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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第14号

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ISASメールマガジン   第014号        【 発行日− 04.12.07】
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★ こんにちは、山本です。
 師走なのに台風(温帯低気圧でしたが)が来たり、夏日になったり、今は本当に冬なのでしょうか?
 今週は、赤外・サブミリ波天文学研究系の松原英雄(まつはら・ひでお)さんです。

―― INDEX――――――――――――――――――――――――――――――
★01:天の川を赤外線で見ると?
☆02:S-310-35実験班・アンドーヤ便り
☆03:「星生成領域の遠赤外スペクトル線マッピング観測」大気球実験成功!
☆04:「ようこう」の成果について/成果と貢献、今後への展開
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★01:天の川を赤外線で見ると?

= 赤外線天文衛星ASTRO-Fの挑戦 =

 良く晴れた暗い夜空(新宿では無理ですが・・)にぼーっとうかぶ天の川、見ることができた人はその壮大さにきっと感動したことと思います。この天の川、実は我々の銀河系円盤を大体真横から見ているのだ、といわれても俄かには信じられないですよね?なぜって、ところどころ黒く穴があるし、他の銀河のような中心方向の丸い部分(バルジと呼ばれています)も肉眼ではよく判らないからです。どうしてはっきり、銀河系円盤が見えないのか?それは、銀河系には星だけでなく希薄ではあるがガスと塵の雲があるためなのです。特に塵が厄介者です。大きさは0.1ミクロンかそれ以下しかないにもかかわらずとても効率よく星の光を吸収したり散乱したりしてしまい、しばしば「暗黒星雲」と呼ばれるぐらいです。暗黒星雲が銀河の円盤のいたるところにあるために、我々からみた天の川は立派な銀河系円盤のように見えないのです。

 でも、天の川を赤外線でみるとこの塵による光の吸収や散乱は、劇的に少なくなります。目で見える光で、塵によって10等級暗くなった星は、波長2ミクロンの赤外線では、わずか1等級暗くなるだけです。このおかげで、赤外線を使えば銀河系の大部分を見渡すことができます。もう15年も前になりますが、NASAの打ち上げたCOBE(宇宙背景放射探査衛星)は、まさに我々の太陽系が立派な銀河円盤の端にあって、天の川の正体が銀河系円盤であることをまざまざと見せつけたものでした。

 さらに波長の長い赤外線を使うと、「星の赤ちゃん」を見つけることができます。「星の赤ちゃん」は普通の星よりもずっと低温でその光は目には見えません。ところが波長の長い赤外線では光っているのです。しかも、「赤ちゃん」ですから、その母なるガスや塵の雲の奥深くに埋もれている状態でしょうから、これまでなかなか見つけられずにいるのです。これが「幼児期」の星−難しい言葉で言えば前主系列星の段階になると、母なる暗黒星雲からは飛び出していて波長2ミクロンぐらいの近赤外線では見えるようになるのですが。

 さて、JAXA宇宙科学研究本部では、赤外線天文衛星ASTRO-Fを近いうちに打ち上げるべく準備を進めております。ASTRO-Fは、波長9〜160ミクロンの赤外線で、全天のほとんどをまんべんなく観測する(「掃天」=サーベイともいいます)ことを主目的にした衛星で、もう20年も前になる世界最初の赤外天文衛星IRASのいわば正統な後継者です。ASTRO-FはIRASに比べて、より長い波長までカバーしたサーベイ観測を、はるかに高い解像度で行うことができますので、IRASに比べて格段に多くの「星の赤ちゃん」を見つけることが期待されています。一方、アメリカNASAは、2003年8月に、やはりスピッツアー宇宙望遠鏡とよばれる赤外線天文衛星を打ち上げました。ASTRO-Fの望遠鏡の口径は約70cm、対してスピッツアー宇宙望遠鏡のそれは85cm(まあ、ちょっと大きいがそれほど違わない)。観測する波長も3.6−160ミクロンでASTRO-Fに似ていますが、一番大きな違いは、スピッツアー宇宙望遠鏡は、天文台型の天文衛星である、というところでしょう。搭載している観測装置も、サーベイ観測には向いていません。むしろじっと同じところを見続けて、とても暗い天体を見つけたり、分光スペクトルを取得するのに向いています。面白いことに、スピッツアー宇宙望遠鏡は、我々の銀河系円盤を観測することができません−搭載する観測装置の制約から、どんなに短時間で露光をやめようとしても、天の川からの赤外線が明るすぎて、装置a条が目がくらんでしまうのです!ASTRO-Fの場合、一周100分で観測する方向を常に移動しながら観測するので、このような明るすぎて目がくらむ、というのを避けることができますから、必ず高い解像度の銀河面の赤外線地図を作ることができるでしょう。

 M-Vロケットで、X線天文衛星ASTRO-EIIが、無事宇宙に行ったその日がきたら、次はASTRO-Fの番です。乞うご期待!

ASTRO-F衛星の概要は
新しいウィンドウが開きます http://www.ir.isas.ac.jp/ASTRO-F/Outreach/index.html

(松原英雄、まつはら・ひでお)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※