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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第144号

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ISASメールマガジン   第144号       【 発行日− 07.06.19 】
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★こんにちは、山本です。

 今週末23日(土)は、やっと「はやぶさの大いなる挑戦」がNHK教育テレビで放映されます。
詳しくは、科学技術映像祭サイト
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://ppd.jsf.or.jp/filmfest/index.htm)で確認してください。
念のためNHKの番組表を確認することをお勧めします。

 先週号に掲載したSELENEの愛称「かぐや」の読み方について、読者から質問がありました。

『質問なのですが、 月周回衛星SELENEの愛称「かぐや」のアクセントは、か・ぐ・や のどこにおくのがよいでしょう? フラットな読み方でしょうか?
プラネタリウムなどで解説する際に、ISASさんの推奨する読み方で紹介したいと思います。』

JAXA全体としての方針は、以下になりました。
『日本語読みでは「か」にアクセントをつけます。ただし外国語での発音を規定するものではありません。』

 確かに、日本語の読み方は難しいですね。別の読者からは、『…… 最初に「かぐや」の名称を知った時は「家具屋」を連想しました。……』という メールも戴きました。

 今週は、宇宙科学共通基礎研究系の今村 剛(いまむら・たけし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:月の衣
☆02:「かぐや(SELENE)」打上げ日決定!
☆03:大気球(B50-49号機)による気球基本搭載機器の飛翔性能試験に成功
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★01:月の衣

 お盆のような月を夜空に仰ぐたび、その金色の体が羽衣のような神秘の布をまとっている気がします。なぜって・・? 今夏打ち上げられる日本の月周回衛星「かぐや」(セレーネ)が行う15種類の科学調査のひとつ、電波科学を紹介しましょう。

 ターゲットは月の表面をおおう電気をおびたガス、「電離層」です。おかしいな、月には空気がないはず、そう思う方が多いでしょう。実は月面の近 くには、月から飛び出したアルゴンやネオンといった原子が飛び回る、とても薄い大気があります。これは真空と言っても差し支えないくらい薄いものですが、ここに太陽からの紫外線が当たると、電子とイオンが発生して電離層ができます。

 月の電離層の濃さは、理論的な予想によれば1立方センチあたり電子が1個程度で、これは地球の電離層(1立方センチあたり電子が10万個くらい)に比べれば無きに等しいものです。ところが、月面から数十キロの高さにわたって1立方センチあたり千個もの電子がある、という報告が1970年代 にロシアの月周回機ルナ19号と22号によってもたらされました。1個でも千個でもいいじゃないかと思われるかもしれませんが、その違いを見過ごせないのが科学者というものです。そこに宇宙の真理への入り口が隠されているかもしれないのですから。

 ルナ19号と22号は電波科学という観測を行いました。これらの周回機が地球から見て月の裏側に隠れるとき、周回機から地球に向けて送られる電波が月の縁のあたりでわずかに屈折する様子がとらえられたのです。ロシアの科学者たちは、この屈折は月面近くの濃い電離層の中を電波が通るために起こると結論しました。電波の屈折が昼の月面では起こるが夜の月面では起こらないこともわかりました。このことは太陽紫外線に照らされて電離層が作られるとすれば当然です。この観測の他にも、かに星雲の中にあるパルサーという天然の電波源から発せられる電波が、月の縁で屈折する様子が、何度かとらえられています。

 これらの結果は残念ながら、理論的な予想とあまりにも違っていることと、その後追試がないことから、多くの研究者からマユツバとみなされて無視されています。しかし電波科学屋から見て、彼らの観測データはあながちでたらめには見えません。

 濃い電離層はありうるのでしょうか? たとえば、月面には磁気を帯びた場所があちこちにありますが、この磁場が電離層を外界から守って電子の数を増やすかもしれません。月の内部からガスがしみ出ている場所があれば、そのようなガスが紫外線を浴びて濃い電離層を作るかもしれません。また、1972年にアポロ17号の宇宙飛行士が、月の地平線の上にかすみのような光が広がっている様子をスケッチに遺しています。これは電気を帯びた細かなちりが月面から静電気で巻き上げられたものという考えがあるのですが、そうだとすると、この中にかなりの量の電子が含まれていることも考えられます。いずれにせよ、これまでの月面のイメージを変えるものですし、月面での電波天文観測など将来の人類活動にも影響があります。

 私たちは電波科学の方法で、ただしルナ19号と22号よりもはるかに精密に、月の電離層を探ります。「かぐや」からは2機の子衛星が分離されて一緒に月のまわりを回るのですが、このうちの1機が発する電波が月の縁で屈折して地球に届く様子を、1年以上にわたってくり返し調べます。電波は長野県の山中にある直径64メートルの巨大なアンテナで受信されます。38万キロの距離を電波で結んで行う、壮大な実験です。

 30年にわたって忘れられた存在だった月の電離層は、神秘の衣は、はたしてあるのかないのか?

 「かぐや」の電波科学の結末をお楽しみに!

(今村 剛、いまむら・たけし)

SELENEの科学
http://www.isas.jaxa.jp/j/column/kaguya/index.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※