第1章 日本の宇宙開発のはじまり

カテゴリーメニュー

ロケット・シリーズの名称

東京大学生産技術研究所の若い研究者たちが「ロケットをやろう」という意気に燃えて集まった経過については、すでに触れた。その時、ロケットをどのように大型化していくかについての議論があり、とりあえず、タイニー・ランス→ベビー・ランス→フライイング・ランスという順序で開発していこう、ということになった。

「ランス」とは投げ槍のことである。タイニー・ランスは後に「ペンシル」と呼ばれるようになり、ベビー・ランスは「ベビー」に、そしてフライイング・ランスは「アルファ」と改名されたのだが、これ以後、彼らはアルファ→べ一タ→カッパ→オメガと徐々に大型のロケットを作っていこうと考え、オメガ型で20kgの観測機器を100kmまで上げることを目標としていた。アルファロケットは、推薬量を3kg、推力525kg、燃焼時間1.14秒のロケットエンジンをもつ試験用のもので、ベータはこれを2段あるいは3段にして多段式の研究をするためのものとされた。

しかしIGYに間に合わせるために開発のテンポを速める必要が出てきて、アルファとベータは机上計画と一部のエンジンの地上燃焼試験だけを行って、いきなりカッパ型に進んだのである。当初べ一タからガンマとかデルタなどギリシャ文字のアルファベットの途中を省略していきなりカッパに跳んだのは、「カッパ」という言葉の歯切れの良さをかったものである。「河童」とは関係がないが、語感が大変ユーモラスで、一般からも随分と愛された。

カッパロケット

カッパロケット

ギリシャ文字のアルファベットをロケットの名にすることは、スムーズに決まったわけではない。初めは「ぎんが」とか「かもめ」とかの急行列車の名前が速そうだからいいとか、日本のロケットらしく「高砂」とか「紅葉狩」とかの能の曲名がいいとか、色々な意見が出た。どれも一長一短だったところへ、糸川英夫の鶴の一声でギリシャ文字に決まったらしい。カッパ(K)の後は、ラムダ(L)→ミュー(M)と進んだ。

余談ながら、外国でもロケットの名前には苦労しているようだが、ギリシャ・ローマ神話の主人公からとる場合が多いようである。たとえばアポロの飛行士たちを月へ運んだサターン・ロケットの「サターン」は、もともとはローマ神話に出てくる農業の神様で、後にはギリシャ神話のゼウスの父クロノスに擬せられた。「アポロ」というのも、ギリシャ神話に登場する太陽の神様である。

いま世界のロケット市場を席巻しているヨーロッパのアリアン・ロケットは、ギリシャ神話のアリアドネというお姫さまのことである。一度入ったら二度と出てこられない迷路の中にいる怪物を退治しようという恋人テーセウスに、アリアドネは糸巻きを渡して素晴らしい知恵を授ける。「迷宮の入り口からこの糸をほどきながら怪物を探しなさい。退治したら糸を逆にたどれば入り口にたどりつけるはず」──けだし名案である。宇宙へ飛び出すときに「アリアドネのように賢い手助けをしますよ」という示唆であろうか。なかなかいい響きの名前である。中国の「長征」も、中国の人々にとって忘れられない歴史を象徴していてステキな名前である。

読みかけのページとして記録する

「読みかけのページとして記録する」について