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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第77号

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ISASメールマガジン   第077号       【 発行日− 06.02.28 】
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★ こんにちは、山本です。

 前号で第1報をお届けする予定でしたASTRO-F/M-V-8号機は、翌日同時刻に無事打上げが成功しました。内之浦に出張していたメンバーもやっと先週末に帰ってきました。本館の廊下では、「お帰りなさい」「お疲れさま」「久しぶり」の挨拶が飛び交っています。

 週明け(三日振り)の相模原キャンパスは、正門から本館へのカツラの並木が、何となくこずえが若葉色に見えます。本館前のソメイヨシノも木全体がほんのり薄桃色に霞んだように見えます。明日から3月、確かに春はもうすぐそこまで来ています。

 今週は、宇宙プラズマ研究系の浅村和史(あさむら・かずし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「れいめい」の科学観測
☆02:ASTRO-F/M-V-8打上げ成功、衛星は「あかり」と命名
☆03:宇宙学校・東京 <宇宙に夢中!>
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★01:「れいめい」の科学観測

 オーロラ電子に代表される宇宙空間プラズマ粒子の貯蔵庫は、地球磁気圏のプラズマシートと呼ばれる領域です。ここでは、プラズマの密度は比較的低いものの、その温度は数千万度以上です。オーロラ電子はプラズマシートから地球につながる磁力線の周りをらせん状に運動しながら地球方向へ突入します。そして、高度100〜500kmの電離圏に存在する高密度の地球大気と衝突することで光るのが、オーロラです。オーロラ電子が電離圏へ突入する際、地表に近くなるほど磁力線の密集度が高くなり、磁場強度が上がります。このため、そのままでは電子は地球磁場によりはね返され、プラズマシートへと戻ってしまいます。オーロラは光りません。オーロラが光る高度まで電子が深く突入するためには、磁力線に沿った下向き方向(地表方向)に加速しなければなりません。この機構として最有力なのが磁力線と平行方向に存在する自然の電位差(沿磁力線方向の電位差)です。オーロラ発光領域の上空には数千ボルトの大きさの電位差が数万kmの高度差にわたって広く存在し、活発に変動していると考えられています。また電離圏では,オーロラ発光以外にもオーロラ電子降下によるエネルギー流入で大気加熱やプラズマ波動励起が起こり、電離圏イオンの上昇流を引き起こすことがあります。イオンの上昇速度が大きくなると地球重力を振り切って、宇宙空間へと流出していきます。

 これまでの観測では、「あけぼの」衛星をはじめ多くの衛星が100kmスケールでのオーロラ発光と粒子の降りこみとの良い対応関係をみつけています。ところが、オーロラを地上から見ると、カーテン状のものがゆれ動いたり、渦を巻いたり、明滅を繰り返したリします。そして、オーロラを100kmなどという粗いスケールで説明しても、ぜんぜん説明したことになっていないと思えてきます。地上からの光学観測によれば、オーロラ発光層の大きさは時には100m以下にもなり、とても小さいものもあることが分かっています。これら発光層の上空にはその形状に応じた、100m以下の空間的な構造をもった電子などの降りこみがあるはずです。ところが、オーロラ発光層と粒子の降りこみを観測によって対応づけた例は未だありません。それは低高度衛星の速度が7.5km/sにも達するため、100mは0.01秒程度で通過してしまうことが一因でしょうし、逆にもう少し高高度、例えば数千km上空から100mスケールでの対応関係を探るのにはもともと無理がある、ということもあります。

 「れいめい」は,2005年8月24日3時10分(日本時間)にカザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地から打ち上げられました。「れいめい」の科学目的は地球極域で起こるオーロラ現象の微細構造の解明に結び付く観測を行うことです。そのために、低高度(約630km)でオーロラを撮像し、同時にオーロラ電子・イオン、周囲の磁場などを観測します。もちろん、観測機器はオーロラ微細構造に対応するため、高時間分解能観測ができるようになっています。

 これまでの「れいめい」観測により、オーロラ直上の低高度でのオーロラ電子はやはり微細な空間スケールを持つことが分かってきました。しかし、それはオーロラが発光している領域に電子の降りこみがあり、発光していない領域には降りこみはない、という単純なものではありません。電子は100mよりは大きなスケールで降りこんでいるように見えます。その降りこみの強弱、また直接オーロラを光らせることができないはずの低エネルギー電子の様相に微細スケールでの変動が見えるのです。オーロラ粒子に衝突される側の大気の密度・温度の局所的な不均一などの影響かもしれません。

 オーロラ発光に関わっているのは、太陽からのプラズマ流である太陽風、地球磁場の勢力範囲であり、夜側に地球半径の1000倍程度にも引き伸ばされているとされる磁気圏、そしてオーロラが実際に発光する地球のごく近傍の電離圏などで、それぞれプラズマの特性が大きく違う領域です。これらがお互いに影響しあった結果オーロラが発光します。こうした領域間の結合の研究は「れいめい」による観測だけでは不十分で、さまざまな地上観測網や、より高度が高い領域での衛星観測との共同研究が重要となります。そのため、北極・南極圏で展開されているオーロラ地上カメラ網、電離圏レーダー網など、さまざまな地上装置との共同観測を毎月行っています。

 昨年、火星を周回するMarsExpress衛星により、火星上空にオーロラらしきものが観測されました。違う時期に異なった場所でですが、粒子観測器により、オーロラ発光のもととなり得る降りこみ電子も観測され、地球と似た様相をもっている、という報告もあります。木星のオーロラは有名ですが、火星には地球・木星のような強い固有磁場がありません。火星のオーロラ(粒子)は火星表面に局所的に存在する磁場に対応して存在するようですが、それ以上のことはまだ分かりません。オーロラ物理もまだまだこれからです。

(浅村和史、あさむら・かずし)

「れいめい」(INDEX)のページ
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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※