スラスタの実験を進めています。

 宇宙研のある相模原キャンパスにはいくつかの風洞や真空チャンバの施設がありますが、この研究開発のための実験は惑星環境風洞という風洞がある大きな部屋の奥の方にある真空チャンバを使用して行っています。この真空チャンバは(最近あまり見かけなくなってきましたが)電話ボックス20個分くらいの大きさがあり、火星大気ぐらいの圧力まで真空ポンプにより到達することができます。真空度としてはあまりよくありませんが、基礎データを得るには十分です。

 ただ大きな部屋の奥まったところに真空チャンバがあるため、真空ポンプを動かして実験を行っているときはいいのですが、実験準備のために一人で(静かに?)作業を行っていたりすると、風洞に立ち寄った方や見回りの方にいきなり照明を消されてしまうことがたまにあります。そうなると真っ暗闇の中を部屋の入口まで手探りでたどり着き、照明を再度点灯させなければなりません。しかも照明はよく学校の体育館などにある水銀灯なので再び明るくなるまでしばらく待たないといけません。宇宙開発もなかなか大変です。

 この気液平衡スラスタは今後様々な超小型衛星に応用可能と考えています。超小型衛星ならではの特性を生かし、民生品を活用した低コスト化が達成可能なシステム構築の方法もあるのですが(SSSATでは実際にそのような方針で製作しました)、衛星推進系として大型衛星と同様の安全性、信頼性を問われると、非常に高値となる宇宙用部品を使わざるを得ないこともあり、なかなかバランスの難しい問題もあります。

 しかしまずは小型のソーラー電力セイル探査機において、この推進系の性能を実証し、実際にきちんと働いたというデータを得たいと思っています。 近い将来、超小型衛星の推進系として標準的な地位を獲得できることを夢見てこれからも地道に実験を進めていきたいと思います。

(山本高行、やまもと・たかゆき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※