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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第91号

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ISASメールマガジン   第091号       【 発行日− 06.06.06 】
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★こんにちは、山本です。

 梅雨入り間近のISAS相模原キャンパスは、木々の緑が瞬く間に濃くなり、下草の丈も伸びてきました。正門入ってすぐの林の中も急に見通しが悪くなって、桜が咲いていた頃は、いろいろな鳥がいるのが観測出来たのですが、今は、鳴き声が聞こえても、何処にいるのか見つけるのが大変です。

 今週号は久しぶりに「はやぶさ」の話題が満載です。それと、臨場感あふれる「あかり」衛星運用の様子もお届けします。

 今週は、赤外・サブミリ波天文学研究系の松原英雄(まつはら・ひでお) さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:宇宙に燈る「あかり」をもとめて−赤外線天文衛星「あかり」運用室より
☆02:「はやぶさ」によるイトカワの科学観測成果
☆03:2006年5月末現在の「はやぶさ」探査機の状況について
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★01:宇宙に燈る「あかり」をもとめて−赤外線天文衛星「あかり」運用室より

「入感しました。」
「はい、テレメトリロック確認。それでは入感チェック行います」
「入感チェック問題ありません。」

 ここはJAXA宇宙科学研究本部相模原キャンパスの衛星運用棟。その3階に設けられた管制室と、そこに隣接した「あかり」運用室が、今年の2月に打ち上げられた赤外線天文衛星「あかり」の日々の運用を実行の本拠地となっている。「すざく」や「あけぼの」など、他の近地球軌道をめぐる科学衛星は、内之浦宇宙空間観測所(USC)主体で運用しているのに対して、「あかり」の場合は、アンテナ制御や局運用の運用支援メーカーの皆さんだけが、USCで働き、衛星への指令(コマンド)を出すことや、衛星からのデータを見て衛星の状態を知る、といった日々の主要な運用は、相模原キャンパスからネットワークを介して行っているのである。このようなやり方には賛否両論あった。もちろん鹿児島まで出張しなくて良くなるので、非常に楽だしお金もかからない。しかし、もしネットワークが故障したり、相模原キャンパスが停電になると、衛星の運用ができなくなってしまう危険がある。結局「あかり」の場合、非常に重要な運用(打上げ運用や、4月に行った観測系のフタあけ運用)の場合は、USCから行ったが、普段の運用は、 相模原から行うようにしている。

「うひょーこれはなんだ、NASAが撃ち落したUFOみたいだ・・」
「やばいよ、これ。ぜったい、やばいよ」
(おいおい、そりゃ考えすぎだろう・・)

 「あかり」搭載の近中間赤外線カメラの画像をみていた研究員たちがおおさわぎしている。(注:実際には上はメールのやり取りでした)「あかり」の画像には太陽系天体はもとより、人工衛星や(おそらく)デブリが写っていることがある。またカメラの検出器面にほとんど平行に飛んできた宇宙線(高エネルギーの電子や陽子など)が、しばしば見られるので、たまには、上のようにみんなびっくり!という画像で楽しむことができる。

 「あかり」は、高度約700kmの円軌道を一周約100分間でめぐる人工衛星である。毎周回日本の上空を通過するわけではないので、朝方5時〜8時の間と、夕方17時〜20時にそれぞれ1〜2回づつ、衛星とUSCは電波でやりとりするだけである。この衛星と地上局がやり取りできる時間帯のことを可視パスという。たまに他の衛星の運用が入っていたり、USCに設備に問題があるような場合、USCの朝可視パスあるいは夕可視パスがまったくなくなってしまうことがある。これだと衛星に問題があったときの発見が遅れるし、「あかり」が観測したデータを送信して地上で受信する時間が減ってしまって大変こまる。そこで、こういう場合には、JAXAの所有する別の地上局、特に新GN局を利用して「あかり」の運用を行うことにしている。新GNは、国内と国外にそれぞれ4つずつのアンテナと、それらをリモートで制御する筑波の管制センターからなる。海外の新GN局は、サンチャゴ、キルナ、パース、マスパロナスの4箇所におかれている。

「・・新GNサンチャゴ局の運用5分前です。コマンドセッション接続をお願いいたします。」
「はい、セッション接続OKです。」

 今日の夕可視パスでは、USCが一パスしかなく、新GNサンチャゴ局を使って「あかり」の今日の運用をこなすことになっている。新GN運用がある時は、運用室に「新GN当番」が現れ、筑波の新GN管制センターとの電話でのやりとりを行ってくれる。入感したか?コマンド送信のための準備が整ったか?など相模原では、直接モニターできないから、電話でのやりとりが必要である。もちろんこのままでは不便なので、今後は改善していくつもりなのだが。だから、

「・・おそいねえ、まだ入感しないのかい?」
「いやー、多分、低い山があるところから衛星が昇ってきてるんだろうね、もうしばらく待つしかないね。」

などという会話が生まれるのである。やれやれ。

 「あかり」とUSCがやりとりする時間が少ない、というハンデは、貴重な観測データをUSCでおろしきれない、ということでもある。「あかり」の場合、観測データのおよそ80〜90%を、スウェーデンのキルナという極域のアンテナ(欧州宇宙機構)で受信している。キルナからだと、一日に10回も「あかり」とコンタクトするパスが存在するからである。ただ、キルナは日本から遠い。USCで受信した場合と違い、キルナで受信したデータを相模原の運用室で確認するのには、データ伝送に時間をとられてしまい、すぐにはできない。インターネットで伝送したのでは、安定した伝送速度が得られないだろうと思い、キルナ局〜相模原運用室に専用線を引いたのだが、コストがかかるためにそれほど回線速度を上げられず、結局インターネットによる伝送に負けている。今は解決したが、実質のデータ伝送速度が回線速度の40%程度しかでておらず、8パス分のデータを丸一日かかって送ったりしていた。さらに・・

「キルナ局でまたデータ抜けが発生したようです!」
「・・今、メールがあって、データ抜けの原因は、キルナ局の自動追尾機能の故障だそうだ・・」

 やれやれ、いつになったら安定したデータ取得ができるのか。まだまだ苦労は続きそうである。そうは言っても、衛星自身は極めて良好。観測データがぞくぞくとでてきているのが救いである。5月22日に最初のプレスリリースを無事終えた。次は科学的成果の最初のリリースを9月にできないか、と奮闘する日々がこれからも続いていく。


(松原英雄、まつはら・ひでお)

「あかり」ホームページ
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/

「あかり」の観測開始と初期観測結果(5月22日)はこちら
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/results.html
※31日には、渦巻き銀河M81の3色合成画像も公開しました。

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※