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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第137号

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ISASメールマガジン   第137号       【 発行日− 07.05.01 】
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★こんにちは、山本です。

 ゴールデンウィーク真っ只中のISASです。連休の合間も、モチロン仕事をしています。と言いつつ、明日は休暇を取って5連休にするつもりです。

 今週のISASメールマガジンは「はやぶさ」の記事が満載です。連休中は、ゆっくり「はやぶさ」のデータアーカイブを楽しむのはどうでしょう。

 今週は、4月から対外協力室に赴任してきた阪本成一(さかもと・せいいち) さんです。
記事中に書かれている『ALMAの星座カメラ』ですが、原稿を受け取って調べたときにはちゃんと繋がっていたのに、今朝は「サーバが見つかりません」と言われてしまいました。少し様子を見ていただければと思います。

── INDEX──────────────────────────────
★01:南天の星空とインカの星座
☆02:「はやぶさ」地球帰還に向けた本格巡航運転開始!
☆03:JAXA特集「はやぶさ、地球への旅に出発
☆04:「はやぶさ」の取得したサイエンスデータアーカイブの公開について
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★01:南天の星空とインカの星座

 対外協力室に4月1日付けで着任した阪本と申します。ここでの私の仕事は宇宙科学本部と一般社会とのインターフェースとなることで、宇宙科学の広報・普及・教育・渉外活動など広範囲に及びます。さまざまな取り組みを考えていますが、それは成果が見え始めてからその都度宣伝がてらご紹介することにして、今回は私自身のことについて少しお伝えしておこうと思います。

 私のバックグラウンドは電波天文学者です。一口に「電波」とは言っても赤外線よりも波長の長い電磁波が全部「電波」ですから非常に大雑把な分け方ですが、私は電波の中でも「ミリ波・サブミリ波」と呼ばれる遠赤外線に近い電波で宇宙を観測するのが得意です。波長が0.1mmから10mmのこれらの電波は星の生まれるもととなる「暗黒雲」という非常に冷たい天体からも放射されるため、この種の電波を観測することで、宇宙で星や惑星、あるいはその集合体としての銀河が生まれる様子を解き明かすことができるのです。前の職場の国立天文台では、この研究を進めるために、南米チリ北部の標高5000mのところに日米欧が共同で建設中の大型の電波望遠鏡システムである「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)」プロジェクトに深く関わってきました。地球の裏側にあるチリ北部の高地を建設場所として選んだのは、そこが年間降水量わずか数十ミリのアタカマ砂漠と標高6000m級の山が連なるアンデス山脈の交点に当たり、宇宙から届くミリ波・サブミリ波を地球大気に含まれる水蒸気に吸収される前にキャッチすることのできる、世界でも珍しい場所だからです。

 南半球の、都市部から離れた郊外では、日本から見ることのできない南天の星空を楽しむことができます。南の空には、南十字星や、銀河系の弟分である大マゼラン雲・小マゼラン雲という銀河をはじめ、日本から見ることのできない天体があります。天の川(銀河系)の中心がある「いて座」も天の赤道よりもかなり南側に寄っていますので、南半球からみる天の川は日本から見るよりもずっと見栄えがします。あまりの星の多さに、むかしアンデス山脈に栄えたインカ文明の人たちは、一つ一つの星を結んで星座を作るだけではなく、天の川の中にぽっかりと空いた星の数の少ないところの形をリャマ(ラクダの一種)やキツネ、ヘビ、カエル、ウズラなどの身近な生き物になぞらえて星座としていたほどです。

 いまではインカの人たちが生き物に見立てた星の数が少なく見えるところは「暗黒雲」と呼ばれていて、星そのものの数が少ないのではなく、天の川の星々の光をその手前にある宇宙の雲がさえぎっているために暗いのだということが分かっています。例えばインカの「ウズラ座」は南十字星のすぐ脇にある暗黒雲で、「南の石炭袋」と呼ばれています。私たちが明るい星と星を結んで作っている星座は宇宙の別の場所から見るとまったくばらばらになってしまうのに対して、インカの人たちが星座としていた暗黒雲はひとつの天体なので、インカの人たちの方が天文学のセンスがあったのかもしれません。

 このような暗黒雲は、温度がマイナス250℃ぐらいしかないので、近くの星に照らされたり、背景の明るい星々をさえぎったりでもしない限り、目に見える光ではその姿を認めることができません。しかし、例えば「あかり」などの赤外線天文衛星や、ALMAなどのミリ波・サブミリ波望遠鏡を使うと、これら目には見えない低温の天体を暗視カメラのように直接見ることができるのです。

 ところで南半球の星空はこのようにたいへん魅力的ですが、実際に気軽に南半球の星のきれいなところまで出かけていって夜空を眺めることのできる人は多くないでしょう。そこで、ALMAの山麓施設にはインターネットで操作できる星座カメラが置かれていて、日本とチリとの約半日の時差を利用して、日本の昼間にチリの夜空を観察できるようになっています。この星座カメラのネットワークは宇宙プラズマ研究系教授の佐藤毅彦さん(当時は熊本大学)らが中心となって整備したもので、RealPlayerをインストールしたパソコンがあれば、
新しいウィンドウが開きます http://rika.educ.kumamoto-u.ac.jp/i-CAN/からインターネット経由で誰でもカメラを操作できるようになっています。私自身、小学校の特別授業の一環で使ったことがありますが、南半球の夜空が日本から日中に見られるとあって、子供たちにも先生にもなかなか好評でした。先日のマックノート彗星の接近の際にも、日本では太陽との位置関係が悪かったため目で見ることはできませんでしたが、チリに設置されたカメラを通じてその雄姿を見ることができました。天の川に浮かぶ南十字星はもちろん、条件がよければ黄道光も見ることができるので、一度のぞいてみてはいかがでしょうか。

 最近2年間というもの私自身は年の半分以上はチリにいて、現地で起きるもろもろのことに対処してきましたので、南天の夜空を見ると懐かしささえ感じます。これまでALMAプロジェクトの広報も精力的に進めてきましたが、科学衛星と同様に観測装置を実際に見学いただくことができないことなど、さまざまな困難を克服しながらプロジェクトの紹介をしてきたつもりです。こちらでもこれまでの経験を活かして精力的に取り組むつもりです。一般向けの講演会などにも飛び回るつもりですので、ご要望がありましたらお声をおかけください。

(阪本成一、さかもと・せいいち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※