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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第84号

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ISASメールマガジン   第084号       【 発行日− 06.04.18 】
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★こんにちは、山本です。

 桜に目を奪われていたら、世の中はすっかり新緑の季節に移り変わっていました。ISASの正門から正面玄関のある研究・管理棟(通称A棟)への道路は、両側がカツラの木です。気がつくと、ハート型の若緑の葉に覆われていました。

 週末にやっと九州朝日放送の「ドォーモ」【宇宙ロケット発射を見学せよ!】を見ました。皆で、腹を抱えて大笑いしました。そして、「今回、ASTRO-F/M-V-8号機の打上げは一般見学席から見たのが一番キレイだった。」と評判も高かった打上げシーンを堪能しました。

 番組中に何度も「大型パラボラアンテナ」(34m)が登場しますが、ISASには更に大きいパラボラアンテナがあります。それは、臼田宇宙空間観測所の64mアンテナです。(JAXAに統合する前はISASの付属施設でしたが、現在は宇宙基幹システム本部に所属しています。)

 今週は、久しぶりに「はやぶさ」の話題です。技術開発部試験技術開発グループの清水幸夫(しみず・ゆきお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「はやぶさ」の救出運用
☆02:「あかり」の今後の初期運用について
☆03:「第5回 君が作る宇宙ミッション」参加者募集!
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★01:「はやぶさ」の救出運用

 「はやぶさ」は今週、太陽から2億1千万km、地球から3億5千万km離れた宇宙空間を小惑星イトカワの土壌サンプルを持ち帰るという最後の使命を果たすため満身創痍の機体を何とか維持しつつ航行しています。

 今年1月23日の月曜日に「はやぶさ」からのビーコンが一月半ぶりに確認されました。私は、その週のイオンエンジン運用当番として運用管制室に詰めていました。その日の朝、いつものように「はやぶさ」が行方不明になった12月13日以来毎日行われてきた救出運用を開始しようと、長野県佐久市臼田にある64mアンテナを「はやぶさ」が現れると予想される空間領域に合わせたところ、その前週の金曜日までは確認できなかった電波を受信しました。それは極めて微弱ですが前週までの状態とは明らかに違っていました。けれども「はやぶさ」自身が回転していること、電波が微弱であることから十分な通信が出来ず、「はやぶさ」との通信は1ビット通信という方法がとられました。

 この方法は、通信が極めて困難な場合に備えてあらかじめ考えられた方法です。たとえば、「はやぶさ」のある機器の温度が知りたい場合、まず地上でその温度が何度から何度の範囲にあるかを考えます。そしてたとえば0度から50度にあるはずだと地上で予想出来たとすると、「はやぶさ」にその機器の温度は25度以上か?という質問をします。「はやぶさ」はYesであれば電波を送信し続け、Noであればある時間電波の送信を停止するという具合です。あるいは知りたいデータが8ビットで構成されたものであれば、8桁の要素を一つずつ「1」か?「0」か?を問い合わせて、帰ってきた「1」「0」のデータを地上で再構築します。こうしてこの1ビット運用が続きましたが2月25日にテレメトリ受信が出来るようになりいっぺんに大量のデータが届くようになりました。

 せっかく再捕捉できた「はやぶさ」ですので再び見失うような事があってはいけません。そのためには「はやぶさ」の電力確保ができて、地球と通信できるよう姿勢を安定させる必要があります。しかし昨年姿勢制御のためのリアクションホイールと呼ばれる機器に不具合が発生し、しかもその後になってリアクションホイールの機能を肩代わりしていた化学エンジンにも不具合が発生して使用できません。

 「はやぶさ」プロジェクトチームは今までにも色々な緊急事態に対応するための方策を編み出してきましたが、今回は惑星間航行用のイオンエンジンを使って姿勢制御しようという妙案が出されました。それは、イオンエンジンの推進剤であるキセノンガスを静電加速させずにガスのまま出せば姿勢制御ができそうだ、というものでした。イオンエンジンは、プラズマテレビや車のヘッドライト、カメラのストロボなどで利用されているキセノンという希ガスをプラズマ化してプラスの電気を帯びたイオンを静電加速するエンジンです。イオンを放出すると探査機は電気的にマイナスに帯電しますので、中和させるため中和器が備え付けられています。

 「はやぶさ」のイオンエンジンは4組のエンジンヘッドと中和器から構成されていて、エンジンは探査機に推力を与える方向に、中和器は4つのエンジンの中央をねらい、エンジンの下流45度あたりを狙った角度で取付けられていました。エンジン本体から出たキセノンガスは姿勢制御に貢献しませんが、中和器から出たキセノンガスはわずかな力ですが「はやぶさ」に回転力を与えることができます。この力をうまくタイミングを合わせて出す方法を編み出しました。

 打上げ時に「はやぶさ」に積み込んだキセノンの量はおよそ66kgでした。イトカワ到着までに23kgのキセノンを消費し地球帰還までに43kgの燃料残量がありました。しかしながら、昨年11月後半以降キセノンガスによる姿勢制御を行なっているため、現在の残量はおよそ38kgと比較的早い消費率で減っています。地球帰還のためのイオンエンジン推進剤としての確保と姿勢制御を確実に行なうことが出来る両立した運用を行なう必要があります。

 今週からの「はやぶさ」運用は、イオンエンジンの健全性確認と共に先週まで行なってきた探査機全体の昇温を慎重かつ着実に進めることを予定しています。まだまだ「はやぶさ」プロジェクトチームには長くて遠い地球までの帰路が続きます。

(清水幸夫、しみず・ゆきお)

「はやぶさ」探査機の状況について
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2006/0307.shtml

今日の「はやぶさ」
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/today.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※