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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第53号

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ISASメールマガジン   第053号       【 発行日− 05.09.06 】
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★ こんにちは、山本です。
 ISASメールマガジンは今週号で満1年になりました。第1号の配信数107から第52号は1725まで増加しました。最近はISAS発信のニュースが多くて、その度にISASメールマガジンの配信数が増加しています。もう少しでISASニュースの出版部数を超えそうです。
 今週は、1周年記念号として「イトカワ」到着目前の「はやぶさ」のことを宇宙探査工学研究系の橋本樹明(はしもと・たつあき)さんに書いていただきました。
 「はやぶさ」の現況とこれから、運用チームのこと等、ISASのウェブページも合わせてお楽しみください。

── INDEX──────────────────────────────
★01:遠路はるばる、イトカワまで来ました。
☆02:「はやぶさ」、軌道上ではじめて小惑星イトカワの形状捕捉に成功!
☆03:「はやぶさ」今後の予定
☆04:ワイヤレス・マルチチャンネル測温システムの共同開発について
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★01:遠路はるばる、イトカワまで来ました。

 2003年5月9日に打ち上げられた工学実験探査機「はやぶさ」は、目的地である小惑星イトカワのすぐそばまで来ています。「はやぶさ」は惑星の周回軌道に入るわけではないので、何時をもって「到着」と言うかは難しいのですが、8月28日の時点で軌道計画上の到着をしています。2年4ヶ月にわたって運転してきたイオンエンジンによる軌道制御はノルマを達成し、地球にむけて帰路に就くときまでしばらくお休みします。現在は、化学推進(ヒドラジンという燃料と酸化剤を反応させて推進力を得るロケットエンジン)を使って、最終的な接近軌道調整を行っているところです。搭載カメラで撮影したイトカワも、点像からそろそろ形が見えるようになってきました。最新の画像は適宜Webにアップしていきますので、ISASホームページに注目していてください。

 「はやぶさ」は、9月中旬にはイトカワから20km程度の地点に到着し、しばらくこの位置でイトカワの予備的観測およびイトカワとの相対位置を安全に保つ制御の試験などをします。10月にはさらに7km程度の地点まで接近して詳細な科学観測を行う予定です。この9月中旬を「到着」と呼ぶのが一番自然かも知れません。11月には、イトカワへ着陸して表面のサンプルを採取する予定です。物理的に到着=接触するのは、この時になります。

 これまでの運用は苦難の連続でした。まだ誰もやったことの無いことをやろうとする工学実験の宿命かも知れませんが、(想定の範囲内ではありますが)いろいろな事態が発生し、そのたびにプロジェクトチーム一同の努力と関係各位のご支援により乗り切ってきました。他の科学衛星と比べて、「はやぶさ」の運用には難しいところがいくつかあります。地球からはるか遠い宇宙空間を飛翔しているため、探査機と交信するのに往復で40分近くかかってしまいます。探査機に指令を送っても、その動作を確認するのは40分後、間違った対処をすると手遅れになりますし、手順をよく考えて計画しないと1日約8時間の運用時間はあっというまに終わってしまいます。また通信回線も細く、遅いときは8bpsの通信速度、64kbpsの携帯電話と比べると約八千分の一という遅さです。このため「はやぶさ」には、探査機が自分で判断して行動できるようにたくさんの自律化機能を盛り込んでいます。自律機能と言うと人間は何もしなくても良いように思われがちですが、その設定をするのは担当者です。軌道上で起こるいろいろな状況の変化に応じて、この設定を間違いなく変更していく作業は大変緻密な思考を必要としますし、探査機の設定を変更する前に地上でシミュレーションをして確認する必要があります。

 このような制約もありますが、「はやぶさ」の最も難しいところは、「長期の運用の中断が許されない」ところだと思います。科学衛星は、衛星重量、予算、マンパワー等の制約の中で科学的成果を最大限に上げるため、実用衛星のように24時間動作し続けるような完全冗長系は用意しておらず、衛星に何か異常があった場合は観測を中断し、とりあえず衛星の安全を保つセーフホールドモードに移行するように設計されています。この状態で、何が起こったのかを地上で解析し、その対処法を検討してから観測を再開のための運用に入ります。しかし「はやぶさ」は、イオンエンジンの運転を長時間停めるとイトカワに到着できなくなってしまうため、セーフホールドモードに入ることは極力さける必要がありますし、異常が起きた場合にはなるべく短時間で状況の解析をし、すぐに(できればその日のうちに)再立ち上げする必要があります。そのため関係者は、いつでも対応できるように心構えをしておく必要があります。

 というわけで、プロジェクトチーム一同は気が休まらない日々が続いてきましたし、今後も続いていくでしょう。このようなことは、プロジェクト外の関係各位の協力があってこそ実現できることです。これからもご支援よろしくお願いします。

(橋本樹明、はしもと・たつあき)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※