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ISASニュース

ちっちゃい水星が太陽の前を通過

No.423(2016年6月)掲載

 5月9日に水星が太陽面を通過していく現象(水星太陽面通過)が欧米を中心に地上から観察されました。欧米の天文台(米国国立太陽天文台やビッグベア天文台など)や衛星(SDO、IRIS)がとらえた通過の様子がこぞってネット上で速報され、欧米では結構な盛り上がりを見せていました。

 この現象は、ちょうど日本の夜に起きたために日本ではほとんど話題に上りませんでしたが、日本の太陽観測衛星「ひので」がその通過をとらえていました。「ひので」にとっては、打上げ後間もない2006年11月9日の観測以来、2回目となる珍しい機会でした。

 水星太陽面通過は稀な現象なので、一般の人の関心が得られやすいものです。例えば、2012年6月6日に観測された金星の太陽面通過では、「ひので」の可視光磁場望遠鏡がとらえた精細な画像は新聞一面に掲載されるなど大きな注目を集めました。惑星の太陽面通過は、太陽・惑星の大きさやそれらの距離感を学校の生徒さんに肌で感じてもらえることから、教育目的で有効な活用ができます。また、観測装置がもつ解像度や散乱特性を評価するための較正データとして価値があります。さらに、惑星大気の診断への応用も考えられます。太陽光が水星周りにある希薄な大気を通過してくる際に偏光が生じるかもしれません。可視光磁場望遠鏡のストークス・ポラリメータで精密に取得した偏光プロファイルから水星の大気状態を診断できれば興味深いことです。

 水星は、約7.5時間かけてゆっくりと太陽の東縁から西側に移動していきました。地球から見た水星は、太陽の見かけの大きさに比べて、米粒のようです。この時の水星の視半径は6秒角ほどであり、太陽の視半径の約1/160しかありません。現在JAXA は、この水星に探査機を送り込むべく、水星磁気圏探査機(MMO)の準備を進めています。

 なお、画像や動画は、「ひので」プロジェクトページにて公開されています。

(清水 敏文)

「ひので」に搭載されたX線望遠鏡がとらえた水星の移動。

「ひので」に搭載されたX線望遠鏡がとらえた水星の移動。太陽の東側縁に広がる太陽コロナの手前に水星がシルエットとして見えている。[画像クリックで拡大]