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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第25号

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ISASメールマガジン   第025号        【 発行日− 05.02.22】
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★ こんにちは、山本です。
 2004年度の宇宙学校も2月6日の東京で終了しました。2005年度も校長先生を先頭に、日本のアチコチへ宇宙の楽しさを広めるために行脚してもらいましょう。
 今週は、固体惑星科学研究系の岡田達明(おかだ・たつあき)さんです。

―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:月はまだまだ未知の世界!
☆02:「宇宙学校・東京」盛況裡に終了
☆03:ISASメールマガジンのバックナンバー
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★01:月はまだまだ未知の世界!

 固体惑星科学研究系の岡田です。今回は究極の月リモートセンシング計画「セレーネ」のお話です。月は私たちにとって一番身近な天体ですが、まだまだ分からないことだらけです。今さら月?なんて思わないで下さい。今こそ月!なのです。

 今から30数年前に、人類は月面に降り立ちました。砂漠のように荒涼としたその大地に合計12名のアポロ宇宙飛行士が足跡を残しました。彼らは月面上で地質調査や様々な科学計測を行い、また表面の石や土壌のサンプルを地球に持ち帰りました。それらの観測データを基に、月の科学研究が盛んに行なわれてきました。その結果、月は地球から近いだけでなく科学的にも身近になったのです。

 私たちの暮らす地球の表面の岩石が作られたのは、今からせいぜい数億年前です。発見された最古の地層の年代は38億年前ですが、その当時、既に海があり、現在の地球の姿がほぼ出来上がっていたのです。つまり、原始太陽系の中で塵が集まって地球ができた後、現在の地球になるまでに起きた様々な進化の過程は、地球だけを調べても永遠に分かりません。一方、月面には40億年を超える岩石が広く分布することが明らかになりました。「最古の石」は45億年以上前、すなわち太陽系の年代とほぼ同じです。月は惑星の進化を辿る歴史的シーンを、地質サンプルという化石として現在に留めているのです。例えば月の研究から、先ず「マグマの海」ができ、そこから月の地殻が形成されたという一番初期の進化の過程がみえてきました。これは地球、金星、火星、水星など地球型惑星と呼ばれる岩石惑星に普遍的な進化過程と考えられています。しかし、当初からアポロのわずか数箇所のデータが月全体の普遍的特徴を示すのか、局所的でしかないのか懸念がありました。最近10数年で、米国による月の全球的なリモートセンシングが史上初めて行なわれ、月の地質が地域ごとにぜんぜん違う、多様性があることが分かりました。アポロの成果の多くは、実は地域限定品だったのです。

 月周回衛星「セレーネ」は、世界初の本格的な月全球探査で、なんと14種類の科学観測機器を搭載し、月面全球に対して高精度かつ高分解能なリモートセンシングをします。月全域の地形・地質構造、元素や鉱物の組成、重力場などを過去に比べて数倍、あるいは数桁詳しく調べます。上手くいけば、その結果から月の初期進化過程、月の地殻形成史について理解が飛躍的に向上するでしょう。それは全ての地球型惑星の初期進化の過程に応用されます。「セレーネ」は現在、2006年度の打上げを目指し、衛星や観測機器の試験を進めています。「セレーネ」は最初のステップに過ぎません。その後も着陸表面探査など、月の科学探査は精力的に行なわれるでしょう。何故なら、月は地球をはじめとした全ての惑星科学研究の基本だから。また、将来の月利用のための基礎データ提供としての重要性もあります。月探査は今が旬です。

(岡田達明、おかだ・たつあき)


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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※