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ISASニュース

ASTRO-H(「ひとみ」)の機能喪失の原因究明について

No.423(2016年6月)掲載

 すでに報道されているとおり、2016年2月17日に打ち上げたX線天文衛星ASTRO-H(「ひとみ」)は、試験観測中であった3月26日に衛星からの電波を正常に受信できず、その後の調査で衛星の機能を喪失したと判断したため、2016年4月28日に復旧運用を断念しました。

 異常事態発生の当日に、理事長を長とする対策本部およびISAS所長を長とする原因究明チームをJAXA内に設置し、背後要因を含めた原因の究明に取り組んできました。「衛星」から得られたテレメトリデータの解析、搭載ソフトウエアを用いたシミュレーション検討、設計審査や開発試験のデータ等をもとに調査を進めました。その際、宇宙科学研究所のみならず、JAXA全体の専門家が参加し、開発を担当した関係者および企業からも聞き取り調査等を行い、積極的な協力を得ました。調査結果は、宇宙開発利用部会(文部科学省 科学技術・学術審議会)において報告し、またX線天文衛星「ひとみ」の異常事象に関する小委員会にてその妥当性が評価されました。

 調査で明らかになった衛星の機能喪失に至る異常発生メカニズムは、以下のとおりです。詳細は下記JAXA ホームページに出ています。
( http://fanfun.jaxa.jp/topics/detail/7243.html )

  1. 衛星の姿勢変更運用終了後、姿勢推定中に慣性航法装置のバイアスレートが高い値に保持され、実際には衛星が回転していないにもかかわらず、姿勢制御系は衛星が回転していると自己判断した。その結果、その回転を止めようとする向きにリアクションホイール(RW)を作動させ、衛星を誤って回転させるという姿勢異常が発生したのがきっかけである。
  2. 姿勢制御系が実施する磁気トルカによる角運動量のアンローディングが姿勢異常のため正常に働かず、RWに角運動量が蓄積し続けた。
  3. 姿勢制御系はこの状況を危険と判断し、衛星を安全な状態とするためにセーフホールドに移行し、スラスタを噴射したと推定される。その際、姿勢制御系は不適切なスラスタ制御パラメータにより、想定と異なる指示をスラスタに与え、その結果衛星の回転が加速する作用を与えた。
  4. 衛星の想定以上の回転運動(数秒に1回転)により、太陽電池パドルと伸展式光学ベンチなど回転状態で発生する力に対して構造的に弱い部位が破断し分離したと推定される。特に太陽電池パドルについては、取付部周辺で破損し、両翼とも分離したと考える。

 その後の分析により、異常発生の要因として、設計時におけるシステム全体の安全性が検討不十分であったこと、運用において、初期運用段階でのリスクを過小評価し、運用手順書の整備や運用訓練が不十分であったこと、不適切なパラメータ設定においては、データ入力誤りや検証の漏れ等人的ミスを見逃さない仕組みの不備等が挙げられます。原因および背後要因を精査し、ニ度とこのようなことが起こらない対策が急務です。

(久保田 孝)