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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第58号

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ISASメールマガジン   第058号       【 発行日− 05.10.11 】
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★ こんにちは、山本です。
 先週、ISASで一年ぶりにキンモクセイが香り出しました。いつまでも暑いと思っていましたが、週末から急に涼しくなり、半袖ではちょっと肌寒くなってきました。そろそろ長袖も出してこないと……
 今週は、宇宙航行システム研究系の津田雄一(つだ・ゆういち)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「はやぶさ」ゲートポジションへ
☆02:「はやぶさ」のホームポジション到着と現在の探査機の状況について
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★01:「はやぶさ」ゲートポジションへ

 9月12日の相模原管制センター。
 この日はやぶさは、イトカワへ到着すべく、最後のエンジン噴射(「デルタV」と呼ぶ)をすることになっている。
 管制センターには、毎日の運用を担当する運用スーパーバイザー(私)と運用当番、コマンダー、地上局運用担当、探査機システム担当が配置についている。隣室には、姿勢系担当、軌道計画担当、運用計画担当、それに観測機器担当者が詰めており、それぞれの人が今日の運用中のイベントを正しく実施し、またその結果を即座に解析できるよう、絶え間なく作業を続けている。日本時間AM5:50にはやぶさからの信号を入感。長野県にある臼田深宇宙局の64mアンテナが、予定通りはやぶさの信号(テレメトリ)を受信し始めた。運用当番とコマンダーとの間で基本ステータスの読み上げが始まる。
「アンテナ?」・・・「HGA」
「ビットレート?」・・・「8Kbps」
「フォーマット?」・・・「モード9」
・・・

 入感チェックは正常。
 同時に、はやぶさからは、データレコーダに記録された前日の運用終了からこの日の運用開始前までの探査機の状態と観測データが送られてきている。はやぶさと地球との距離は約3億km。光の速さで20分もかかる距離だ。この20分を無駄にしないために、探査機は臼田入感の20分前にデータレコーダ再生を自動的に開始するように、設定されている。
 AM10時の最終「デルタV」に向けて、探査機の設定が始まる。LIDAR(探査機とイトカワの距離を計測するレーザー)ON手順実行。航法モード設定開始。
 一方でその合間にも、観測は欠かさない。AM8:35に、狭視野光学航法カメラでイトカワを撮影し、その撮影データの再生を行う。AM9:22、デルタVパラメータを送信。設定値は、イトカワとは逆の方向に0.073m/s。イトカワにゆっくり近付いていたはやぶさを、完全にイトカワに対して静止させる加速度だ。
 AM10:00、「デルタV」実行。地上ではまだうまくいったかはわからない。20分後、ドップラーモニターで、イトカワとの相対距離変化率がすとんと落ちたのを確認。誤差0.25mm/s。はやぶさがイトカワ上空で静止した! すぐに次の作業に移る。今度は観測に適した小惑星指向姿勢に移すための、姿勢制御設定を送信。この姿勢で、LIDARでイトカワとの距離を測ることが出来る。AM11:30、小惑星指向制御開始。姿勢制御完了後、LIDARが測距データを出力し始めた。距離はおよそ20km。確かにはやぶさはイトカワ上空20kmで静止していることが確認されたのだ。
 緊張の続く運用だが、合間には、管制センターではイトカワ到着を喜ぶ記念撮影と拍手が沸き起こった。ほっとした顔、自信に満ちた顔、気を引き締めている顔が管制室を出入りし、いつもより明るい管制センターの雰囲気を作っていた。PM4:30に臼田局の運用を終了。その1時間後には米国深宇宙ネットワーク(DSN)のアンテナと相模原管制センターを結んだ運用が始まる…

 それからのはやぶさは、高度20kmに停滞して、イトカワの観測をし続けています。奇妙な顔をしたイトカワの姿を、皆さんもホームページや新聞などでお楽しみいただいていると思います。今後はやぶさは、イトカワの科学観測とともに、イトカワとの相対位置自律制御など、工学実験機の名にふさわしい運用を実施していきます。そして11月にはいよいよ着陸・サンプル採取です。着陸地点の選定作業はすでに始まっていますが、12時間周期の自転をしている、思った以上にデコボコなイトカワに安全に着陸できるよう、連日不休の慎重な作業が続いています。この世界初の試み、はやぶさのこれからに、どうぞ皆さんもご注目ください。

(津田雄一、つだ・ゆういち)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※