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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第113号

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ISASメールマガジン   第113号       【 発行日− 06.11.07 】
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★こんにちは、山本です。

 11月に入り、関東でも紅葉が始まりました。車で走っているときなど、風で急に木の葉が舞ってきたりします。紅葉が遅かった去年とは大違いです。

 今週は、宇宙情報・エネルギー工学研究系の吉川 真(よしかわ・まこと) さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:頑張れ、冥王星!
☆02:「あかり」第一回目の全天観測完了間近
☆03:「ひので」搭載の3望遠鏡で太陽観測を開始
☆04:M-V-7号機により打ち上げた副衛星(SSSAT)の実験結果について
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★01:頑張れ、冥王星!

 今年の夏は、天文学者にとっても、また、多くの天文ファンにとっても特別な夏になりました。それは、ご存知のように、冥王星が惑星の分類から外されることになったからです。1930年に発見されて以来、約75年に渡って惑星と考えられてきた冥王星が、ついに惑星の地位から落ちることになりました。このニュースは、一般にもかなりの関心を持たれました。

 でも、ちょっと待ってください。よく、このように「冥王星、惑星の地位から陥落!」というような表現が使われますが、惑星って、そんなに偉いものなのでしょうか?

 どうも、小惑星よりも惑星の方が優位であるというような暗黙の了解があるようですね。惑星も元をただせば、小惑星のような小さな天体が集積したものです。ですから、小惑星と惑星、どちらが偉いということはないのです。むしろ、太陽系初期にできた天体に近いのは小惑星ですから、小惑星の方が由緒正しくて、惑星の方が新参者と言ってもいいくらいです。

 まあ、それはそれとして、惑星というものがついに定義されました。むしろ、今まで定義がなかったこと自体が不思議に思われる方が多いかもしれませんが、個人的には惑星と言うのは厳密な定義無しでもよかったように思っています。その理由は、惑星というのは、そもそも人間の都合で決められた存在であるからです。その都合とは、人間の視力でして、もともとは、肉眼で見える天体で星座をつくる星とは別の動きをする星が惑星だったわけです。その後、望遠鏡が発明されて人間の視力の手助けをするようになって、惑星が増えていきました。ただ、新たに発見された惑星の中には、もともとの惑星に比べると非常に小さいものが多数あり、それらは小惑星と呼ぶことにして、惑星とはしませんでした。

 このような経緯で9個の惑星が決められてきたわけですが、ここにきて冥王星よりも大きな小惑星が発見されてしまい、話が混乱しだすことになります。それで、惑星の定義を決めようということになりました。今回、国際天文学連合で採択された惑星の定義は、次のようになります(国立天文台訳)。
  “太陽系の惑星とは、
(a)太陽の周りを回り、
(b)十分大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し、
(c)自分の軌道の周囲から他の天体をきれいになくしてしまった
天体である。”

 つまり、太陽系天体のうち衛星ではない天体で、ある程度大きく球形をしていて、自分の軌道付近には他の天体がいないような天体が惑星である、ということです。いろいろな議論はありますが、あまり分かりやすい定義ではないですね。ここでは、詳細には触れないことにしますが、この定義ですと、必ずしも意図された天体が惑星とはならない可能性がでてきます。

 個人的には、惑星というものは直感的に定義するしかなくて、科学的に意味のある定義をするのは不可能だと思っています。では、直感的にどのように定義するかというと、「惑星と言うのはそれぞれの地域を支配する領主みたいなもの」という感じでしょうか。つまり、その地域では他を抜きんでて強い支配力を及ぼしているものです。ですから、ある地域で領主であっても、別の地域ではそこの領主の家来より力が小さいということもありうるわけです。このような定義にしておけば、例えば水星は、木星の衛星ガニメデや土星の衛星タイタンよりも小さいですが惑星と見なせますし、小惑星セレス(ケレス)は、小惑星帯で特にまわりの小惑星を支配しているわけではないので惑星ではないわけです。また、木星軌道付近には多数のトロヤ群小惑星がありますが、これらはまさに木星の引力の支配下にあるわけで、木星がその軌道領域では支配者つまり惑星と言ってよいわけです。

 そうすると冥王星ですが、冥王星は海王星によってその軌道が支配されていると考えられますし、また冥王星付近に沢山発見されているエッジワース・カイパーベルト天体(トランス・ネプチュニアン天体とも呼ぶ)を支配しているものでもないので、惑星とは見なせないことになります。ということで、結果的には新しい定義をサポートすることになります。

 ですが、極論すれば惑星の定義などというのは、どうでもよいのです。定義が変わったからといって、惑星本体が変わるわけではないですし、天体についての理解が異なるわけでもありません。ただ、今回の騒動で重要なことは、太陽系についての理解がどんどん進んでいるということですね。ひと昔前の太陽系のイメージでは、もはや太陽系はとらえられないということです。それだけ、太陽系の観測や惑星探査が進んできたということですね。冥王星が惑星の分類から外されたことは、このことを象徴するものなのです。つまり、冥王星は、新しい太陽系のイメージを切り開いたものであるわけです。冥王星、万歳!

 さて、この冥王星問題は1つだけ難しい宿題を残しました。それは、冥王星が新たに分類されることになったDwarf Planetという分類名をどう日本語に訳すかという問題です。すでにマスコミ等では、「矮惑星」という言葉が使われているようですが、どうもいい訳とは思えません。かと言って、他に思いつくものと言えば、準惑星とか、中惑星、さらにはミニ惑星なくらいです。問題は、すでに名称がある「小惑星」とどう区別するかですね。野尻抱影がPlutoを「冥王星」と訳しましたが、このような名訳はないでしょうか?

(吉川 真、よしかわ・まこと)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※