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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第120号

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ISASメールマガジン   第120号       【 発行日− 06.12.26 】
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★こんにちは、山本です。

 2006年も最後の号になりました。今年打ち上げられた2機の衛星の活躍がISASのWebページを飾り、ISASメールマガジンにも多くの記事が載りました。

 また、「はやぶさ」には、たくさんの読者の方から応援を戴きました。
ありがとうございます。

 年明けの次号は、1月9日の第121号になります。

 皆さん、よい年をお迎えください。

 今年最後は、「はやぶさ」の話題です。技術開発部試験技術開発グループ の清水幸夫(しみず・ゆきお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「はやぶさ」近況
☆02:「ひので」初期観測成果を発表
☆03:セレーネ「月に願いを!」キャンペーン実施中
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★01:「はやぶさ」近況

 今週は小惑星探査機「はやぶさ」の近況についてお伝えしましょう。読者の皆さんも良くご存知のように、「はやぶさ」は小惑星「イトカワ」の観測・タッチダウンに成功した後、重大なトラブルに見舞われました。それに対処するため「はやぶさ」運用チームは、地球帰還を3年延ばした新しい軌道を再設計して、帰還計画の見直しを行ないました。新しい計画では、「はやぶさ」は来年早春に「イトカワ」の軌道から脱出して地球へ向かう予定です。そして、2010年6月に地球帰還を果たそうと、地道ではありますが日々懸命な努力が払われています。

 現在「はやぶさ」は「イトカワ」の軌道上を「イトカワ」と一緒に並走して飛行しています。並走といってもおよそ5万km離れた前を飛んでいるのですが、地球と月との平均距離がおよそ38万kmですので、それと比べても宇宙空間ではほぼくっついて飛んでいると言ってもいいでしょう。次に地球と「はやぶさ」の距離については、昨年11月の「イトカワ」タッチダウンの時には、地球から太陽を挟んでおよそ3億km離れたところで探査をしていました。あれから1年経ってその距離は大変近づき、現在、地球と「はやぶさ」の距離はおよそ7600万kmです。

 また、これからは「はやぶさ」と太陽の距離も徐々に近づく様になります。漏れ出したと推測されているヒドラジン燃料が、もし「はやぶさ」の機体に凍結したまま未だ残っているとすると、再び太陽熱等で暖められ気化して最悪の場合再び姿勢が失われる様な事が起こるかも知れません。ですから「はやぶさ」運用チームは考えられる出来る限りの努力を毎日行なっています。

 今月中旬、凍結したヒドラジンが有る事を想定して、ヒドラジンを排除するために機体の一部温度を上げるベーキングと呼ばれる対策を行ないました。ベーキングを行なうためには姿勢の安定を図らなければなりません。そこで、久々にイオンエンジンの運転が行なわれました。これは「はやぶさ」のスピン回数を上げて姿勢安定を確保するためです。今年6月以来の運転でしたが、見事、問題なく点火しました。電力事情の制約からイオンエンジン1台だけの運転となりましたが、ほぼ2週間の運転でスピン回転数増減の制御を無事に修了して、ベーキングも無事に行なう事ができました。来年春には、いよいよイオンエンジンによる帰還の旅が始まります。大変困難な旅になる事が予想されています。引き続き皆さまの暖かい応援をお願いいたします。


 さて、話はガラッと変わります。私は、11月に同僚と共に大学共同利用機関法人人間文化研究機構国文学研究資料館が主催する平成18年度アーカイブズ・カレッジ短期(修了論文作成期間を含む2週間)研修を受講しました。研修内容は多岐に及び、宇宙科学研究本部の業務として学ぶ事も沢山ありました。

 専門的な内容は国文学研究資料館に委ねることとして、読者の皆さまに私が興味を持った一般的ないくつかの項目を紹介しましょう。まず、「アーカイブズ」という言葉について。「ことば」を扱う国文学研究資料館では、「アーカイブス」ではなく「アーカイブズ」という日本語表記の使用を強く主張していらっしゃいました。

 次に、現代社会は5000年の人類有史の中でパピルスが発明されて以来2度目の大きな記録媒体の変化の時代であるとのことでした。これは「紙」の記録からデジタル媒体へ記録媒体に変わりつつあり、そんな大きな変革の流れのなかで暮らしている事を改めて認識しました。ただ、「紙」文化が無くなるとは殆どの方々が想像していませんでした。その次に、記録資料の保存について学びました。記録資料の有るべき姿として、現地保管の原則、原秩序尊重の原則、原形保存の原則、記録の原則があり、これらの原則が守られないとアーカイブズ分析結果の導入を誤り、間違った結論を導くことを学びました。

 これは、私たちの家庭でも宇宙科学研究本部の研究室実験などにも当てはまり、いくつか思い当たることもあります。きっとヒューマンファクターエラーの範疇に入る事柄なのでしょう。さらに壮大な観点からみれば、「イトカワ」は太陽系の記録資料の一つで、宇宙から届く銀河の姿も記録資料と解釈できる訳です。最後に、法的な観点から記録資料の公開や広報の注意点なども教わり大変充実した研修となりました。

(清水幸夫、しみず・ゆきお)

http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/today.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※