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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第19号

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ISASメールマガジン   第019号        【 発行日− 05.01.11】
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★ こんにちは、山本です。
 年明け早々の6〜7日に第5回宇宙科学シンポジウムが開かれました。今週 も宇宙利用シンポジウムが開かれます。
 今週は、宇宙プラズマ研究系の吉川一朗(よしかわ・いちろう)さんです。

―― INDEX ――――――――――――――――――――――――――――――
★01:水星の超真空大気の生成
☆02:「宇宙学校・倉敷」「宇宙学校・東京」開催のお知らせ
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水星の超真空大気の生成

 教科書によると、「水星には希薄な大気がある」と書いてある。どれくらい希薄かというと、地球の一兆分の一程度と考えられている。いろいろな仮定を用いて計算すると1cm3(cm3:立方センチメートル)あたりの原子や分子の個数は10万個程度になる。一方、我々が一般的に「真空」と呼ばれる環境で実験を行う時は1cm3あたり1000億個もの原子や分子が存在する。つまり、言葉の使い方から言えば水星周辺にあるものは「大気」ではなく、真空を越えた超真空大気なのである。

 この水星の極希薄な「大気」が発見されたのは1974年に水星に接近したアメリカの探査機マリナー10号によってである。この探査以前の地上観測では水星の周りには、地球や金星に豊富に含まれる二酸化炭素は存在しないことが明らかにされていた。そのため、水星探査機による大気の観測では、地球型惑星に固有に含まれるアルゴンやネオンなどの希ガスと呼ばれる成分と太陽に起源を持つ電荷を持った水素やヘリウム粒子(太陽風)の検出に重点が置かれた。探査の結果、水素とヘリウムだけが観測され、地球型惑星固有の大気(希ガス)は見つからなかった。当時の研究者達は、水星は太陽に近く、小さい惑星なので、惑星から生成された大気は吹き飛ばされて無くなってしまったのであろうと考えた。

 しかし80年代に入ると、思わぬ発見が生まれた。PotterとMorganという研究者は当時盛んに開発が行われていた地上大型望遠鏡を使って太陽と地球の大気に関する研究を行っていた。彼らの研究は水星とは無縁のものだったが、ひょんなきっかけから水星に望遠鏡を向けてみると、その方角からナトリウムの固有の輝線が発せられていることに気づいた。

 さて、ナトリウム大気がどうして存在しているのか?実は解っていないのである。水星表面の岩石との相互作用で生成されたことは世界中の科学者の中でも意見がほぼ一致しているがナトリウムを放出するメカニズムが解らない。太陽光照射によって放出されたとされる説、太陽風の照射がその主な原因とする説、微小隕石の落下により岩石が気化するのが原因であるなど学説は色々とある。しかしいずれの説も十分な根拠がなく想像の域を出ない。

 日本の研究者達はこの成因を突き止めようと研究を重ねてきた。その結果、この大気を生み出す成因の違いで水星周辺のナトリウム大気密度の分布に違いを生じることが、計算機シミュレーションから見出された。したがって、水星周辺に漂うナトリウム大気の実際の分布がわかれば、これらの計算結果と照らし合わせることでナトリウム大気が発生する原因がわかると考えている。日本の科学者たちは、ナトリウム大気を写真に収めることをBepiCOLOMBO計画で実現しようとしている。

新しいウィンドウが開きます http://www.stp.isas.jaxa.jp/mercury/index-j.html

国際水星探査計画BepiColombo 探査機搭載観測装置が決定
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2004/1207.shtml

(吉川 一朗、よしかわ・いちろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※