第1章 日本の宇宙開発のはじまり

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ロケットのように走る男

当時の手動式アンテナ

こんな話もあった。ある日の午後、若い技術者が海岸を全速力で走っている。それが何とも奇妙な格好なのだ。頭に何か四角い箱をくくりつけている。風邪を引いた時の氷嚢にしては、猛烈なスピードで駆けているのが怪しい。その若者はちょっと走っては横を向き何かを確かめるように見つめ、また走っては横を見る、という動作を繰り返している。

──もっとちゃんと追いかけてくれなきゃ困りますよ。こっちだって必死なんだから。

彼ががっかりしたような表情で叫んだ時、すべては氷解した。彼が頭に乗せていたのはロケットに搭載するトランスポンダー。ロケットの位置を知るため、地上のアンテナから発せられた電波を受けとめて、すぐ返事の電波を地上へ送る受信器と送信器を兼ねた機器である。追跡するレーダーアンテナが「手動式」であるため、アンテナ操作を行う人間は猛練習をする必要がある。ところが海岸から見える動く物体は船ばかり。こんな遅いものでは練習にならない。そこで彼が、糸川の命令で、ロケットの代わりにロケットと同じ速さで走って(まさか!)、アンテナ追尾のリハーサルを助けたのである。

何度もダッシュを繰り返すうち、肝腎の打上げの時にはヘトヘトになってしまい、とても実験どころではなくなったそうである。実験のたぴに何人かの健脚が選ばれたらしい。明星電気の下問榮、東大生研の長谷部望たちはその「犠牲者」であった。

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