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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第64号

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ISASメールマガジン   第064号       【 発行日− 05.11.22 】
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★ こんにちは、山本です。
 20日の「はやぶさ」のライブ中継では、ISASのサーバの限界近くまでのアクセスがあり、「Hayabusa Live」のブログの更新が出来ないというハプニングがありました。現在、「イトカワ」への再度のオペレーションに向けて、より多くのアクセスに対応できるよう担当者が方策を練っています。
 今週は、宇宙探査工学研究系の吉光徹雄(よしみつ・てつお)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:小惑星探査ロボット「ミネルバ」の運用
☆02:「はやぶさ」88万人の「星の王子さま」たちへ
☆03:史上最も詳しい小惑星表面の姿
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★01:小惑星探査ロボット「ミネルバ」の運用

 11月12日。今日は、「はやぶさ」探査機を小惑星「イトカワ」に着陸させるためのリハーサルを行なう日です。今日のリハーサルでは、「はやぶさ」は「イトカワ」には着陸しません。「はやぶさ」を「イトカワ」の表面に着陸させるための航法誘導機能を確認するのが目的で、高さ70mまで近づく予定です。その時に、「はやぶさ」に搭載されている世界で初めての小惑星探査ロボット「ミネルバ」を小惑星に向けて放出することになっています。

 前日から、アメリカのアンテナも使用して、24時間体制で運用を行なっています。このため、朝7時に長野県の臼田にあるアンテナを使用した運用を開始した時には、一連の降下シーケンスはすでにスタートしており、小惑星までの距離もずいぶんと近づいています。

 多くの関係者が「はやぶさ」のリハーサル運用のため集結していますが、「ミネルバ」の担当は僕一人です。これまでの「ミネルバ」の運用と同じく、相模原の管制室から廊下を隔ててすぐの「運用室」の一角にある一台のコンピュータの前に座って、長い一日を過ごすことになります。

 「はやぶさ」から送られてくる「ミネルバ」の情報はすべて、このコンピュータに表示されます。僕は、このコンピュータを見て、「ミネルバ」の状態をモニタします。何か異常があったり、設定を変更したくなった場合は、このコンピュータで指令を作成し、管制室にいる「はやぶさ」のオペレータにその指令を送ってもらいます。

 8時15分、「ミネルバ」のスイッチをオンする指令を送りました。予定では、この指令が探査機に届いてから5時間後の14時30分に、小惑星「イトカワ」の上空70mにおいて秒速5cmの速さでミネルバを探査機から放出します。現在、「はやぶさ」探査機と地球との間の距離は2億9千万km。地球から送った指令は、16分後に「はやぶさ」に届き、さらに16分後に、「はやぶさ」に届いたことが地球で確認できます。32分後、「ミネルバ」が正常に起動したことを探査機から送られてくるデータから確認しました。すべて正常です。

 「ミネルバ」ロボットは無線によって、探査機側の中継機(OME-Eと呼んでいる)との間で通信を行ないます。小惑星に到着する前は、「ミネルバ」の電源を投入してからロボットと中継機との通信が始まるまでに2時間も待つ必要がありました。

 「ミネルバ」ロボットは、探査機から断熱された状態で搭載されており、宇宙空間ではー65℃(予想)という極低温に放置されています。ロボットのコンピュータはー50℃以上にならないと起動しません。それまでは、温度をモニタしている回路が動作しているだけで、この回路の発熱によってー50℃以上に暖まるまで2時間程度の時間がかかっていたのです。

 小惑星に到着してからは、小惑星からの熱放射によって温度が若干上昇しており、スイッチをオンしてから、ロボットと中継機との通信が始まるまでの待ち時間はずいぶん短かくなりました。さらに、今日は、小惑星との距離が近くなっており、小惑星からの熱放射によりロボットは十分暖まっているようです。「ミネルバ」ロボットはすぐに起動しました。

 それから8時間、「はやぶさ」本体の運用をしている関係者が慌しく動き回っている中、僕はあまり忙しくありませんでした。実は放出された後も、「ミネルバ」自体の運用はそれほど忙しくないはずです。「ミネルバ」ロボットは完全に自律的に動作するよう作ったため、原理的には、こちらから指令を送らなくても、取得したデータを地球に送ってきます。ですから、僕一人で十分なのです。

 とは言っても、地球から指令を全く送らないつもりはありません。ロボットが観測を行なうための最適なパラメータを更新するため、探査機経由でロボットに指令を送る作業は毎日行なう予定です。本当に忙しいのは、取得したデータを解析する作業です。これには、他に2名の科学者がついています。

 14時30分。臼田のアンテナによる運用が終了し、スペインにあるアメリカのアンテナによる運用がスタートしました。予定では、臼田アンテナによる運用中に「ミネルバ」を放出することになっていましたが、それは少し後ろにずれました。

 15時7分38秒。「ミネルバ」を放出する指令を地球から送りました。と言っても、すぐに結果はわかりません。

 15時40分すぎ。探査機が15時24分20秒に出したデータが地球に届き、「ミネルバ」の放出に成功したことを確認しました。すぐさま、管制室に向かい、「ミネルバ」が放出されたことを伝えました。

 「ミネルバ」が探査機から放出されたことは、ロボットを「はやぶさ」に取り付けているカバーの有無を検知するセンサで判断できます。このセンサの値が、探査機を2003年5月に打ち上げてから2年半後、初めて、「not deployed(放出前)」→「deployed(放出済)」に変化したのです。

 ロボットの動作モードも変化しました。放出前は、ロボットは地球から送った指令のみで動作する「マニュアル」モードでしたが、放出後に自動的に、「自律」モードに遷移しました。これにより、ロボットは自律探査を開始するはずです。

 また、ロボットは搭載した6個の光量センサから、現在の状態がどうなっているか自分で判断します。この状態が「still(静止中)」→「hopping(ホッピング中)」に変わりました。

 ロボットは、ホップしながら小惑星表面を移動します。ホッピング中は若干回転しており、光量センサの値は時々刻々と変化します。このため、光量センサの値が一定の時は「静止中」と判断し、光量センサの値が変わっている場合は「ホッピング中」と判断します。探査機搭載状態では、太陽光がロボットに当たらないので、ずっと「静止中」と判断されていました。この値が「ホッピング中」に変わったということは、ロボットが放出され、太陽光を受けながら回転していることを示しています。

 その後の状況は、新聞などで報道されている通りです。「ミネルバ」を放出した高度が小惑星から200mと高く、放出時に探査機が毎秒15cmの速さで小惑星から遠ざかっていたため、残念ながら「ミネルバ」は、今のところ小惑星にたどり着けていません。

 ロボットと中継機の間の通信は放出後も安定して確保されていました。しかし、放出後18時間を経過した11月13日9時32分20秒の交信を最後に、ロボットからの通信は途絶えたままです。これは、中継機のアンテナがカバーしている範囲外にロボットが離れたためだと思います。直前の交信で得たデータでは、ロボット本体は極めて正常に動作をしており、ロボットに何かが起こったとは考えにくいです。

 ISASホームページ(11月13日付宇宙ニュース)に掲載されている通り、ロボットからは「はやぶさ」探査機の太陽電池パネルを撮影した画像が唯一1枚送られてきました。史上初めて、深宇宙探査機を宇宙空間で外部から撮影した画像です。この画像は横長の画像になっています。というのも、画像の上部2/3しか送られていないためです。

 ロボットは、搭載コンピュータで取得した画像の評価を行なう機能を持っており、何も写っていない領域はそのまま捨てます。画像の下1/3の領域には、何も写っていないため、そのまま棄却されたのです。考えてみれば、小惑星表面で何も考えずに写真をとると、1/2の確率で小惑星表面が写り、1/2の確率で宇宙空間が写るはずで、意味のある画像のみを送るため、このような機能を持たせました。

 あれから1週間経過しましたが、その後も中継機のスイッチはずっとオンにしており、ロボットからの電波をキャッチできるようにしています。これは、「はやぶさ」探査機が小惑星から離れる12月上旬まで継続する予定です。

 残念ながら、ミネルバのチャレンジは不完全燃焼のまま終了しました。しかし、いくつかの成果を挙げることはできました。

 まずは、電気二重層コンデンサというバッテリを宇宙に初めて持っていき、その有効性を実証できました。「ミネルバ」ロボットがー65℃と極低温に放置されながら、何の問題もなく起動したのは、この電気二重層コンデンサのおかげです。

 搭載している自律ソフトウェアや、軽量な放出メカニズム、超小型衛星としての機能は一通り確認できました。ロボットが取得した温度データは、小惑星の科学的な観点から意味がある可能性があります。放出後18時間にわたって多くのデータが取得できましたので、今後はこの解析を行ないます。

 「ミネルバ」は“MIcro/Nano Experimental Robot Vehicle for Asteroid”から名付けており、実験ロボットという位置付けです。小惑星表面の科学観測データを直接取得することはできませんでしたが、ロボットの工学実験という点では満足できるものであったと思います。

 最後に、これまでミネルバを暖かい目で見守ってくれた皆様、ミネルバを作るために協力してくれた皆様、ありがとうございました。

 思えば、1997年に僕が博士課程の大学院生の時に研究を始めてから8年、2000年に宇宙研に就職して、開発を本格的に開始してから5年半、2003年に「はやぶさ」探査機の打上げから2年半と、いつの間にか長い年月が過ぎていました。「ミネルバ」は非常に短期間で開発したつもりですが、それでも10年弱の月日は経過していたわけで、宇宙ミッションの息の長さを感じます。

 今後は、今回得た有形無形の財産をもとに、一刻も早く、「ミネルバII」を実現できよう、最大限の努力をすることです。宇宙ミッションなので、何年後になるかわかりませんが、再び、皆様に良い報告ができるよう。

(吉光 徹雄、よしみつ・てつお)

 「はやぶさ」小型ローバ(ミネルバ)放出
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2005/1113.shtml

 「はやぶさ」最新情報
http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/missions/hayabusa/today.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※