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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第49号

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ISASメールマガジン   第049号       【 発行日− 05.08.09 】
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★ こんにちは、山本です。
 今週は、前回お約束した、きみっしょん事務局の竹井 洋(たけい・よう)さんです。
 先週「きみっしょん」で使用していた新A棟の会議室は、朝から夜まで参加高校生の熱気に溢れていました。

── INDEX──────────────────────────────
★01:「きみっしょん」の興奮をお伝えします
☆02:ペンシルロケット水平発射の再現実験、成功裏に終了
☆03:INDEX衛星、打上げ日決定
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★01:「きみっしょん」の興奮をお伝えします

 先週1週間(8月1日から5日まで)、宇宙科学研究本部(以降宇宙研)で「第4回君が作る宇宙ミッション(通称きみっしょん)」という高校生向けの体験学習が行われました。ISASメールマガジン38号で案内をお送りしたので、覚えている方もいらっしゃると思います。今週は「きみっしょん」の興奮をお伝えしたいと思います。

 きみっしょんの主旨は、高校生が「自ら考え、自ら決定し、自ら作業する」ことにより、独自の宇宙ミッションを作り出すことです。我々宇宙研のスタッフの主な役割は、考え方、調べ方を教えること、高校生と議論することで考えを明確にしてあげること、の二点です。高校生たちは6つの班に分かれてミッションを作り上げました。一週間というミッション作りには短い期間でしたが、高校生たちは全力でミッションを作っていき、発表を行いました。発表後の、そして最終日の高校生の充実感あふれる笑顔を見ると、こちらもうれしくなってきますね。いい体験になっただろうと信じてやみません。

各班の研究テーマは
1.宇宙農業トマトミッション 〜 トマト作っちゃろか 〜
2.エウロピアンを求めて
3.STAR MARS episode 3 火星大気の地球化
4.月魂(つきだましい)
5.プチ家出 from 太陽系
6.Want to Know Your Everything 干渉望遠鏡による系外惑星探査

でした。ここではあえてそれぞれのテーマの詳細には触れませんが、すべてのミッションが世界のどこでも実現できていないものです。参加者たちはどうすればそれらを実現できるかを宇宙研に泊まり込みで調べ、考えました。以下でその様子を詳細に見ていきましょう。


 8月1日午後2時、28人の高校生が宇宙研にやってきました。北は北海道から、南は沖縄まで、まさに日本全国から集まった宇宙が好きな子どもたちです。彼らは宇宙研に泊まり込みで宇宙ミッションを作っていくのです。1日目には先生から「宇宙ミッションとは何か」「宇宙科学は何のために研究するのか」といった講義を受け、その後所内見学を行いました。今年度打ち上げる本物の人工衛星を見たり、組み立て中のロケットや大きな人工衛星の試験装置を見学したりと、他では見ることのできないものをたくさん見ることができたのではないでしょうか。そして、見学が終わったら懇親会です。はじめて出会った高校生同士、高校生と学生スタッフが自己紹介をして親睦を深める場なのですが、高校生の体験学習なので当然お酒はありません(笑)。それでもおしゃべりを通じて打ち解けてくれたかな、と思います。

 一夜明けて2日目からはいよいよ本番の宇宙ミッション作りです。参加者は6班に分かれ、班ごとに宇宙ミッションを作るのです。「宇宙ミッションづくり」といっても、宇宙研の実験室を使ってモノづくりをするわけではありません。未だ世界のどこでも実現できていない「宇宙ミッション」を実現させるべくミッション目的、ミッション実現のための必要条件、実現のための手法、を考えていくのです。「新しい宇宙ミッションの計画書づくり」というたとえが近いかもしれません。

 きみっしょんに参加する高校生たちはそれぞれ「自分が実現させたいミッション」を胸に秘めています。しかし、すべての班員が同じミッションに興味があるわけではありません。宇宙ミッション作りの最初の一歩は各班で一つの明確なテーマを決めることです。テーマが決まったら次はそのテーマを実現するための方法を調べ、考えます。文献を引き、最新の情報を得るにはインターネットも活用します。さらに詳細を知るために論文を読むこともあります。こうして調べていく過程で、自分の考え出したミッションがJAXAやNASAの計画と似ていることに気づいてショックを受けることもしばしば。研究を続けていくうちに、少しずつ最初のテーマとずれていくこともあります。実は、これって本物の宇宙ミッションでもよくあることなんですね。いろんな視点から物事を考えることで、よりよいミッション計画が見つかる。その場合、研究者は躊躇なくミッションの変更をしていくんですね。高校生もそのような体験ができたのではないでしょうか。調べていくだけではなく、高校生からは奇抜なアイデアも飛び出します。時には、頭の固くなった我々大学院生には考えもつかないすばらしいアイデアが出てきたりします。既存の技術から知識を得るだけでなく、そこに高校生のアイデアが加わって、すばらしい宇宙ミッションができあがるのです。

 きみっしょんの中で高校生が一番緊張するのが4日目夕方の「研究発表会」でしょう。この発表会は、それまで作成してきた宇宙ミッションの成果を発表するものです。会場は宇宙研でもっとも大きな会議場、聴衆は宇宙研の先生方、さらには宇宙科学研究本部長までいらっしゃいました。部屋の照明は落とされ、大きなスクリーンに高校生たちが作成した発表資料(パソコンで作成したものです!)が投影される。高校生たちにはマイクが渡され、100人を越える聴衆に向かって研究内容を発表する…。私が発表者であっても緊張すると思います。けれども、高校生たちは堂々と、研究内容を発表し、質問にも堂々と答えていました。4日間のがんばりのおかげだろうと思います。研究発表会という大きなイベントをクリアしたあとはバーベキューで打ち上げ。天候にもめぐまれて、高校生も宇宙研スタッフも、みな笑顔で楽しんでいました。

 一夜明けた5日はいよいよ最終日。反省会をして、記念写真を撮って、おみやげを買って、お昼過ぎにはお別れです。淵野辺駅での高校生の充実した、そしてちょっとだけ寂しそうな顔が忘れられません。これから10年もしたらきみっしょんに参加した高校生たちの進路も決まるんだろうなと思います。宇宙の研究をする人もいれば全然違う道に進む人もいるのでしょう。どんな道に進んだとしても、きみっしょんのことを覚えていてくれて、きみっしょんで学んだ「自ら考え、自ら決定し、自ら作業する」体験が役に立ってくれたら。すごく素敵なことですね。

 高校生が帰った金曜日の晩、スタッフはビールを片手に盛り上がりました。高校生の体力はすばらしいもので、この一週間、スタッフの方が疲れていたり。それでも、その分スタッフとしても充実感がありました。高校生にとってだけでなくスタッフにとっても長い一週間は、こうして終わりを迎えました。

(竹井 洋、たけい・よう)

「第4回君が作る宇宙ミッション」
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/kimission/

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※