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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第86号

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ISASメールマガジン   第086号       【 発行日− 06.05.02 】
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★こんにちは、山本です。

 ゴールデンウィーク真っ只中にお送りします。

 真夏かと思うと3月に逆戻りしたり、せっかくの長い休みに風邪などひかないように気をつけてください。

 ISASは暦どおりに休みなのですが、休暇を取っている人が多いようで、駐車場が空いていたり、仕事の連絡で電話しても「お休みです」とすげない返事が帰ってきます。

 そんな中、連休中もセッセと働いて(研究して)いる、赤外・サブミリ波天文学研究系の中川貴雄(なかがわ・たかお)さんの登場です。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「あかり」の目が開(あ)いた!
☆02:「はるか」のためにありがとう/科学技術映像祭受賞
☆03:JAXAプロジェクトマネージャーが語る「私たちのミッション2006」
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★01:「あかり」の目が開(あ)いた!

「「あかり」入感しました(注1)。」
局管制担当者のアナウンスとともに、4月13日の「あかり」運用は始まりました。今日は「あかり」望遠鏡の「蓋」を開(あ)ける非常に大切な運用の日です。

 「あかり」(打上げ前はASTRO-Fというプロジェクト名で呼ばれていました)は日本初の赤外線天文観測専用の衛星です。今年の2月22日に、内之浦宇宙空間観測所からM-Vロケット8号機によって打ち上げられました。とても美しい打上げで、衛星はほぼ予定通りの軌道に投入されました。

 しかしながら、打上げ後しばらくすると、衛星の一部の動作に理解できない部分がでてきました。「太陽センサー」の出力が、ときおり異常になることが分かったのです。

 「あかり」は天文観測衛星ですから、望遠鏡が搭載されています。ただし、普通の望遠鏡ではありません。宇宙からやってくる微弱な赤外線を高感度で検出するために、望遠鏡全体が−267℃という大変な低温にまで冷却されているのです。冷却のために、望遠鏡は、大きな魔法瓶の中に収められています。衛星打上げ時には、この魔法瓶に「蓋」がされていますので、どちらを望遠鏡が向いても熱の侵入は大きくならず、大丈夫です。しかし、一度「蓋」が開(あ)いてしまうと、熱の侵入をさけるために、望遠鏡を向けられる方向は限られてしまいます。特に太陽方向は絶対に見ないようにしなければなりません。そのために、太陽の方向を監視する「太陽センサー」は、 「あかり」にとって非常に重要なものでした。

 しかし、その「太陽センサー」が信頼できなくなってしまったのです。このままでは、「蓋」を開(あけ)ることができません。「蓋」が開(あ)かなければ、観測を始められません。

 「あかり」チームは急遽、対策を検討しました。幸いにして、「あかり」には、「太陽センサー」以外にも、衛星の姿勢を検出するセンサーが何種類も搭載されています。これらのセンサーを組み合わせて、衛星の姿勢を計算すれば、太陽の方向も計算できることがわかりました。しかし、そのためには、衛星に搭載されているコンピューターのプログラムを書き換える必要があります。「あかり」チームは、不眠不休で、プログラムの書き換えにとりくみました。

 やがて、プログラムが完成。プログラムを慎重に試験し、正常に作動することも確認しました。

 そして、「蓋」を開(あ)ける4月13日がいよいよやってきました。

「衛星、予定通りの姿勢に移行しつつあります。」
「それでは、予定通り蓋開(あ)け運用を行います。」
衛星運用を司る紀伊助教授の声が、内之浦の運用室に響きます。緊張が走ります。

 そして16時55分11秒、衛星内部のコンピューターが、自動的に「蓋」開(あ)けの命令を出しました。

「マイクロスイッチ(注2)、蓋開(あ)けを確認!」
「姿勢系、蓋開(あ)けを確認!」
「観測装置FIS、蓋開(あ)けを確認!」
各グループからの報告が届きます。

「蓋開(あ)け」成功か!?

その矢先、
「冷却系、温度が上昇しています」
胃がきりりと痛みます。
「蓋」が開(あ)くと、温度は下がるはずなのです。
「いえ、温度、下がり始めました。」
ほっと、胸をなでおろします。

「蓋開(あ)け成功!!」
思わず、拍手がわきおこりました。

 やがて衛星は地平線の向こうに沈んでいきました。一周回後に内之浦局で受信したデータから、観測機器が星を検出しており、蓋開けは完全な成功であったことが確認されました。

 この運用の成功により、「あかり」望遠鏡の目がやっと開(あ)きました。いよいよ、試験観測が始まったのです。当初の予定からは約1ヶ月遅れとなってしまいました。しかし、「苦労をかけられた子供ほど、可愛い」と言います。観測開始まで苦労した「あかり」が、どのような宇宙の姿を見せてくれるのか、これからが楽しみです。

注1)入感:衛星からの信号が受信されること。
注2)マイクロスイッチ:衛星の各部の状態を監視するための、小型のセン サー。

(中川貴雄、なかがわ・たかお)

http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2006/0413.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※