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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第145号

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ISASメールマガジン   第145号       【 発行日− 07.06.26 】
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★こんにちは、山本です。

 相模原キャンパス周辺も、やっと梅雨らしい天候になってきました。今年は、なぜかアジサイの色が鮮やかな気がします。

 ISAS一般公開まであと一ヶ月をきりました。
今年のテーマは「はるかな宇宙(そら)をつかむ」です。毎年恒例の宇宙環境利用科学研究系の黒谷さんデザインのポスターもWebでお楽しみください。

 今週は、宇宙環境利用科学研究系の長汐晃輔(ながしお・こうすけ)さん です。

── INDEX──────────────────────────────
★01:砂は砂でも?
☆02:「かぐや(SELENE)」種子島でお披露目
☆03:宇宙科学研究本部 一般公開のお知らせ
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★01:砂は砂でも?

 小惑星探査機「はやぶさ」は、読者の皆さんも良くご存知のように、小惑星「イトカワ」にタッチダウンし、表面の砂を回収して現在地球に帰還中である。しかし、自分は宇宙研で働いているが「はやぶさ」のプロジェクトには絡んでいないため、実はあまり詳しくは知らない(新聞を読んで知るのが 通常である)。では、なぜこのようなタイトルにしたかというと……

 1年前にさかのぼるが、S先生がいきなり部屋に入ってきて自分の机の上に本を2冊置いて、一言“来年受けて”と。見るとエックス線作業主任者試験用の参考書および例題集であった。エックス線とは、放射線の一種で、目に見えないけれども(だから発見当時X(エックス)と名づけられた)、回折現象といって物質にあてると強めあったり弱めあったりする現象を利用して、身の回りの物質の構造を解析するために研究ではよく利用されている。
医療用の胸部エックス線は、皮膚などの柔らかいものは透過し、骨などの硬い物では透過しないという現象を利用した写真撮影装置であり、同じものである。日々の研究では、微小重力等の宇宙環境を利用した物づくりをテーマにしているため、エックス線による物質の構造の解析は欠かせないものである。ただ、エックス線は、体に直接浴びると放射線障害を起こすため、取り扱いには注意を要する。そろそろエックス線の解析装置を管理する側として国家試験を受けて資格を取っておきなさいというのが“来年受けて”の意味であり、もちろんNOという選択肢はなく、この年になって試験勉強をするはめになった。

 話を「はやぶさからの砂」に戻すと、放射線関連の会議に参加するようになって、面白い話を聞いた。はやぶさが地球に帰還するのは、2010年頃であるが、すでに宇宙研では、はやぶさが回収した砂の解析方法が計画されている。貴重な砂を地上で解析するときに最も怖いのは、砂がもつ静電気だそうだ。つまり静電気のために貴重な砂が飛び散ってしまい、その取り扱いを困難にしてしまうのだそうだ。実はこの厄介な静電気を除去するのに放射線が有効なことが知られており、この方法を用いることが検討されているとのことである。放射線の取り扱いには専門の知識が必要であると同時に厳しい管理が要求される。この話からもわかるように、非常に多くの研究者によって「はやぶさ」のプロジェクトは成り立っており、回収した砂の解析にも多くの人の知恵が生かされて宇宙の成り立ちへの理解に近づいていっている ことを強く感じた。

 最後に、自分はというと、エックス線の国家試験に向けて記憶力の落ちた頭を振り絞り参考書片手に例題を繰り返し(?)、何とか試験を受けた。
午前中2時間、午後2時間の試験であったが、1時間経ったら解けた者から退席してよいという試験であったため、1時間経過時に100人いた部屋から授業の一環で受けに来ていたと思われる大学生が一斉にいなくなった。残ったのは自分を含め40〜50代ばかり…20名程度。大学院の入試以来10年ぶりの試験で、自分の頭の老化に愕然とさせられた。とはいえ、試験から開放されたので、自分にとっての「はやぶさの砂」である微小重力環境下での材料の研究に没頭できればと思っている。

(長汐晃輔、ながしお・こうすけ)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※